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2006/03/01

国鉄技師訪米記20:ソルトレーク・シティ

ビューブランメル・レストランへ入る。ここはスウェーデン式料理で
melma! back issue 2006/03/01 Vol.182 total 275 copies
The book of a JNR engineer's travels around the USA in 1950, part 20

このテキストの経緯と詳細については、第1回をご覧ください。

13 ソルトレーク・シティ

 10月28日(土)18時、列車はユタ州の主都ソルトレーク・シティに着く。ここは有名なモルモン教の本山で人口は150,000、デンバーから西海岸までの唯一の中都市である。産物としては銅、銀と金の鉱物が挙げられ、湖からは塩も生産されている。この湖は塩の濃度がほぼ飽和点27%に達し、頭と手首、足首を出しても身体は浮くという。
 到着したホームにGHQの中本氏の義弟藤本氏夫妻が迎えてくれる。テンプルスクエア・ホテルに一旦落ち着いた後、街の中を見せていただく。
「夕食は何がよいですか? 洋食ですか日本食にしますか?」と尋ねられて、「洋食」と答えると、夫妻は一寸意外だといった顔をして「日本を出て3ヶ月近くになるのに、珍しいですよ」とのこと。聞けば、三木経理局長と土居さんが来たときは口を開くや「日本食」と言われたそうだ。

 最近出来たというビューブランメル・レストランへ入る。ここはスウェーデン式料理で、テーブルの上に各種の野菜、牛肉、豚肉、鳥、魚、菓子がずらりと並び、自分の好きなものを勝手に取って食べられる。一回済むとまた別の皿に料理を載せて回る。何遍取りに行っても費用は同じだが、3度も回ると胃袋は完全に参ってしまう。藤本夫人は一人の米婦人を指して「あそこの白いドレスの方は4回目ですよ」と笑いながら教えてくれる。
 あまりに、もの凄い料理なので内容はよく分からないけれども、メニューから名を記録してきた。

Caviar, Swedish Sausage, Swedish Meat Balls, Omelette, Sliced Prime Rib of Beef Marinated Herring, Swedish Sylta, Goat Cheese, Anchovy Filets, Stuffed Celery, Tossed Salad Greens, Ripe Olives, Radishes, Green Olives, Green Onions, Potato Salad, Tomato Aspic Salad, Herring Salad, Smoked Salmon, Crab Salad, Cracked Crab, Pickled Beets, Salami, Louisiana Prawns, Assorted Cheese, Pickled Tongue, Fruit Mold Salad, Liver Wurst, Herring in Cream, Apple Pineapple Waldorf Salad, Rye Crisp, Chicken Salad, Cole Slaw, Orange Bread, Olympic Cream Cheese, Jockwurst, Bread Sticks, Hot Tea Biscuits, Swedish Beans, Strawberry Souffle

 読むだけでも容易なことではない。メニューには「2ドル75セント(990円)です。好きなものを自由に食べてください。ただし無駄になさらぬ様にお願いします」と書いてある。
 もちろんどんな大食家でも全部食べられるものではない。船の食事も自由に量と種類を選べたが、このスウェーデン料理の場合は現物が目の前に陳列されているだけに一種異様な圧力を胃袋に掛けてくる。
 腹ごなしに夜景を見物しつつドライブすると、海抜4,250フィート(1,295m)のこの街の風は気持ち良く顔を冷やしてくれる。

 翌29日(日)藤本夫妻の案内で市内見物、まず市の東へ行く。1847年7月24日、1847年、ブリガム・ヤングが「This is the right place.(この地こそ自分の求めていた所だ)」と有名な言葉を残し、この土地に永住したのであった。恐らくその当時は、重たくよどんだ青い湖と褐色の高原以外は何もなかったのではあるまいか。

 午後は南方の銅鉱山見学、世界で一番大きな露天掘の銅鉱で、1日75,000トンの鉱石と100,000トンの廃石を採掘している。山頂から底までの高低差は1,850フィート(564m)で、階段は21段ある。鉱石の品位は極めて悪く0.97%しか銅を含んでいない。アメリカの銅産出額の1/3を出しているという。米国の偉大さをあまりにもはっきり見せつけられた一瞬であった。

