ブリル・マキシマム台車22E
back number Vol.80, Dec. 16, 2001, re-edited on July 10, 2010
The Brill Eureka Maximum-Traction Truck, PATENTED
Eureka Maximum-Traction(ユリーカ・マキシマム・トラクション)台車は基本的には、ほとんどの市街鉄道の過酷な使用条件に合うように作られた市街電車用汎用台車です。
運転間隔が短く、頻繁に停車するような路線では、乗り降りする乗客の速やかな動きを助ける設備が必要です。その解決策の一つにステップの高さの適正化があります。
この台車は、車両を単台車と同じくらい低床とする事が出来ます。また、単台車の車両よりも長い車体を採用できるという特徴も兼ね備えています。台車の回転中心は仮想の点で、駆動軸の6インチ内側にあります。このような構造にすることで、この台車は低床オープンカーと同じ様にクローズド・カーにおいても、モーターと動輪がもたらす車体の梁位置に対する制約は少ないものとなります。【画像はクリックで拡大します】
荷重を動輪軸箱守(large yokes)近くのサイドフレーム上に加えることで、荷重の75%を駆動軸に掛けます。そして、そのことが素早く加速し、急勾配を昇るという牽引能力をもたらします。カーブを曲がるときは、車体に取り付けたV形プレートを介して、従輪の間にあるスプリングが圧縮されます。曲線上を動いている間は、直線上にあるときに較べて、車輪をガイドするためにより多くの荷重が必要なのです。
横向きのボルスターがありませんので、大容量モーターのためのスペースが確保できます。そして、台車中心ピンが完全に無いのでモーターの点検や接続が容易になります。異なる比率の水平テコを含んだブレーキシステムはそれぞれの車輪の荷重分担に比例しています。それ故、滑走はほとんどありません。台車は鋳物のサイドフレームと鍛造部品から成っています。
標準仕様は、ホイールベースが4フィート、従輪径20インチ、動輪径が30または33インチとなっています。30インチ動輪タイプではクローズド・カーの乗降口ステップ寸法はレール面上14/8インチ、ステップから踊り場までは12インチ、踊り場から床までは8/4インチとなります。オープンカーでは、レール面から中間ステップまでが18インチ、ステップから床面までが15インチとなります。クローズド・カーとオープンカータイプ共に、梁間の寸法はまったく同じとなります。
台車の回転中心は、駆動軸からわずかに台車の図面中心寄りにありますから、急曲線でも大径動輪の偏倚は非常に少なくなります。したがって、モーターの偏倚も少ないので、梁に当たることなく、また床面高さを低くしながら、大容量のモーターを導入することができます。もちろん、従輪の偏倚が増えますが、直径も非常に小さく、この従輪の上には台車枠を張り出していませんので、梁だけでなく、オープンカー・タイプのステップにも当たることはありません。モーターは、ステップ用の梁を切ることなしに、ホイールベースの中に納まってしまいます。
この台車の牽引力は端梁または、このために特に設けられた梁にしっかりと固定されたキングボルトによって伝えられます。そして、2つの短い梁の間に固定された鋳物で支えられます。そして、Tバー端梁に固定された鋳物に開けられた半円形スロットを貫いてスライドするブロックを下方へ張り出し、台車とつながります。この機構によって、モーターを収めるために台車中心付近を完全に解放できた上、センタープレートと横向きのボルスターの必要がなくなりました。したがって、モーターは車輪直径に対して実用上最大容量となります。従来のように、ステップ用の梁を損なうことがなくなり、本来の機能を発揮するようになります。
曲線通過の場合を除いて、荷重は、正確に直上と外側に潤滑メタルプレートを有する側受(サイドベアリング)で支えられます。そしてそれには、車体の側梁に取り付けられた車体側々受となるアングルプレートの内面が載ります。このアングルプレートは直線路と同じように曲線路でも台車の横動きを制限するために湾曲しています。軸受の上には一組のバネ柱が装備されています。動輪軸箱守の内寄りから張り出している受を貫通し、穴は横動制限メタルのブッシュとともに固定されています。
さらに支柱は延び、大径円錐型コイルバネによって支えられて、バネが乗っているサイドフレームを貫通しています。支柱の先端は丸くなっており、また、軸受ソケットの中で支柱を囲んでいるボルトはほんの少しアソビをもたせています。
台車枠は、レールの継ぎ目や分岐で発生する振動やショックを吸収する軸バネの上に乗っています。ホイールベース間に全荷重がかかるため、台車枠は常に安定しており、ブレーキの調整を狂わせることがありません。これらの設計の成功がもたらした安定で軽やかな台車の動きは、重負荷時でも全速度域で、軽負荷の時と同様の特性となっています。
