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2008/07/18

ダブルスリップの魅力

Bimg838

Cimg_2528  先日、左のJR京都駅の線路をご覧に入れて、「アメリカやヨーロッパのような幾何学的で整然とした様子が、日本に無いのが不思議」と書いた手前、欧米での事例を紹介すべく探していましたら、上の写真を発見しました。【画像はクリックで拡大します】

 場所はシカゴ、年代は明確な記載がないものの書籍(Lenahan's Locomotive Lexicon 第3版第2巻)が発行された1985年の少し前あたりでしょうか。説明には「ユニオン・ステーションの南で、ルーズベルト・ロードの橋の上から南を見たところ。左が元PRRの客車ヤード、右の先が元CB&Qの客車ヤード」とあり、左の客車側面にアムトラックのポイントレス・アローが認められ、右奥にはギャラリーカーのキャブが並んでいます。
 橋脚と線路が寸分の狂いもなく納まっていて、正に測量技術の勝利です。

Cimg841

Cimg842 むっ、ここなら行ったことがあります。おまけに拙いながら写真を撮って雑誌に投稿までしました。それが"とれいん"誌1994年12月号の「シカゴはシアーズタワーがお奨め」です。早速フィルムを取り出してきてスキャンしてみました。撮影は1993年6月です。

 当時は関心も知識もなくて、ただ単に"オノボリさん"よろしく103階の展望台に上がっただけでした。ですからこのショットの狙いも、左下を走るアムトラック・スーパーライナー編成です。
 冒頭の写真と較べると、正にここです。ダブルスリップとシーサスの位置が一致します。ただし、線路の本数が少し減って、撤去中と思われる部分も見受けられます。上から見ている分には分からないものです。

Chicago1  現在の様子は右のGoogle Map航空写真をご覧ください。直接ジャンプしていただくと、さらに拡大します。高層ビル上から撮影した私の写真より鮮明です。あいにく列車が通過中で、影もあって一寸見難いのですが、15年前とそれほど変わっていないようです。なお、地図にリンクした航空写真ですから上の写真とは天地が逆です。

【次は、ルーズベルト・ロード跨線橋上からのストリートビューです。北向きに眺めています。歩道があったら・・・・(笑)
 冒頭の写真とは真反対で、カメラを構えたテーラー・ストリートの跨線橋が撤去されています。また、ダブルスリップも一列、無くなっています。2012-04-09追加】

Chicago_double_slip9

Cimg846  以上はシアーズタワーの南側ですが、その北側にも同じ様な線路配置があります。高架のC&NW駅出口です。真ん中にメトラの列車を入れてしまいましたから一寸判りにくいかも知れませんが、南側と同じようにダブルスリップが2重のX形に連なっています。

Chicago2  右のGoogle Map航空写真をご覧ください。
 この写真で下辺あたりに左右に横切るのが高架鉄道エルのレーク・ストリート線で、線路を跨ぐこの電車の窓から狙うと、C&NW線の線路配置が判る写真が撮れそうです。また右下から左上に向かう3複線が旧ミルウォーキー鉄道線を引き継いだノースイースト・イリノイ鉄道公社線で、シアーズタワーからの写真の、上辺で地上を走っている線路に続きます。

 ならばヨーロッパはどうか、と探すと、ありました。
It13vv15a

Italia4 "とれいん"誌2001年2月号に「駆け足で撮ったイタリア」として掲載していただいたときのもので、訪問は2000年8月です。最初はベニスのサンタルチア駅で、櫛形ホームの突端からリベルタ橋方向を向いたところです。ダブルスリップが直線的に連続して並んでいる様子が写っています。屋根の白いブルーの列車がオリエント・エクスプレスで、今、正に出発したところです。

It04ff08a

Italia3_2  次はフィレンツェSMN駅で、列車はユーロスター・イタリアETR500です。こちらはクリックして拡大していただかないと判り難いかもしれません。少なくとも3つが並んでいます。
 Google Mapの航空写真は、イタリアのこの辺りでは未だ解像度が低くて線路が判然としませんが、ベネチェアフィレンツェを一応お見せします。

It10ff18a ダブルスリップの構造は、右の写真に電線に邪魔されつつも辛うじて写っています。フィレンツェのカンポ・デ・マルテという駅の跨線橋上から撮りました。クロス部は非可動で、またポイントモーターは両側に1台ずつです。8番あたりでしょうか。

 これらに対して日本では、残念ながら最初に書いたようにダブルスリップの連なる光景を見たことが無いのです。代表的な終端駅である上野をGoogle Mapで見回すと、シーサス(両渡り線)に組み込んだものは見つかりますが直線で連なっている感じはしません。実際はどうなのでしょう。どなたか陸橋の上か、あるいはカブリツキで……m(_ _)m
Ueno
 こちらは解像度が高く枕木の本数まで数えられます。番手は12番でしょうか、2箇所の轍叉部にはマシンがあって可動の様です。シーサスの方の轍叉は半分の6番ですから、非可動です。(右下に示されたスケールが20mで、これを電車に当てるとピッタリ!って当たり前ですけれど何故か嬉しい……)

