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2005/02/10

ダイキャストとシーズン・クラック

Vol.140 July 3, 2003
changed of the title and re-edited on June 30, 2017

鉄道模型で使われるダイキャストは亜鉛合金系。そして経年割れは、「シーズンクラック」ではなかった。

 このところのアメリカ型HOファンの間での大きな話題は、二つのチャレンジャー新製品でしょう。一つはアサーン・ジェネシス・ライン。もう一つは、Oゲージ3線式で有名なライオネルが26年ぶりのHO再参入に際して、最初に投入するものです。

 蒸機モデルは近年、アサーンのUSRAミカドやライト・パシフィックに始まって、トリックスのUPビッグボーイ、リバロッシのC&Oアラゲニィ、ブロードウェイのNYCハドソンやN&W 2-6-6-4など、高品質な製品が続々と発売されてきましたから、チャレンジャーは当然、予想された形式でした。


1950年に日本から輸出されたダイキャスト製の台車とカプラー。カプラーは粉々になりかかり、台車枠は膨潤している。

 特に後期型、ジャベルマン・チャレンジャーはマスプロ製品に向いているプロトタイプということができます。UPにおけるカラー・スキームに数種類があって、旅客列車も牽引していた上に動態保存機も存在し、さらに同型機がD&RGWやクリンチフィールドにあったというのですから、鉄道固有の形式ばかりが当然という蒸機では異例です。


from Tony Cook's site

 さて、ライオネルのアナウンスで一寸ビックリした点は、ダイキャスト一体という構造です。ダイキャストというと、日本のファンの間には、どうしてもオモチャ臭いという印象がつきまとっていますし、昔々のシーズン・クラックというトラウマもあります。

 これに対してヨーロッパではメルクリンがそれを売り物にしてラインナップを揃え、アメリカに至ってはMDC=モデル・ダイキャスティング等と社名にまでしている会社があります。ライオネルでもOゲージ製品をダイキャスト一体を通していて、さらに新進のブロードウェイ・リミテッド・インポーツ社は最新のHOペンシィGG-1をダイキャスト・ボディとアナウンスしています。大きい方では先年、NYCハドソンを1番ゲージ1/32で作ったメーカーもありました。

 今度のライオネルHOチャレンジャーも、URLを見る限りは細密感が十分で好感が持てます。
 ものの本によれば、ダイキャストのメリットは、生産性に優れ、強度、寸法精度が高いことです。さらにモデルに用いられる亜鉛合金系は、薄肉化が可能で、寸法的、外観的に特に秀でているといいます。

 ダイキャストはプラスチックより製造設備が莫大となるものの、ロットが大きくなれば、単価の上では有利です。鉄道モデルで機関車などの場合は、牽引力を得るために重量が必要ですから、プラスチックでもコアとなる動力ユニットはダイキャストとなっています。これをボディ全体に適用するというのは“あり得る”話です。特に亜鉛合金系の比重が6.7(アルミ合金系は2.7)もある点は有利です。蒸気機関車では強度と重量が問題になりますから、願ったりかなったりです。

 構造が単純になってコストが劇的に下がることも十分予想されます。
 モールド技術で一つ思いつくのは、ヒケの問題です。プラスチックでは、肉の厚い部分がプラスチック自体の熱収縮によって窪む場合があります。これに対してダイキャストはモデル以外も含めて、ヒケというものを見たことがありません。これは、外観を重視する場合、大きなメリットです。

 ただし、プラスチックでは、窓部分の肉厚と抜き勾配がネックですけれど、この面はどうなんでしょう。ちょっと考えるとダイキャストの方が不利と思いますが。

 塗装は、私にはMDCラウンドハウス製貨車の床板ぐらいしか経験がありません。ブラスよりもプライマーが効き難いはずはないので多分、大丈夫でしょう。

 一方、昔からのファンが持っている「ダイキャストは経年で割れる」という拭い難い懸念は、私も日本製のOゲージの軸箱やHOゲージの台車枠で経験しました。しかし、アサーンなどのディーゼル機シャーシで馴染んでいる上に、巷に溢れるミニカーでも問題が起こっていないのですから、今は全く心配していません。

 ただ、昔のダイキャストがシーズン・クラックを起こした原因が知りたくて、専門家に尋ねてみました。
 それによれば、初期の亜鉛ダイキャストは、原材料の製錬工程で鉛、錫、カドミウムといった不純物を取り除き切れていなかったのだそうです。
 なんでも、これらを0.005%以下のレベルにする必要があり、これ以上だと後年、一種の電気化学的な腐食である粒間腐食割れを起こす。そして我が国では、亜鉛合金ダイカストに限って合金の純度管理を徹底するために品質証明制度 (日本ダイカスト協会)が設けられているとのことでした。
 多分、アメリカや中国でも同様の管理がなされているのでしょう。【追記をご覧ください。驚くべき事実が……】

 ところで次に来る問題は、私のように、製品を弄り回したい人間にとってダイキャストがどういう材料なのかという話です。アサーンのシャーシを切ったり削ったりした経験からすれば、やはりプラスチックより堅いので弄りたくないと言えます。ブラスより柔らかいはずなのですけれど、板材ではなくブロックが主体ですから、切ったり穴を開けたりが大変です。向こうの記事には、例えばプロト2000のSD60のシャーシをフライス盤で切削するなどという加工が載っているものの、そこまでは難しい話です。

