暗中模索◇プラスチック用の接着剤
back number No.84 Jan. 11, 2002, re-edited on Nov. 26, 2010
鉄道模型趣味、TMS誌の2002年1月号で私が注目したのはアメリカ型ではありません。Nゲージで三岐鉄道のガソリンカーと2-6-2タンク機を完全自作するという、南野哲志氏という方の記事です。
小さなモデルを頗るシャープに仕上げた腕前もさる事ながら、材料がブラスではなくてプラスチックの薄板だというのです。
私の認識は、プラスチック板を溶剤系接着剤で組むと、しばらくして変形してくる、特に薄板では激しいというものですから、0.3mmや0.25mm厚を用いてシャキっとした平面を維持していることは全くの驚きでした。
20数年ほど前にプラ板が初めて売り出された頃、セキ3000や冷蔵車を自作したことがあります。【画像はクリックで拡大します】
ボディ自体を全てプラ板で構成し、アングルも自前で切り出した帯材を組み合わせて、接着にはラッカーシンナーを使ったものでした。それを塗装し、レタリングを施すまでは良かったのです。しかし、時間が経つに連れて側面の補強板を裏打ちした部分にデコボコが発生してきたのです。片野正巳氏が同じ材料で盛んに京急系電車を発表されていた頃です。
また8年ほど前、旧アトラスOゲージのワイドビジョン・カブースをコットン・ベルトSSW鉄道のものへ加工したときのことです。
ここで、キューポラの側窓付近を繰り抜いて入れ替えました。1.2mm厚の突き合わせ接着とし、継ぎ目をパテ盛して徹底的に平滑に仕上げたつもりだったのですが、これも塗装完成後、日数を経てスジが見えるようになってきました。ただ、屋根のプレス・パターンで、矩形を削り取って、0.5mm板で対角線形に貼り替えた部分は、完璧に上手くいきました。【Oゲージの玉手箱参照】
5年ほど前のアサーン・ディーゼル機関車キットでの経験です。
カプラーをボディマウントとするために端梁の内側にプラスチック・ブロックを填め込んだときには、接着剤に溶剤の含有量が少ないだろうという期待の下でドイツ製のdufixを使ったものの、3ヶ月ほどして外面が凹んで来てしまいました。
さらにMR誌の1998年7月号のブリルのガスエレクトリック・カーをスクラッチ・ビルドする記事に、「接着剤にMEK=メチル・エチル・ケトンを使った」とあって、同品を苦労して入手したものの、実験段階で、流し込みタイプの接着剤と同じようにプラスチック板が変形してしましました。(次写真の右側、左はABS樹脂の塗装剥離に使うIPA=Isopropanol)
……などという様な経験によって、基本的にはプラスチックの薄板を大々的に使った自作はやらないことに決めつけると共に、大事なところでは瞬間接着剤を使ってきたわけです。ことによるとTMS記事の作品も、これから変形が出てくる、なんてことなのかも知れませんが……。
しかしその一方で、中には何も問題のない場合も多いわけです。
セキでもカブースでも、変形したのはホンの一部です。また射出成形のキットを組むには専ら溶剤そのものである流し込みタイプで完全に間に合っていますから、何か上手くいく法則があるはずだとも思っています。MM誌のハンドマン編集長などもプラスチック板で盛んにスクラッチ・ビルドされているわけで、それにしては接着剤の悩みが書かれていないのが不思議ですよね。
【追記】接着剤と悪戦苦闘しつつある顛末の記事をリストにしていますので、ご覧いただければ幸いです。2010-11-26
| 固定リンク
「ちょっとしたヒント」カテゴリの記事
- レタリング落しにはメタノール(2019.10.23)
- ユニバーサル・ジョイントの真実(2015.12.24)
- フカヒレ・イコライザーの改良試作(2)(2013.02.24)
- ヤードポンド法の複雑怪奇を解く(2005.03.04)
コメント