ムラサキ・コホナオスマカの由来
melma! Back Number 2006/05/10 Vol.185 total 288 copies
アメリカ型の話ではないのですけれど、最近入手した古書「客貨車工学」(上巻)小坂狷二(おさか・けんじ)著、1948年(昭和23年)、日本機械学会刊にあった一口知識です。
国有鉄道で15t積有蓋車を新しく設計した時、これは馬匹運搬に適するものという要望にもよったので(15t車は前後に3頭ずつ向合いにつなげる)、馬(ムマ)積みに適するものという意味で「ワム」と称することにした。しかるにその後15t無蓋車が出現したら、世間で「トム」と通称し出したので「ム」を積載重量15tを表示することとし、ラ、サ、キを追加した。「トラ」は2間物(13尺)の木材を2山に積むに適する車長を与えたもので、その積載重量が17tとなったものである。序でながら用途記号の「ス」はスチィールカー、ク=クルマ、パ=poultry(実の発音はポートリだが、鶏はパタパタするからパでよかろう)、ナ=ナマザカナ、ポ=porcelano、ミ=ミズ、ト=トラック、チ=元「木材車」と称せられていたのでチンバ(timber)、シ=元「重量品運搬車」と称せられていたのでその「重」のシ、キ=ユキ、コ=衡重台用のコウ、 記号も仮名が不足するので意味のないものもある:リ、ウ(豚はウーウーいうからよかろう)、ヨ。
も一つついでながら、客車の重量記号:コ=小形、ホ=ボギー(基本木製ボギー3等車は25tであった)、ナ=並形、オ=大形、ス=スチールカー、と重量が増加しついに45t級のものが出現した。ここらがマキシマムだろうとマとしたが、その後新聞紙輸送の超重量級の荷物車ができた。これはカナワヌとカ…は少々笑話の種になりそうである。
ここで、ポ=陶器車を「porcelano」としたのが曲者で、本来、英語だったら「porcelain」あたりですけれど、たぶん「porcelano」はエスペラント語だと思います。「小坂狷二」という語句で検索を掛けると、その関係の記述が目白押しです。生没年は1888-1969、日本エスペラント運動の父と称されるとのことです。エスペラント探語帳
著者の経歴に「1916年(大正5年)学窓を出て鉄道院工作局車両課に奉職、爾後客貨車の設計に従事すること17年、その後東鉄大井工場長、名古屋、東京鉄道局工作部長、鉄道省工作局工場課長を経て退官、日本車輛製造株式会社に就職……歴代の車両課長小野清風、秋山正八、朝倉希一先生……」などとあって、このムラサキ、コホナオスマカの由来には信憑性があります。
私は今、我が国、鉄道技術へのアメリカの影響に興味が湧いてきています。それで若い頃に入手していたこの下巻(1950年刊)を再読していましたら、構造や計算手法など、至るところで紹介されているのに驚き、上巻を探し出したというわけです。ただし、内容は全くの実務家向けで計算式がたくさん出てきますから、大部分はファンにとってチンプンカンプンです。私自身は20年ほど前、魚腹台枠の構造設計で参考にしました。
発行所も「日本機械学会」と堅い印象です。が、ここに引用したとおり文章は軽妙洒脱です。また外国語や情報に明るい方だったようで、欧米の知識が満載ですから、「慣性モーメント」などの用語が判れば面白く読めます。
【追記】小坂狷二氏の日車時代に講義を受けたというNMRCの伊藤剛氏から、「ウ」は当初、輸送需要の多かった馬の「ウ」だったが、それが無くなって豚積み車に転用された、という話を伺いました。冒頭の50音表は、森井義博さん作成の国鉄フォントです。「エ:救援車」、「リ:土運車」、「ル:配給車」がありませんね。2007-12-21
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コメント
コメントありがとうございます。このURLにある3月4日には、同じ小坂の、車内掲示「タバコすうこと、たんつばはくこと」を紹介していますが、実は続きがあって、No smoking or spittingと掲示したら世間から「別々にやるのはかまわぬ」といわれ、あわてた電気局が Smoking or spitting is prohibited と訳しかえたら、「両方一緒にやればかまわぬ」とまたまた笑われた、というエピソードを紹介しています。
投稿: Sibazyun | 2006/05/11 00:21
ムラサキについては、30年ほど前、東京の郊外の八高線に乗りに行った時、帰りの気動車を待っていたら、駅長さんが話しかけてこられて、側線に止まっていた貨車の記号の説明をしてもらったので、昨日の様に鮮明に記憶しています。
Primera
投稿: Primera | 2006/05/14 23:39