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2005/05/01

NYC創業者の伝記

Back Number Vol.150 2005/05/01, total 243 copies

Img468 先日、とある古書店で一冊の本に目が止まりました。「アメリカン・ドリーマーの末裔たち」という題名です。そして副題を見てビックリ、「ヴァンダービルト一族の栄光と没落」とあるのです。

 「ヴァンダービルト」という単語と最初に出会ったのは、「鉄道車輛401集」という、TMS誌の実物情報を集約した本の中だったと思います。今、その本を引っ張り出してきて確認すると、p216に「プロトタイプ・ガイド1956、特集アメリカ蒸機のテンダー」とあって、「バンダービルト型テンダーは、勇壮なアメリカンロコの英姿を、より引き立たせる存在と云っても過言ではなかろう」と説明しています。

 さらに流線型蒸気機関車の本で「コモドア・ヴァンダービルト」という名前にも行き当たりました。NYC鉄道の、1934年にアメリカ最初の完全流線型として登場したパシフィックです。調べると、本名がコーニリアス・ヴァンダービルトというNYC鉄道の創業者のことで、「コモドア」は「提督」という意味のあだ名だということが判りました。

 さて本書は、筆者がArthur T. Vanderbilt 2世という一族の人間で、原題はFortune's Children--The Fall of the House of Vanderbilt、1996年の出版です。
 帯にあるとおり「人はどのように大金持ちになり、どのように失っていくのか。鉄道王で世界一の大富豪となった男の一代と四代にわたる栄華と葛藤の物語」がこの本の主題です。巻頭に40頁の写真がありますが、人物と豪華な邸宅ばかりで、鉄道に関するものはありません。さらにテキストは410ページにも渡る大冊ですけれど、アメリカ型モデラーの私は創業者の伝記として読みましたから、ニューヨーク社交界の描写とかは飛ばしています。
  全体が十章に別れている内、創業者ヴァンダービルト提督(1794-1877)の第1章を拾い読みをして、年代記風にまとめてみました。

1794年 ニューヨークの沖合のスタテン島で、オランダ移民の9人兄弟の第4子長男として生まれる。

1810年 母親から借りた100ドルを元手にスタテン島とニューヨークを結ぶ小型帆舟で渡し船業を開始する。同業者に「提督」と呼ばれ始める。

1812年 第2次独立戦争(英米戦争)でのイギリス艦隊のニューヨーク湾閉鎖に乗じて事業を拡大する。

1814年 ソフィア・ジョンソンと結婚する。

1818年 ラリタン川蒸気船運行の共同経営者となる。

1829年 独立してニューヨーク・フィラデルフィア間の蒸気船業を開始する。

1833年 初めて乗ったキャンデン・アンボイ鉄道のニュージャージー州ハイツタウン近郊で、列車が脱線して谷底に転落し多数の死者が出た中、大怪我を負ったものの一命を取り留める。

1851年 ニューヨーク・カリフォルニア間にニカラグア航路を開設し、ゴールドラッシュのカリフォルニアへ殺到する旅客の輸送で大成功を納める。

1853年 ヨーロッパをノーススター号で歴訪する。

1863年 ニューヨークを通る唯一の鉄道であるニューヨーク・ハーレム鉄道を獲得する。株式買い占めで勝利する。

1864年 ハドソン川鉄道の株式売買に勝利する。

1867年 オルバニーで接続するニューヨーク・セントラルとの連絡運輸を拒否する強行手段に訴えて譲歩を引き出し、同社社長に就任する。

1868年 イリー鉄道の獲得に乗り出すが、ダニエル・ドリュー、ジェイ・グールド、ジム・フィクスに破れる。

1869年 フランク・クロフォードと再婚する。

1869年 ニューヨークからシカゴまでのハーレム、ハドソン、ニューヨーク・セントラルの3社が合併する。レール更新や複線化など、設備を増強する。グランド・セントラル駅を建設する。機関車の1両に「ヴァンダービルト提督号」と名付け、ヘッドライトに自分の肖像画を描かせて、「ヴァンダービルト号」という専用客車を連結する。客車は黄色の車体に赤の縁どりを背景に、セントラル鉄道沿線の景色が描かれていた。

1877年 死去

 初代の後のNYCの支配権がどうなったかですが、2代目のウィリアム・H・ヴァンダービルト(1821-1885)が全財産を相続して暗黒の70年代と呼ばれる恐慌を乗り切ったまでは確実に読みとれるものの、その後は女性陣の浪費がテーマになってしまい、時代も行きつ戻りつで一寸理解できていません。
 NYC鉄道自体が本書の主人公ではないので文句は言えませんが、お城の様な屋敷に住んだり、社交界にデビューしたりと波瀾万丈の人生がゴロゴロしているので、少女コミックのモデルには打ってつけだとは思います。

 ところで、本書を読むもう一つの興味は、バンダービルト・テンダーの特許を1901年に取得した人物についてです。
 「提督の孫」という認識だったのですが、どうも4代目、曾孫のコーニリアス・ヴァンダービルト3世(愛称はニーリー、1871-1942)の様です。直接的な記述はないものの、p218に「ニーリーは(ニューヘイブンのエール大学機械工学)修士課程を終えて、ニューヨーク・セントラル鉄道の仕事に励み、新しい機関室を開発し、列車の故障を解消した。彼の発明は成功を収め、ヴァンダービルト鉄道のほとんどの機関車に設置され、おかげで、ニューヨーク・セントラルは何十万ドルもの修理費を節約することが出来る。ニーリーは機関車工学の天才とうたわれた」とあります。
 一族の中で技術に言及されているのはこの人物だけですから、間違いないと思います。また、バンダービルド火室なるものもあるとのことです。

 著者の日本語版への序文には「堤康次郎氏とヴァンダービルト提督を比べてみます。両者とも貧しい幼年時代を過ごし、知性と機知を駆使して、巨額の富を蓄積しました。事業の足跡だけでなく、性格にも共通点がある様に思います。ヴァンダービルトはダニエル・ドリューと競い、堤氏も五島一族としのぎを削りました。堤一族の富はどういう運命をたどるのでしょうか。物語はまだ続きます」とあって、今日の事件を予言していることも興味深い話です。(原文は「康次郎」ではなく「康弘」となっていました)

 ヴァンダービルトの伝記が日本語で存在したとは驚き以外の何ものでもありませんが、ことによるとGNのジェームズ・ヒルや、UPのエドワード・ハリマンとかもあるかもしれませんね。なお、本書は新刊でも入手できます。

コモドア・バンダービルトの生涯について紹介した花珠.bizというサイトを見つけました。上記の本とは若干内容が異なり、またカナ表記も「コモドール」や「コーネリアス」となっていて、出典は別と思われます。2009-02-28

明治時代に著された偉人伝では、バンダービルトが主役です。国立国会図書館の近代デジタルライブラリーに見るアメリカ鉄道王たちの記事をご覧ください。2010-07-09

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