 また昔のMR誌に、ダイキャストのボディにロストワックスのパーツを取り付けていくというバウザー社の蒸機を加工する記事がありました。接着剤の使い方が難しそうだと思った記憶があります。近年はこれも進歩していますね。

 ライオネルのアナウンスによれば、蒸機はダイキャストとなるけれど、ディーゼル機はインジェクション・モールドで揃える予定とのことで、私の心配は、ひとまず要らない様ですけれど……。

前回の139号から、発行をだいぶサボってしまいました。メルマの紹介ページでも、2ページ目に押し出されてしまうテイタラクです。これからは何とか1ページ目には踏みとどまるように頑張りたいと存じます。
  さて、前号のアンケートは、皆さんのお住まいの地域でした。1年半前の結果と対比して載せておきます。ただ、申し訳ないのは、お寄せいただいたコメントが期日が過ぎたということで消されてしまったことで、こういうことになるとはツユ知りませんで、ここに御紹介できないことを深くお詫びしておきます。

Dokusya
【追記1】不思議なことに、このシーズンクラックなる語が、鉄道模型以外では使われていないのですね。自動車や航空機関係ではほんの一部です。
 専門家の文献やネット上には皆無で、英単語の"season crack"も、ダイキャストの事例が見つかりません。やっとたどり着いた語が"Zamak rot"(ザマック腐食)と"zinc pest"(亜鉛害虫)、ドイツ語では"zincpest"です。伝染病の方は英語で"plague"、独語で"pest"。

 ウィキペディア英語版によれば、ダイキャスト自体の発明は1838年。亜鉛系の欠陥ジンクペストは1923年に発見され、1950年代までの製品に発生する。1929年に開発されたZAMAK合金はこれの回避が目的。1940年代にモデラーが、酢酸またはシュウ酸に数分間浸漬する方法を考案。1960年以降の製品では克服とあります。
 でもまあ、現在でも時々起きている様です。次の写真はOゲージのメルクリンの例です。(Wikimedia Commons

Zinc_pest_zinkpest_zamac_radsatz_ma

 MR誌の創刊75年分DVD総合版(1934-2009年)では"zinc pest"等々がヒットせず、ダイキャストの経年割れ自体の情報を見つけられません。
 ウィキペディア英語版で項目が立ち上がったのが2007年で、ドイツ語版がその3年前の2004年ですから、比較的新しい言葉の可能性はあります。

シーズンクラック 一方"season crack"は、"Firearms History, Technology & Development"というHPにありました。「銃器の歴史、技術と開発」ですね。「Season Crackingとは何ぞや」と題した解説を読むと、銃の黄銅製の薬莢(やっきょう、"cartridge")のことが記されています。
 19世紀にインドに駐留したイギリス軍で、モンスーン・シーズン後に決まって薬莢が割れることが見いだされ、それがこの名で呼ばれる起源だそうです。

 原因は混み入っています。
 モンスーン、すなわち雨季は軍事行動に適さないため軍隊は兵舎にとどまる。弾薬は乾燥状態を保つために当時として最適な馬の厩舎で保管。ところが馬は尿を出し、そのアンモニアが黄銅中の銅と反応して、水に溶解する銅アンモニアイオンが形成される。
 空気中の湿度が高いと、これが溶解して亀裂が発生。薬莢に加工歪(ひずみ)が残っていれば、亀裂は成長して破損に至る。ってな調子です。
 詳細に解析されたのは1921年とのことです。
 機械屋的には「応力腐食割れ」っていうやつです(Misumi エンジニアのための技術講座コトバンクを参照)。

 で、この語、1970年代にTMS誌で知ったはずです。TMS誌1980年1月号p89でも「シーズンクラック」です(菅原道雄著1983年刊「鉄道模型工作技法」p139に再録)。どこでどう間違ったのか……。"season"が単数形だし変だなあ、とは思っていたんです(笑)
 この語を日本語では「季節割れ」の外に「時期割れ」とも呼ばれたらしいので、早とちりしたのかも。

 記事題名の「鉄道模型とダイキャストの薀蓄」を変更しました。2017-06-30

【追記2】9mmゲージC57の動輪を自家製ダイカストで作る平石久行氏の記事がTMS誌1973年1月号で、これを読んだときには「将来、割れは大丈夫か?」などとは思ってもみなかった記憶があります。「シーズンクラック」の知識はこの後でしょうか。材料が亜鉛合金って書かれていて、現状が心配になります。

 "aging crack"という用語があって、「時効割れ」や「置き割れ」、「遅れ割れ」が該当するようです。アメリカ型鉄道模型大辞典は、この語を中心に展開しようと思います。
 そして、"seasoning"の中に"aging"の意味がありました(weblio辞典)。

 "zinc pest"の"pest"が問題です。英語での意味は「害虫、厄介者」(weblio辞典)のはずなのですけれど、独語が語源だとすれば伝染病の意味でしょうか。錫(すず)の崩壊現象である"tin pest"(ウィキペディア日本語版)の方は、日本語サイトが「ペスト」ばかりです。まあ、その方がインパクトが強いので、同調しましょうか。
 ちなみにシェークスピアのテンペスト"tempest"は「嵐」です。2017-07-03

【追記3】TMS誌1970年5月号p355の相談室に、「(ダイキャストの)シーズン・クラック」の記載を発見しました。この語の起源は、さかのぼるようです。

 大阪府立産業技術総合研究所のHPに、余剰材の過度の再利用が、クラック抑制剤のマグネシウム減少を招いた結果というようなことが書いてあります。2017-07-05

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