車輪直径はどこで測るのか?
back issue Vol.146 2004/7/28 How to measure diameter of rollingstock wheels
BBS掲示板で「車輪の直径はどこで測るのだろうか?」という御質問が出ましたので、私の知っていることをお話ししておこうと思いたちました。「また蘊蓄が始まったか」と眉を顰める向きもあろうかとは存じますが、まあ、老人の戯言と、しばらくお付き合い下さい。【画像はクリックで拡大】
(画像を追加。2013-04-08)
まず車輪直径は、原理原則から言えば当然、「レールと接するところの直径」ということになります。
ところが、こうすると、レールの踏面形状や、レールのスラック量によって接触する位置が変わって、直径自体も微妙に変わってしまいますから、我が国の実物では、輪軸一対の中心から一定距離で測ることと定めているはずです。例えば1067mm軌間においては559mm(国鉄は不思議なことに560mm)です。
(冒頭の図がそれを示しています。これは、日本国有鉄道編纂1958年刊「鉄道辞典」p1009-1010に掲載されているもので、地方鉄道、すなわち、私鉄に関する規定ですけれど、国鉄についても一緒で、同じページにあります。2013-04-08)
ただ、現実には、仮想の輪軸一対中心を求めるのが難しいので、バックゲージを予め測って、その半分と559mmとの差を、車輪のバック面から車輪直径測定位置までの距離とすることになります。今では車輪を車軸に圧入する技術が進歩していて、バックゲージのバラツキが無くなっているので、この距離を一定にしていると思います。
余談ですが、バックゲージは、車輪のレールに接する下の部分と、一番離れた頂上部分とでは僅かに異なります。具体的に何ミリ程かは忘れましたが細い付随軸の場合は特に顕著です。
理由はご想像のように、車輪の外側にある軸受に掛かる荷重によって車軸がたわみ、それによって車輪が内股になるからです。レールとの関係からいえば、このバックゲージは下で測ったものを採用しなければならないのでしょうが、圧入するときに考慮することも大変で、また変化する量が大したものではないので、現実に測る位置を確か、車軸中心の高さにしていました。
では、モデルでは一体どうなるのかといえば、レール踏面の幅0.8mmの中央で車輪が接触していると想定すれば、軌間が16.5mmで、バックゲージが14.5mmですから、車輪バック面から(16.5+0.8-14.5)÷2=1.4mmの距離で測った直径が、車輪の直径ということになります。車輪の厚さが2.8mmならば、車輪直径は厚さの中央で測ることとなり、すなわち、レールからの荷重が加わる位置は、力学的に合理的だと言えることになります。
ところで「フィレット」の綴りは「fillet」だと思いますが、昔のTMSで脱線に対する効果が喧伝されたためか、今でも強調される向きがあります。しかし、当メールマガジンの5月12日発行、第145号「プラスチック車輪の功罪」で御紹介した「ナダルの式」でも判るように、脱線にはフランジ角度のみが関与します。フランジと踏面の間の小さなRの大きさは直接的には関係ありません。
日本の実物でこのRは、ほとんど14mm13mmだったと思います。そしてフランジ角度が昔は60度、今は70度が主流となっています。
一方アメリカは、かつて私が調べた限りでは、確かにこのRを大きく採ったものばかりで、本当に不思議でした。Rが17mmとか19mmで、フランジの最大角度部分に直線が無くて、フランジ頭頂部のRとS字状に繋がっているのです。
(次はLocomotive & Car Cyclopedia 1984年版p482に出ているAARの規格。2013-04-08追加)
長い間考えていて私の出した結論は、アメリカの車輪は、踏面が摩耗して形状が崩れてきたときに、削り直すことがないのではないか、ということでした。
これは向こうの文献に「one wear wheel」という言葉を見つけて思いつきました。実際の図面を見ても、車輪リム部分は日本のような削り代を持っていない風に見えます。ちなみに、再削成しないならば、踏面の硬度を上げたり、リムに予め掛かる圧縮応力を高める熱処理、すなわち焼き入れが思い切って出来ます。
