モデルの十年後、百年後
前回のリモネン系接着剤の記事に対して、浜松はアールクラフト、井指店主から次の様なメールをいただきました。
だいぶ以前にプラの専門家から「プラスチックは接着したら終わり」という過激な御言葉を戴いたことが有ります。プラは硬いとはいえ分子上ではスポンジのようなもので、シンナ-成分が入ると長い時間を経てクラックの要因になるそうです。それではどうすればよいかと尋ねたところ「瞬間接着剤で付ければよい」と教えられました。「瞬間接着剤は全く別の成分で、プラ自体は痛めない」とのことでした。
弊店ではプラモデルも扱っておりますので、このような事を広めますとプラモデルを組まれる方が今以上に少なくなる心配が有りますのでオフレコにしております。もっとも、プラモデルを完成にして何十年も展示するものも稀ですが、リモネンの変化についてはやはり実際に年月が経った後に判ることでしょう。
劣化の点ではゴム関係も気を付けたほうが良いです。車輌の箱やパ-ツ類をゴムバンドで止めておくと、劣化して硬くなり場合によっては硬化して箱等の紙にもへばりついてしまいます。またゴムはプラ製品を溶かします。プラの箱などを止めておきますと食い込んでしまいます。私自身もNゲ-ジのプラ製扇形庫の屋根に長い時間消しゴムを置いておいたら凹んでしまいました。
お客様でもアメリカのクラッシックカ-のプラモデルをたいそう綺麗に組み上げ長年飾っておいたところ、ゴム製のタイヤがスポ-クホイ-ルを変形させ、グチャグチャになったそうです。弊店取り扱いのミニカ-でもプラケ-スにゴムタイヤが接地している部分はへこんでしまいます。それに対して最近ではケ-スから浮かして取付けております。
我が家の1992年の年賀状に登場しましたから、組み立てたのはその前の年で、今まで15年が経過していることになります。当時ブームだった1/20のエフワン物、ロータスとマクラーレンですね。ずっと本棚の片隅でホコリを被っていましたから、ウィングなど一部を失っていますが、これはぶつけたり落として壊したもので、劣化ではありません。接着剤にはもちろん当時の流し込みタイプを使っていて、子細に点検しても、この点の変化は皆無です。
ゴムのタイヤも、感覚的には15年前と変わりません。ホイールはスチレン樹脂ではないようです。“世界のタミヤ”の製品ですから、ガレージ系とは異なって、十分に考慮した素材を使っているのかもしれません。もちろん、ゴムには天然ゴムと合成ゴムがあって、前者に耐久性がないことは明らかな一方で、後者は種々種類がありますから素人が一概に論評することは不可能です。プラスチック消しゴムに入っている可塑剤がスチレン樹脂を溶かすというdda40x氏のご説明もあり、我々には見当も付かない反応が起こるようです。
鉄道模型では余りゴムを使いませんが、Nゲージのタイヤに巻いてある牽引力を稼ぐためのゴムはどうなのでしょうか。
大昔、カツミがOゲージでモーターを支持させるのに使ったゴム・ブッシュは、全て駄目になりました。たぶんこれ、電気器具でコードを保護するための汎用部品だと思います。ことによると今でも、寸法が合うかどうか判りませんが、材質を変えて売っている様な気がします。
水道蛇口のゴムパッキンを利用するスプリング・ベルト駆動を、小田急モデルで有名な伊藤正光氏がTMSに発表されて、それをそのまま取り入れたペーパー電車を私も1台自作しました。こちらは今でも全く大丈夫です。
ゴム系の接着剤については5年、10年と古くなるとパリパリになると私は認識していて、塩ビ窓ガラスの貼付ぐらいにしか使いませんが、これを上手に使いこなされる方もおられて、実際のところは判りません。呼び名が“ゴム系”とはいうものの何がゴムなのかも知りません。30年前にペーパー電車に貼った窓ガラスは今のところ無事です。
昔、ブラス製品の箱にクッション材として入っていたスポンジ、ウレタンフォームだったでしょうか、これが経年でニチャニチャになってしまい、大問題となったことがありました。私も、スポンジが塗装面に付着したモデルを1台格安で買ったものの、どうにも救いようがありませんでした。
たかだか30数年に渡る経験ですけれど、ペーパー車体で使った木工ボンドとエポキシ系接着剤は大丈夫。シロクマ印のラッカー途膜も基本的にはセーフなものの、シンナーで薄めすぎたパテを塗ったと記憶している屋根板面は数年で細かいひび割れを起こしました。
プラスチックでは、流し込みタイプの接着剤で組み立てたインジェクション・キットの中村精密製貨車はOK、プラ板で自作した貨車は表面に僅かな凸凹が出ているものの、接着自体は無事。40数年前にセメダインで組んだ大和や零戦のキットはどうなったか記憶がありません。
瞬間接着剤は10年前に全面的に使い出して、こちらは変形も劣化も全く見られません。
ハンダ付けでは、ペーストで電線を付けた薄リン青銅板は錆びてしまいアウトでした。塩化亜鉛でのイモヅケが一部外れたのは多分、後処理の不足だと思います。ブラスは相対的に、塗装済みはハンダが取れにくく、無塗装は酸化で弱くなり易い様な気がします。
というわけで、経年に対して、鉄道模型では車体も塗装も注意すれば何とかなりそうだということだと思います。そんなに心配することは無いでしょう。
しかし、エフワン・モデルを出してきて一つ、大きな問題がありました。
それはデカールの黄変です。たぶんキャメル・イエローの上では目立たないだけなのでしょう。マールボロのホワイトの上に貼ったフィルムでは、透明部分が明らかに退色していているのです。写真は明るさや露出をこの辺りが目立つ様に調整してありますので、ちょっとオーバーですが、致命的といえます。
顕著となる下地色は、白に加えてシルバーもその傾向にあるようです。長い間、蛍光灯の光を受けていましたので、フィルムは紫外線に弱いのか、あるいは空気による酸化なのかはわかりません。どちらにしろ可能な対策は、厚めにオーバーコートを吹き付けるぐらいしか無さそうです。BNモノで白い車体はリーファーか、バイセンテニュアル機の3両ですけれど、出来上がったら常時は密封して箱に仕舞い込むように注意したいと思います。
まあ、あと何年、生きるのか、神のみぞ知るところとはいうものの、20年、乃至は30年は持つモデルにはしたいですね。100年後、あるいは1000年後のことなんかは……
■TK氏と会ったら、電気絶縁材や油も注意が要るという話になりました。そういえばこの夏、古い扇風機が原因で火災が多発してニュースになりました。また、昔の電車は定期的に電線の引き替えやモーターの絶縁更新を行っていたものです。オイルやグリースも変質しているかもしれません。1970年代までのパワーパックは、トランスやコードに100Vが掛かって特に危ないとの結論でした。
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