国鉄技師GHQ下米国視察の成果
melma! Back Number 2006/04/16 Vol.183 total 284 copies 現在本誌で、終戦直後にアメリカへ派遣された国鉄技術者の手記を連載中ですが、久しぶりに寄った書店の鉄道書コーナーで、この派遣に言及した本に出くわしました。
星晃、米山淳一共著「星さんの鉄道昔ばなし-国鉄旅客車Q&A-」というB6版、190頁の冊子です。
そのp15に「当時海外先進国の鉄道の動向の把握は、直ちに詳細な内容がキャッチできる現在とは全く違っていた。占領期間中はGHQのあっせんにより国鉄幹部(本庁課長以上)の米国鉄道視察(客船で往復)が次々と行われていたが、敗戦国日本に戦勝国アメリカの偉大さを見せつけ、ほとんど何も参考にならないといわれていた。欧州の鉄道については……」とありました。
星晃さんは、もちろん皆さんご存じのように、国鉄で戦後の客車と電車を多数手掛けられて副技師長まで務められた方です。設計の真似事を業とした私にとっては憧れの存在でしたので、2年も前に出版されていたこの本を今頃になって初見というのは恥じなければなりません。アメリカの占領が解けた1953年11月から約1年間、スイス、フランス、ドイツ、イタリアを視察して、以後、軽量構造の旅客車を次々と開発された経緯が、問答形式で微に入り細に入り語られています。ですから、国鉄型が好きなファンには必携本と申し上げて間違いがないと思います。発行所はJTB、値段は税別1,000円です。
またp63に、客車に供給する電源に言及して、次のようにあります。
「戦後、米軍が『アメリカの鉄道を参考にしろ』と言ったってだね、アメリカのレベルは当時の庶民レベルよりはるかに高いわけですよ。占領が終わってからヨーロッパを調べてみて初めて、庶民的な車のことがわかるという感じだったね。昔から、日本の優等車はアメリカの影響の方が多い、と僕は思いますよ。当時は時代が違うからね。寝台車については、アメリカの寝台車の写真とか概観図面とか、そういうものを載せた事典があるんですよ。CAR BUILDERS' CYCLOPEDIAという。それから機関車のもあるんですよ、LOCOMOTIVEとCARとかね。そういうのが非常に参考になっていた」
【これらの洋書については、本ブログの「鉄道車両事典とは」をご覧ください。最新版は1997年版です】
本誌で紹介している福島善清氏による清缶剤調査以外にも、GHQ下の米国視察が戦後の国鉄にもたらした影響は、ファンに注目されないだけで、結構あるのではないかと思います。ちなみに古書検索サイトで次のようなものが見つかりました。全部といわないまでも、いくつかはその成果なのでしょう。
米国鉄道の全貌 兼松学 交通研究所 1950
アメリカ鉄道協会物品教本 日本国有鉄道資材部 1950
米国鉄道の経営管理及び財務制度 日本国有鉄道 1950
米国鉄道に於ける賃金と労働問題 運輸省鉄道総局業務局貨物課 1949
アメリカ鉄道の資材事情 長尾頼隆 交通日本社 1952
アメリカ鉄道の業務と技術 米国交通事情研究会編 交通研究所 1952
アメリカの鉄道信号 鈴木嶺夫 交友社 1951
米国の鉄道と通信 小田達太郎 交友社 1951
■星晃氏の著作には20年前、1985年交友社刊で「回想の旅客車-特ロ・ハネ・こだまの時代-上・下」という本がありました。それぞれの列車が登場した当時に書かれた文章を集めたものですから、今回紹介の本と一緒に読むと、なかなか興味深いものがあります。ただし、アメリカ型については、巻末の3ページに、1966年当時の視察時の印象が語られているだけです。
■「長尾頼隆」で検索を掛けたら、参議院会議録情報などというサイトをヒットしました。経理局主計課長というのですから、結構な地位を歴任された方です。この中身、読むのは煩雑ですが、仙山線とか、チルド車輪とか、ファンでも結構面白いですよ。
■戦前の鉄道省でもエリートの海外派遣が行われていました。「島秀雄の世界旅行1936-1937」をご覧ください。2009-02-25
| 固定リンク
「日本語本やぶにらみ」カテゴリの記事
- とれいん誌03年4月号 NAPMのコンクール作品(2005.02.05)
- PAM誌第4号はバッド社RDCの知識が満載(2004.12.03)
- 鉄模連ショー2002大阪で"ポップ・アメリカン・モデラー"(2004.11.05)
- GEとGM(EMD)の経営者と鉄道(2004.07.02)
- ヴィンテージ鉄道模型大全(2004.04.01)
コメント
アメリカの視察報告といえば、満鉄の車両技師、
市原善積氏があじあ号の車両設計の為に行った
1930年代のアメリカ視察の話が個人的には気に入
ってたりもします。資金潤沢な満鉄の技師だけあ
って、アメリカの物量に驚き恐れるのではなく、
「アメリカの鉄道はよく遅れる」「(比較的旧型
の車両の内装を見て)大したものではない」など
アメリカの鉄道をかなり客観的に観察していると
ころが有益でした。
入手は難しいと思いますが、詳しくは
「満鉄特急あじあ号 市原善積著」の中で紹介され
ています。
投稿: WURE | 2006/04/18 01:38