それぞれの車輪にかかるブレーキシューの押付圧力はそれぞれの車輪が負担している荷重に比例します。このことが実質的にタイヤ・フラットによる騒音と振動の不快感をなくします。
そして、通常考えられる環境下では運転中に車輪をロックしてしまうことはありません。従来はこの目的で、従輪のシューの後ろ側にブレーキ力を必要レベルまで落とすためのスプリングが使われていました。これを本台車では図にあるような実用的な方法に改善しています。この方法は実に構造単純で、調整容易となっています。
駆動軸の近くに偏らせて荷重を掛けると云うことが、この台車の最大の特徴です。荷重の75%を駆動軸に加え、それによって、急勾配を昇り、高加速で運転できる十分な牽引力を生み出します。
直線区間では、台車をガイドするのに必要な荷重だけを従輪に残しました。曲線区間では、車体に取り付けられたV形プレートによって、従輪の近くのスプリング・ポストが押し下げられます。それによって脱線を防ぐために従輪への荷重が増えます。
この考案は特許を取得しています。なぜなら、この台車をこのクラスで完全なものにしようとする欠くべからざる特徴であるからです。この機構はどんなコンディションにでも調整可能です。製造所を出る前にこの荷重の配分を調整しますので、通常はこれに関する注意は不要です。ただし、非常に急なカーブを有する路線の場合には、従輪に対する荷重の配分はカーブが緩い場合よりも増加させてやらねばなりません。
ニューヨークのメトロポリタン市街鉄道は世界でもっとも大きな鉄道網で、そこのある路線では最混雑時に10秒間隔で電車が運行されています。Eureka Maximum-Traction台車は、このような路線に正に適合する目的で開発されて、現在4,000台以上の台車が使われ、しかもボギー車ばかりで運行されていると言う事実が成功の証です。
この台車を高速郊外路線に奬めてからは、当初より数多くの成功例があります。たとえば、ブルックリン・コニーアイランド間の11マイルですが、そこのEureka台車を履いた車両は時速30マイル(約50km/h)で走行しています。このように、この台車の性能は、意図した分野を越えて拡大しています。
【訳者コメント】“Eureka”とは感嘆詞で、ギリシャの物理学者アルキメデスが、例の金の王冠の真偽を確かめるために比重の計り方を発見したときに言った言葉だそうです。俗に「やった」とか「しめた」とか訳されています。(岡秀敏)
■今回はブリル社の1905年版カタログのうち、22Eの部分です。トラクション関係に詳しい沖中忠順氏からいただいたコピーを、同氏の後輩に当たる友人に翻訳してもらい、8年前に所属していた同好会報に掲載しました。オリジナルは輸入代理店である高田商会により電鉄会社に配付されたものだろうとのことです。
Eureka台車の特徴の一つは無心皿方式ですが、ボギーするにつれて小径車輪の輪重が増えるという構造も加担し、見るからに心皿回りの回転抵抗が大きそうです。この辺りのメンテナンス如何によっては脱線が頻発したとも考えられます。
出典:Train Shed Cyclopedia No.25
『Train Shed Cyclopedia No。25』に依れば、Brill 22Eが1903年で、その6年後の1909年に39E1(左図)という台車があります。こちらも心皿位置を動輪軸に寄せて“Maximum Traction”を謳っているものの、心皿構造はBaldwin ML-2と同等の揺れ枕の一般的なもので、モーターは外吊り式となっています。またこの洋書には、30inch(762mm)動輪で床面高さを33inch(838mm)と低く採ったオープンカーが載っていて、カタログの文意と符合します。 Eureka台車は2重バネ系となってはいるものの、横(枕木)方向の緩衝機構がありません。オール・コイルバネでダンピングがないから、単台車ばりのピッチングも発生したでしょうし、やはりとんでもない乗り心地だったのではないでしょうか。
【追記】本記事を再編集するに当たって、図を1911年刊"Electric Railway Dictionary"から追加しました。特記以外のものです。右図はたぶんブリル22Eで、ブレーキ機構のメーカーの宣伝だと思います。
以下の2枚は、ブリル、ボールドウィン以外のマキシマム・トラクションです。この手の台車の需要が大きかったのでしょうか。いずれもモーターが外吊りで、心皿があります。2010-07-12
Standard Motor Truck Company No. O-45
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