 帰途、市内の公園にある日本庭園を見る。この公園の中を数区画に分けて、各国の民族別に割り振ったのであったが、その中を手入れして庭園らしく美化したのは日本人だけで、他の国の人は何ら手を加えていない。緑の芝生の中に池を造り、石灯籠の周りには松とツツジを植え、全く日本趣味濃いものであった。コンクリートの太鼓橋が妙に印象的な記憶を残している。文明国家の中にポツンと置かれ、コントラストが際立っていたことが原因かもしれない。

著者が御馳走になったスウェーデン料理は、まさしく日本でいう「バイキング」ですけれど、この言葉が全く出てこないのは変だと思って調べると、名前自体は日本の帝国ホテルが発祥とか(村上よしゆきさんの「ノルウェー・フィヨルドの旅」など。朝日新聞朝刊2018年8月1日によれば、60年前の1958年8月1日。8月1日は「バイキングの日」。そのときの値段が昼1,200円、夜1,500円。宿泊料金とほぼ変わらなかったけれど大繁盛)。スウェーデンでは、この様なビュッフェ・スタイルを スモーガスボードsmorgasbord (あるいはスモーゴスボード)というそうです。

 ここに書かれた料理名の方は、現代の我々なら想像がつくものがたくさんあります。ただし当時はほとんどチンプンカンプンだったことでしょう。辞書などで調べてみると、Caviarはキャビア、 Herringはニシン。Rye Crisp(原文はKrisp)はライ麦センベイでしょうか。ウォルドルフ(またはウォルドーフ)Waldorf・サラダは、セロリ, リンゴ, クルミにマヨネーズをかけたサラダで、ニューヨークのウォルドルフ・アストリア・ホテルが発祥の由(Wikipedia英語版)。Syltaはスウェーデン在住のヨッケさんという方のブログ【リンク不可】に「ポークのにこごり」と出ていました。Souffleは「サフレ」だそうですが……

 ソルトレーク市については詳しく書かれた日本語HPがありました。銅鉱山の写真もあります。

 モルモン教についてはウィキペディア日本語版日本での公式サイトもあります。
 テンプル・スクエアはモルモン教の総本山を含む一角のことの様です。テンプルスクエア・ホテルは、その名を取ったということなのでしょう。探しましたらThe Inn at Temple Squareがありました。

 ソルトレークシティと日本人の間には浅からぬ因縁があるようです。【リンク切れ】
 日本庭園は、1947年に日系米国人市民協会が作ったもので、日米の平和を祈り、ユタ日報が呼びかけて百万円もの寄付を集め、約15m四方の広さに、池や太鼓橋、石堂、鳥居など、日本の風景を詰め込んだとのこと。ですから、著者の1950年の訪問は出来たばかりということになりますね。

 ところで鉄道ファンにとってソルトレーク・シティといえば、プロモントリーでの横断鉄道レール締結です。
 その代替ルートである大塩湖を横断する堤防上には、航空写真が遠くて見にくいのですが、渡っている列車を見つけました。

御幌鉄道さんの御尽力で、なんと本書の著者、福島善清氏と連絡が取れて、事後とはなりましたが掲載をご承諾いただくことが出来ました。皆様の御厚意に謹んで御礼申し上げます。

>>【ラスベガス

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コメント

こんにちは。ご紹介いただいてありがとうございます。
 Syltaに関してですが、スウェーデンのものはゼラチンを使用して固めているようです。
 キャビアは、こちらではタラコ、または小型のアンコウなどの卵のことです。スモールゴスボードの場合、ゆで卵のトッピングにしますが、普段はチューブに入ったタラコをパンに塗って食します。
 上記のオリーブやサラダ、カニ、多種のチーズはアメリカナイズされたもののようです。

 それにしても安いです。スウェーデンではレストランでこの値段では食べられません。大体2倍から4倍します。いずれも重たい料理なので、日本人にはつらいかもしれませんね。(笑)

投稿: ヨッケ | 2006/03/02 20:23

解説、ありがとうございました。所変われば品変わる。キャビア等、お伺いしないと分からないものですね。

投稿: ワークスK | 2006/03/02 21:38

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