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2007/08/11

EF62の台車アンカー構造

JNR electric locomotive EF62 type was equipped Jacquemin-linkage(Jackman-link) trucks.

 dda40x氏のサイトでEF62における台車の話を読んだら、懐かしさがこみ上げてきました。信越線での試運転というのですから1963年(昭和38年)。私は小学6年生でしょうか。授業で上田城の石垣を背に写生をしていたとき、遠望したのが最初の出会いです。「城跡から眺めれば細く青い川。橋のたもとに造り酒屋のレンガ煙突……」という、さだまさしさんの「案山子」という歌にそっくりな情景が瞼に浮かんで、目が潤んでしまうのは歳のせいですかねぇ。確か、蒸気機関車と重連でした。また、専売公社工場からのタバコの匂いが漂っていたような……。

A720214

 駅近くの踏切で入換作業を見ていた記憶もあります。その時なのか、しばらくして雑誌を見てなのかは判りませんが、不思議な台車の構造を一生懸命に考えた結果、左右のリンク先端同士を結ぶ平たいバーみたいなものがあって、その真ん中に中心ピンが通っている。これが所謂「下揺れ枕」的な作用をしているのだろうと推測しました。そういう風に、今の今まで思い込んでいたのですが、言われてみれば、BNの6599号機と同じ様です。回転中心にピンが無いなどという仕組みは当時、理解の外でした。【画像はクリックで拡大】

 牽引棒=アンカーの高さの問題は、ED75などの「逆ハ」リンクでも判るとおり、理想的にはレール面上、すなわち低ければ低いほど良いはずです。
 軸重移動には2種類あって、1つは2台車間のものです。連結器の高さが大きなファクターで、台車と台車が離れていればいるほど起こりにくいことになります。
 もう1つは1台車内のもので、これもホイルベースが長いほど、すなわちEF62の様な3軸台車や、DDA40Xの4軸台車は有利です。そして、牽引力が作用する高さが低いほど、レール面に近いほど良いことは自明ですね。古くは、単純な低心皿方式が採用されました。

 一方、アンカー棒を車軸中心と同一高さとする理由は、特に乗り心地を考慮する電車で、台車枠のピッチングから車体の前後動を誘発させないためだと、鉄道ジャーナルの高田隆雄氏「台車と私」に書いてあった記憶があります。

 さて、当時は見る機関車全てがEF62でしたから、魅力を感じることはなかったし、カメラを持ったのはだいぶ後です。ネガを探すと1972年(昭和47年)になってのたった2枚が見つかりました。上方のモノクロは2月14日の上り急行白山で、3月15日の特急電車化を知って撮影したもの。下のカラーは2月20日、上田交通真田傍陽線廃止の日で、いずれも上田駅の西方です。

Image3a720220

 ハズミでシャッターを押しただけで、またフィルムの保存状態も最悪ですけれど、今は見ることができない光景ということでお許しください。写真はクリックすると拡大します。

【追記1】EF62の図面は、RM Modelsの「Detail File 1 JNRの車輌たち(1997年7月1日発行)」に2次車のものを発見しました。ただし、この図面と写真だけでは、リンク機構がはっきりしません。図は併せてEF63も載っています。確証はないものの、技術者向けの「電気車の科学」という雑誌で、この辺りに触れた連載があった様な気もします。期待できるとしたら、大河出版で「最新の鉄道車両技術」とかいう本、あるいは、機芸出版社からたくさん出ていた電機の解説本ぐらいでしょうか。

【追記2】偶然TMSを繰っていたら、2001年11月号に勝瀬友久氏の13mmゲージEF62を発見しました。SHIN企画の「機関車EF62」という本を参考にして実際にリンク機構で仮想心皿を働かす様に作ったとあります。軸箱可動を実現するためにフライス盤を購入したとか、とにかく凄いことが書いてありました。

 ただし、残念ながら、雑誌に掲載された写真だけではリンクの様子がもうひとつハッキリしません。このあたり、説明図を付けるとか、分解した様子を撮影するとか、編集者として工夫が要ったと思います。私でさえ、記事としてのインパクトが薄いものだから記憶に残らなかったというお粗末で、折角のモデルが台無しです。
 また昔話か、と呆れられるかも知れませんが、TMSの300号ぐらいまでだったら、表紙を見ればどんな記事が載っているか、直ぐに連想できたものです。

 ところで、ネットを探すと狭軌通信2号というページの最後部辺りにそれとおぼしきモデルが写っていました。

【追記3】関西合運2008で拝見した井上順二氏の1/24、45mmゲージ・モデルが、このリンク機構を見事に再現されていました。2008-10-25

【追記4】長い間謎だったジャックマンの綴りは"Jacquemin"に辿り着きました。フランス国鉄に在籍した人物の様です。ただ、EF62の装置との関係が判然としません。そんなわけでアメリカ型鉄道模型大辞典は仮説の上に仮説となっています。疑問の第一は逆ハ・リンクとの関連です。さらに、この言葉をいつどこで知ったのかもわかりません。手持ちの資料を片っ端から当たったのですけれど、出ていないのです。2014-08-03