ということは、車輪を永く保たすために、レールとの接触で一番摩耗するフランジの根元を厚くしておく必要があるだろうということです。フランジの摩耗では直立摩耗が問題となるからです。(one-wear とmulti wearでは、踏面形状が若干異なり、前者のフランジが厚い。2013-04-08)
これに対して日本では、50mmほどの削り代を設けていて、貨車も含め、頻繁に再削成が行われているはずです。そうすれば、直立摩耗をそれほど怖がる必要は無くなって、フランジ角度を安全側に大きく採れます。そして、高速運転で一番怖い蛇行動に繋がる踏面勾配の維持も可能となります。
モデルでも、昔の黄銅剥き出しの車輪で、フランジが摩耗で薄くなってしまった思い出があり、これは正に直立摩耗の状況です。しかし、近年の金属車輪は、ほとんどが硬質クロームメッキを施していて、なかにはステンレス製というものまでありますから摩耗したという例を私は知りません。またプラスチック製でも摩擦係数が小さいために、薄くなってきたという経験がありません。
フィレットの亡霊は、スパイクモデルが最初に発売した13mmゲージ用車輪の失敗を機に、霧散していて欲しかったというのが私の思いですが、間違っているのかもしれません。もしも、そうでしたら是非、お教えいただきたいと存じます。
【追記1】JR西日本の大阪環状線に乗りましたら、鴨居に安全対策の周知ポスターが貼ってありました。これ、新品の車輪ではなくて、何万キロかを走って崩れたプロフィールを削り直したところですね。
測っているのはフランジの厚さです。バック面に定規を当てて水平方向の位置を出し、次に車輪踏面中央にストッパーを当てて、そこから高さ10㎜程度のところで、フランジの厚さをノギスのバーニャの仕組みで読み取っています。
本記事との関連は、車輪踏面を代表する位置の採り方です。
よく見ると、フランジの頭頂部にストッパーを当てています。これだと、向かって右のバーニャ一式が回転して水平とならず、踏面の基準位置も出ないという問題があります。なにか水平に調整する仕組みがあって、フランジ高さを一緒に測っているのかもしれませんが‥‥。
なお、乗車車両はモハ201-242でした。2011-07-10
【追記2】「フィレットの亡霊」について、TMS誌ミキストでの記述が見つかり、それが参照したMR誌の記事も判明しましたので、アメリカ型鉄道模型大辞典「フィレット」に書き込んでみました。2012-05-20 「電車はどうして曲がれるのだろうか? 2013-05-08」、「車輪フランジ角度の決まり方 2013-04-18」もご覧ください。
■今回のアンケートは、皆さんのアメリカ型鉄道模型を楽しまれている方法をおたずねしようと存じます。2年前にも一度、実施していますが、そのときはカテゴリー数に制約があったため、お座なりにならざるを得なかったキライがありました。
では次の内から、どれか一つをお選びいただきますようお願いします。
◆ブラス車両モデルの蒐集
◆ブラスによる車両スクラッチビルド
◆ブラス車両モデルの加工
◆ブラス車両モデルの加工等と蒐集
◆ブラス車両モデルを中心とした運転
◆プラスチック車両モデルの蒐集
◆プラスチック車両モデルの加工
◆プラスチック車両キットの組立
◆プラスチック車両モデルの加工と蒐集
◆プラスチック車両モデルを中心とした運転
◆ブラス、プラの車両モデルの蒐集
◆ブラス、プラの車両モデルの加工
◆ブラス、プラの車両モデルの蒐集と加工
◆ブラス、プラの車両モデルの運転
◆固定レイアウトの建設
◆モジュール規模レイアウトの建設
◆ストラクチャーのスクラッチビルド
◆ストラクチャー・キットの組み立て
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締切は8月5日(木)18時です。
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