« 国鉄技師訪米記9:オマハにて | トップページ | 国鉄技師訪米記11:ロサンゼルスの憶い出 »

2006/02/04

国鉄技師訪米記10:ルーメットに乗って

日本の国鉄にこの様な客車が出現するのは
melma! back issue 2006-02-04 Vol.172 total 272 copies
The book of a JNR engineer's travels around the USA in 1950, part 10

このテキストの経緯と詳細については、第1回をご覧ください。

12 ルーメットに乗って

Dscf0003a

Dscf0005a
                  カリフォルニア・ゼファー号に乗る間瀬さん

 
ルーメットRoometteは寝台車の一種で、1人寝台室ともいえる。昼間はベッドを起こして腰掛の室になるし、夜はベッドを横にすると室いっぱいが寝台になる。【画像はクリックで拡大】

 スイッチボタンとプラグだけで10ある。電話の差し込み、ボーイを呼ぶベル、扇風機のスイッチ、エアーコンデショニングの通風量調節スイッチ、温度調節スイッチ、飲料水の出るボタン、4カ所の天井用灯のスイッチが洗面器の前、寝台の枕の上、座席の上にある。

Roomette

 電話は通常使用しないが、依頼すれば何時でもつけてくれる。
 扇風機はOFFの他H・M・L(強・中・弱)の3種の強さに調節できる。

 窓は2重でもちろん開け閉めはできないものの、エアーコンデショニングしているので何時も澄んだ空気が入ってくる。その通風量は旅客が自由に加減できるし、温度も華氏65~80度(摂氏18~27度)の間は自由に調節が可能で、例えば針を華氏80度に置き通風量を最大にするとどんどん華氏80度の空気が室の中に流れ込んでくるし、もしそれで暑ければ華氏70度に針を回すと数分にして70度になる。
 それも隣の室に無関係に自由になされるのであるから、暑がり屋と寒がり屋とが同じ車に乗っていても、ルーメットを利用さえするならば、お互いに嫌な思いをしなくて済む。各自、自分の室だけを自由な温度にすることができるからである。

 洗面器はもちろんきれいに掃除され、石鹸とタオルがおいてある。その横のボタンを押すと、氷水が出る。椅子は2つあり、1つはソファーで、他の1つは簡易なジュラルミンの板の上にフェルトを張ったものだが、この簡易椅子をあげると、下はトイレット(便所)もなっている。水洗便所が1人室の中に設けられているわけである。

 灯は特殊な場所以外は蛍光灯、それも2段に親子電灯となり、本を読むには明るい方、寝ながら何か薄暗い灯明りを必要とするときには暗い方を利用できる。しかもそれが天井、洗面器の前、枕許、座席の上と4個所もついているので身体をどの位置においても好きな方向の灯がとれる。

 ボーイを呼んで頼めば組み立て机が室の中に入り仕事をするのに便利になる。そして食堂ボーイに話せば食事をルーメットまで搬んでくれる。
 室の壁はジュラルミンの肌が出てピカピカしているし、床は絨毯で被われて非常に感じがよい。

 オマハからソルトレークシティまで、1,026マイル(1,650km)の間、運賃は41ドル53セントに対し、ルーメット代として16ドル27セント(5,857円)も払わねばならないから、相当高い。
 温度調節器を弄りながら「日本の国鉄にこの様な客車が出現するのは何時の事であろうか?」と半ば諦めたような瞑想にふけると、ディーゼル電気機関車、ジェット飛行機、ニューヨークの摩天楼、ワシントン・モニュメント、ナイヤガラの滝等が何の関係もなしにとりとめもなく、次々と現れてくる。日本に無いものが頭の中を右往左往するのであった。

このルーメットのエアコンですが、たぶん床下に1両分を担当するユニットが1つあって、新鮮外気を吸い込んでコンデンサーで冷やし、それを車体ダクトで各部屋に送る。各部屋の吹き出し口にはサーモスタットと連動したファンかダンパーが付いている‥‥という構造でしょうか。文中にある様な、ダイヤルで指示した温度の冷風が出てくるなどという贅沢なシステムは信じられません。Car Builders' Cyclopedia 1949-51辺りを調べればはっきりするのでしょうけれど‥‥。
  「洗面器に‥‥氷水が出る」という記述もちょっと引っ掛かります。ホテルの場面でも「氷水」と述べられています。これらは単なる「飲用水」でしょうか。著者が水の専門家だけに気になるところです。
  また「ジュラルミン」という金属は元来、航空機用の軽量高強度合金ですが、ここでは単にアルミ合金の意味で使われているのでしょう。
  BBS掲示板で、この本の「鉄道以外も全部読みたい」とのご要望が複数の方から出ていますので、相談してみます。私自身の手になる記事よりもウケるというのは、何か複雑な心境です(^_^;)

>>【ソルトレーク・シティ

|

« 国鉄技師訪米記9:オマハにて | トップページ | 国鉄技師訪米記11:ロサンゼルスの憶い出 »

国鉄技師訪米記」カテゴリの記事

コメント

今晩は。国鉄技術者の面白い本、読ませていただいてます。
客車内の「氷水」の設備ですが、手持ちの"Car Builders Cyclopedia 1940"p799以後の記述では、Dayton sanitary water cooler(氷注入式?洗面用?)、G-E Electric Coolers for drinkig water(電気式飲用冷水)の2つが宣伝されてるので、優等客車には装備されていた可能性が強いです。

投稿: 鈴木光太郎 | 2006/02/06 21:43

John H. White, Jr.の"American Railroad Passenger Car"のp432に、「1940年以降、プルマン社はほぼ全ての個室寝台車で個室に氷水(ice-water)を供給するシステムを提供していた。」とありました。
冷却飲料水ではなく、氷と水を別タンクで蓄えておいて、どこかで混合して供給していたようです。

投稿: WURE | 2006/04/18 01:27

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 国鉄技師訪米記10:ルーメットに乗って:

« 国鉄技師訪米記9:オマハにて | トップページ | 国鉄技師訪米記11:ロサンゼルスの憶い出 »