【追記5】手塚一之著、大河出版1984年刊「鉄道車両/台車のメカ-鉄道ファンのためのメカBOOK」を入手しました。定価が2,000円のところを送料込みで5,300円でした。ただし、逆ハも仮想心皿も、さらにその組み合わせも解説されていますが、「ジャックマン」の語は出てきません。なおキハ65のTR218も、ちょっと変わった無心皿です。
 筆者は国鉄の車両設計事務所などに在籍した経歴をお持ちですから、国鉄では用語として使われなかった可能性が大です。

 ところでこの本、要所要所に京阪の台車図面が出てきていて、思い出しました。私費で買ったものの参考用に職場に残して置いてきています。専門家がファン向けに噛み砕いて絵解きをした最初の本で、台車は外観からだけでは構造の判断の付かないことがよく理解できる一冊です。2014-08-25

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コメント

早速のコメント、ありがとうございます。私は「模型とラジオ」誌の記事で就役を知りました。模型も作ろうと思いましたが断念しました。

軸重移動について何かの仕組みがあるというので、高校生のとき調べに出かけました。機関区で下を覗き込んで写真を撮り、スケッチもして帰りました。ベルクランクの動作が不思議で、厚紙を切って模型を作り、理解したつもりでしたが、正直なところあまりよく分からなかったのです。リンク機構について、完全に理解したのはその10年後くらいです。

アメリカの機関車ではほとんど採用例がなく、その後忘れておりました。

連結器高さについては、井上豊氏に教えていただきました。

投稿: dda40x | 2007/08/12 11:34

昔のTMSで、HOのED75で仮想芯皿を実現したモデルを見たことがあります。
裏返してジャックマン方式のリンク機構がよく見える写真と台車を回転させた様子が掲載されていました。
号数は不明ですが、昭和60年前後だったと思います。

>>そうですね。その記事は私も見た記憶があります。なお当方のブログでは、1/24で再現された井上順二氏のモデルを動画で紹介しています。ぜひご覧ください。
 探したら、SHIN企画1999年刊「詳説新性能直流電気機関車」が出てきました。ここに24頁にわたってEF62が解説され、模型用図面もあります。ただ残念ながら「ジャックマン」の語が出ていません。
 なお、「電気車の科学」だったか、実務者向けの雑誌にED74?の連載があって、会社の倉庫に積んであったカビ臭いページを飽かず眺めていた記憶があります。逆ハを除いてEF62が同じだとは思いもしなかったですね【ワークスK】

投稿: YUNO | 2014/08/11 02:55

>> 昔のTMSで、HOのED75で仮想芯皿を実現したモデル
> そうですね。その記事は私も見た記憶

TMS 1981/8 (No. 405) pp.19-24 です。
筆者は当時いろいろ変わった機構を作ってらした、閑林憲一さんです。
ただ、この模型は折角の 4 軸独立駆動なのに、台車ごとにモーターをくっつけてしまっているので、仮想芯皿は実現できても、どれくらい軸箱周りが自由だったかはちょっと疑問です。
で、ご当人がその辺は一番良く分かっていらしたようで、数年後にキドマイティの独立駆動で DE10 を作っていらっしゃいます。
例の、SHIN 企画の本が出るより相当前ですから、ED75 の記事は何度も読み返してしまいました。

> 長い間謎だったジャックマンの綴りは

あら、そうだったの...
じつはフランス国鉄 (SNCF, Societe Nationale Chemin de Fer, うーむスペルが正しいかな...、順に訳せば、「組織」「国有の」「道」「鉄(の)」となります) には彼の名前が愛称になっている機関車があります。

http://fr.wikipedia.org/wiki/BB_Jacquemin

もちろんのことながら、こいつはジャックマン式の台車の装着法も採用しています。(最近の google 翻訳は質が良いので、私のつたない仏和訳よりそっちの方が良いでしょう。必要なら、合運あたりでお渡ししますけどね ;->)

>>で、問題は「逆ハ」と「仮想心皿」のどちらをジャックマン式と呼ぶかなんです。両方合わせたものですかね。両方ともジャックマン氏が発明したんですかねえ。御存じのような書き振りですね。是非お教え下さい。仏語は英語に変換したら理解し易いのかな【ワークスK】

投稿: 稲葉 清高 | 2014/08/14 16:28

> 御存じのような書き振り

ったって、「国鉄で」どっちのことをジャックマン式と呼んでたかは知りませんよ ;-)
知ってるのは、ジャックマンのスペルと、SNCF では 9200 形式以下のいわゆる BB-Jacqueman 機関車で使ったボギーの装荷法を「ジャックマン式ボギー (le bogie Jacqueman) 」と呼んでた事くらい。

Wikipedia のがまとまってたからリンクを貼っておいたのでした。

ジャックマン式ボギーの説明のところを抜き出すと
> C'est le bogie "Jacquemin" qui comporte le plus d'innovations :
(これがジャックマン式ボギーであり、その代表的な革新部分を上げると)

> la traction basse réduisant énormément le phénomène de cabrage,
(低い点での牽引力の伝達によって、不均衡現象 (cabrage の意訳、鉄道用語は不正確かも) の発生を少なくしている)
-> こっちが逆ハでしょうかね?

