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2004/10/10

鉄道車両事典とは

back issue Vol.100 Mar. 17, 2002

  しばらく前のBBS掲示板で、次の様なやり取りがあったことを御記憶の方もおられることでしょう。すなわち、私が「“ウォルサーズHOカタログ”にデセロスタット・キャップなるパーツが掲載されている」と発言しましたら、すかさずdda40xさんより「1980年版の“カー・アンド・ロコ・サイクロ”に出ていて、車輪滑走デバイスの登録商標だ」との御回答があった件です。

  ここで、“ウォルサーズHOカタログ”は大部分の方に御理解いただいている一方で、“Car and Locomotive Cyclopedia”の方をご存知の読者はわずかではないかと推察します。これは文字通り「客貨車および機関車百科事典」というもので、実物の鉄道技術者向けとはいうものの、アメリカの、ある程度のモデラーなら必ず所有している書籍です。MR誌などでも「モデルは○年版の図面を参考」などという様な記述が至るところに出てきます。

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 では、どんなものなのか、私の持っている1984年版でご説明しましょう。

 まず体裁はハード・カバーで総アート755ページという大冊です。それが第1章から第24章までに分かれ、第1章が広告の索引、第2章が鉄道車両用語の辞典で51ページが割かれ、ここに“Decelostat”が出てきます。第3章は車両設計の基準としてアメリカ鉄道協会(A.A.R.)が定める車両限界や軸重などが記載されています。

 第4章から第22章までの622頁が本書の白眉でして、貨車、客車、機関車や地上設備について、写真や図面、それに広告で埋め尽くされています。実務家向けですから、車軸にやたら詳しかったり、その後一般的にならなかったものを大々的に扱っていたりと、我々モデラーには縁遠い部分もあるものの、実物の構造やメーカー毎の特色が判ってきて、理解が深まるはずです。これだけでモデルをでっち上げられるレベルの資料も多々あります。私は英語が不得手ですから専ら写真と図を眺めていることが多いのですが、読解が達者な方には堪えられないことでしょう。掲載されているのは、機関車でいえば、GEはダッシュ7、EMDはSD/GP50の時代です。

 第23章は年次統計で、1929年からの機関車種別毎の両数の推移とか、貨車のタイプ別在籍両数なんかが判ります。

 第24章は付録として、鉄道車両用安全ガラス規格や、FRAの機関車並びに貨車の安全規格が付いています。

 さて、このCar and Locomotive Cyclopedia of American Practicesは毎年発行されているわけではなくて飛び飛びです。1966年版が最初で、1970,74,80,84年と続いて、最新が1997年版だと、その97年版に一覧表があります。

 その前は客貨車と機関車が別々に出版されていて、なんと19世紀に創刊ということで、Car Builders' Cyclopedia(Dictionary)が1879, 84, 88, 95, 1903, 06, 09, 12, 16, 19, 22, 25, 28, 31, 36, 40, 46, 49-51, 53, 57, 61、Locomotive Cyclopedia(Dictionary)が1884, 1906, 09, 12, 16, 19, 22, 25, 27, 30, 38, 41, 44, 47, 50-52, 56となっています。出版社の方は、どうも一貫してSimmons-Boardman Booksというところです。1879年から100年以上も同じ出版社が同じ本を出しているとしたらホント、凄い話です。【これらの一覧表はアメリカ型資料室をご覧ください】

 私は1970-95年に存在したBNに拘っていますから、この鉄道に在籍した車両が出ていそうなCar Builders' Cyclopediaの1957年と61年版、Car and Locomotive Cyclopediaの1966,74,84年、それに1997年版を保有しています。接近した版は内容が重複していますから、この辺りを揃えていればテリトリーはカバー出来ているはずと考えているわけです。
  中身が中身ですからファンの間では人気が高く、古本市場でも高値が付いているものの、戦後の版については出物数が多いので、入手に困難はなく、私はじっと睨んで比較的安く買えているつもりです。キズモノを掴まされたことはありません。ただし戦前の古い物は希少本となっていて全く出てきません。そんなわけで、Car Builders' Cyclopediaの1940年版が1973年にカームバック社から復刻されたり、蒸機とか電車関係などを数冊から抜粋したものがTrain Shed Cyclopediaという名前のシリーズとなって1970年代に出版されています。趣味の上で実用的には、これらの入手で十分でしょう。

 ところで私は1997年版を新本で買ったのですけれど、これの在庫が未だあるのだろうかと思って、洋書をインターネットで注文出来る スカイソフト書店 で探してみましたら、この版は既に見えなかったものの、何とその一つ前の1984年版をヒットしてビックリしてしまいました。そんな理由で、上述の内容説明例に、この版を使ったというわけです。

 なお書名検索で探し出せない場合がありますが、そのときは 直接、HPをご覧ください。
  1984年といえば、アメリカの鉄道にとって冬の季節が未だ続いていた時代ですから、技術者にも趣味者にも人気が無くて、売れ残っているのだろうと思います。厚さも1997年版の1,136頁に比べると薄くなっています。ただ、値段が私の買った1997年版の1/4ほどと極端に安いので、野次馬根性のある方にお薦めしたいと存じます。
  もちろん他の版を古本の検索サイトである 赤い靴ドットコム などで探されても構いませんが、値段に驚かないでくださいね。

【追記】1984年版と1997年版は新刊では入手できなくなったようです。また、Newton K. Creggが1970年頃に次のものをリプリント版として出版していて古書として入手可能ですが、値段はそれなりです。
Locomotive Cyclopedia 1925
The 1906 Locomotive Dictionary
Recent Locomotives 1886
The Car Builder's Dictionary 1879
The Car Builder's Dictionary 1888
The Car Builder's Dictionary 1906

 Train Shed Cyclopediaシリーズの全リストは、私があちこち検索してでっち上げたものをアメリカ型資料室に上掲しています。

 また電気鉄道辞典についての記事もご覧ください。出版元が同じで、1911年版だけが存在します。

【追記2】1922 Locomotive Cyclopediaなどの5冊がCD本で発売されているのを発見しました。RailDriverというサイトです。HTMLフォーマットというのですから、ネットで見るのと一緒です。まあ写真や画像の解像度は600dpiとのことなので印刷しても充分だと思います。2010-10-04

【追記3】19世紀末から20世紀初頭の版がネット上で公開されています。そのリストを作ってみました。一部を除き、ダウンロードが可能です。

 なお、同じ出版社で、軌道関係を扱った"The Track Cyclopedia"というものも存在します。当方の手持ちは第9版1978年刊で、他の版を検索すると、第7版(1948年) 、第8版(1955年)、第10版(1985年)の存在が分かります。

 これらの書籍は実用書ですから、各鉄道の技術部門とか、メーカーの設計部門が購読者だったはずです。現在はそれらが皆、解散してしまって、本だけが市場に出回っているという図式なんでしょう。そうそう、当方が在籍した工場にも2冊、ありました。2012-01-30

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