> Cette traction basse fut possible car la caisse ne repose pas sur le bogie par l'intermédiaire d'un pivot, mais sur des lissoirs, la rotation s'effectuant autour d'un axe fictif, l'entrainement de la caisse étant réalisé par des barres fixées très bas sur le bogie.
(この低い点での牽引力の伝達は、車体が心皿に乗っていないことによって、つまり仮想的な回転中心からバーによって台車から導かれた力を伝えることによって、達成されている)
-> こっちは barres とか書いてあるから、リンク機構による仮想心皿のことでしょうね。おそらく pivot は心皿と訳して正しいと思うのだけど...

で、ジャックマン式台車の特徴はもう一つあって、
> la transmission à joint de cardan compacte remplaçant
こいつは目を細めて英語っぽく読んでも判ると思いますが、(伝達はカルダン式という小型のものに置き換えられた)です。

だから SNCF だとおそらく、リンクによる仮想心皿、その作用点を台車より線路寄りに低く (仮想的な交点が線路と同じ高さかどうかはわからない) すること、そしてカルダン式のモーターの装着法、の三つでジャックマン式の台車なのだと思います。

某国有鉄道はいつものように、換骨堕胎で気に入ったとこだけ取り入れて (パクって) 、「ジャックマン式」とか言ってたのではないのでしょうか? 電気機関車売ってもらえなかったウラミ (逆恨みですけど) もあったしねぇ...

>>それは非常に残念です。ネット以外で「ジャックマン」という単語にどこで触れたのか、大河出版「鉄道車両/台車のメカ」という本を持っていたのですが、見当たらないのです。なお、仮想心皿リンク自体にも力点を下げる作用がありますね【ワークスK】

投稿: 稲葉 清高 | 2014/08/15 10:22

> ネット以外で「ジャックマン」という単語にどこで触れたのか、

ああ、そういう意味では私もカタカナの方が先だと思います。(仏語は大学へ行ってからですから) で、その頃の情報源ってことだと、TMS やら鉄道ファンやら、あとは電気車の科学とかという感じで限定できません。少なくとも TMS の閑林さんの記事および TMS 1970/3 の中尾さんの図面の解説にはジャックマンの名前は出てきませんね。

> 仮想心皿リンク自体にも力点を下げる作用

おっしゃる通りです。ただ、力点を下げるのは、日本の機関車で言えば ED60 などで採用した「台車を下から支える」方式も考えられるのに対して、仮想心皿を使う方法は、何しろ「仮想」なので、レール面あたりまで下げることも可能というのが、いかにも「頭を使ったな」という感じがします。

>>コメント多謝【ワークスK】

投稿: 稲葉 清高 | 2014/08/15 13:55

私のコメントばかりだと恥ずかしいから (だって右横の recent comments にズラッと並ぶからねぇ) ちょっとお休みしてました。

> ああ、そういう意味では私もカタカナの方が先だと思います。

1970 から 1981 までの TMS を全部ひっくり返してみたのですが、ジャックマンという言葉は出てきませんね。鉄道ファンは全部は持ってないのですが、同じ年代の電気機関車関係をざっと見たところないようです。ということで、おそらく「電気車の科学」かと思うのですが、手持ちはまったくないので、国会図書館あたりで探すしかありません。

逆に確実に載っていた方を上げると、
「ED75のメカニズム」p.41 に「次の ED74 からはジャックマン式と呼ばれる機構を組み込んだ新タイプの台車が登場している。」とあり、p.51 に「この台車の特徴といえるのはジャックマン式と通称されるリンク機構の引張装置を備えていることで、」とあり、斜めリンクと仮想心皿をジャックマン式としています。(釣り掛け式のモータ架装法でも別に構わないと言っている)

そういえば、日頃は略称で言ってしまいますが、「橋本さんの本」で機関車に関係するものは
1) 「詳説新性能直流機関車」、SHIN 企画、1999/12/10 発行
2) 「資料旧型電機の下まわり」、SHIN 企画、1995/10/10 発行
3) 「資料 ED75 のメカニズム」、SHIN 企画、1998/5/10 発行
4) 「電気機関車形態構造事典」、SHIN 企画、2005/10/20 発行
の四冊でしょう。(1) はもとは (3) のような形態で、各形式ごとに発行されていたものをまとめたもので、個冊を持っている身としては、買うのを躊躇したんだけど、完全に重ならないので仕方なく買いました。

投稿: 稲葉 清高 | 2014/08/22 17:31

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