 ただし、やはり日本ではダブルスリップを多用しない傾向にあるようです。理由は、可動部分が多かったり強度的に弱い部分があって信頼性が低いということだと思います。摩耗とか油切れとか、保線屋泣かせなのではないでしょうか。
 でも、欧米で"愛用"されるわけが分かりません。屁理屈的に考えて、ゲージが広いと構造的に楽な設計が出来るとか、客車編成の推進運転では京都駅のようなクネクネが危ない、あるいは日本の鉄道インフラが整いつつあった時代には技術的にダブルスリップを未だ製造できなかった、という辺りを思い付くくらいです。

Cimg844  ところでモデルについては、私自身にレイアウトへの興味が無いので、雑誌に載った例とかを思い付かないのですが、ウォルサーズのHOカタログ(2007年版ではp290 )に3複線同士の交叉例があります。3×3で都合9個のダブルスリップが奢られているKen Patterson氏のModel & Photoです。シノハラの#83レールによる6番でしょうか。線路と線路の間隔をもう一寸狭くした方が輻輳した美しさが出るとは思いますが、私にチャレンジする気は毛頭起きません。この辺り、Nゲージャーの皆さんに期待したいですね。

 モデルにまつわる「ダブルスリップの思い出」、「ダブルスリップのポイントマシン」、さらに構造に言及した「ルー・クロス氏のシカゴターミナル」という記事もご覧ください。

Cit13vv30_2 【追記】本日入手した"とれいん"誌8月号に、イタリア鉄道ETR500の新発売になったモデルと、実物の解説が4頁に渡って掲載されていました。橋爪智之さんの筆です。それから、ベニスのダブルスリップは、もう少し迫力のある写真が見つかったので、追加しておきます。2008-07-19

Img_4270b【追記2】品川駅の横須賀線ホーム南端で1つ、見つけました。マシンが4つ見えます。グーグルマップではたぶんこの場所です。緑色のトラスは京浜急行の八ッ山橋跨線橋で、バスが通過中です。
 全体に線路際が何か雑然として、左の空色はユンボです。ということは線路の移設とか大きな工事でも始まったのでしょうか。2010-04-05

【追記3】多分、シカゴの「C&NW駅出口」と文中で説明した場所の少し先と思われる古い写真を発見しました。"The Model Railroader Cyclopedia, The Book of Plans"1950年版のp149で、「シカゴC&NWターミナル北の見事なトラックワーク」という説明です。ダブルスリップは4基しか見えませんが、カーブポイントやカーブのクロスがあって、土地の広いアメリカといえど、都会では苦労している様子が見て取れます。現在のGoogle航空写真を確認すると、このクロスだけ残っています。2010-06-12
Img491a


大きな地図で見る

【追記4】この6月12日に紹介した場所を俯瞰した写真が"とれいん"誌2010年8月号p86に出ていました。メトラのギャラリーカーが4本も見えます。佐々木也寸志氏のDiesel Power in USA! Vi,24 北米鉄道最新情報Part.1イリノイ州・ウィスコンシン州です。2010-07-18

【追記5】京阪天満橋の地上時代にシングルスリップがあったことが判りました。ネタは「甦る京阪電車の昭和時代」というビデオです。2011-05-30
Ss

【追記6】以下の内容は、「ルー・クロス氏のシカゴターミナル」(2008-08-26)という記事から移転しました。細部は調整しています。2011-08-23

 northerns484さんよりご教示いただいたシカゴの元C&NW鉄道、 メトラUPウエスト線の写真集の中に次の様な、高速で通過するとしか思えない箇所を写した写真がありました。
Doubleslipa

 たぶんWestern Avenue Stationの近くです。次のグーグル・マップをご覧ください。この地点の名前は、JPGのファイル名からすると「タワーA2」というのだと思います。ちなみに、この西側に客車ヤードが広がっています。
Chicago_up_west

 また中国でダブルスリップが連続する写真は、nozさんという方の「くろがねのみち」と題するHPに、ハルピン駅のものを見つけました。

Haruping Googleマップでは次の辺りで、写真右上の陸橋から南南西のアングルだと思います。【3年後にGoogleマップを覗くと、解像度が上がっていました。左の画像は、縦方向を2/3に縮め、コントラストを上げてみました。2011-08-16】
Halbin

停車場の配線を診断する【追記7】コメント欄で話題とした吉江一雄著「停車場の配線を診断する」社団法人日本鉄道技術協会1978年発行が出てきました。月刊のJREA誌1980年1月号に掲載された日高冬比古氏の論評、私見5頁のコピーが挟んであって、当時、関係者の間で評判となったことを思い出しました。
 また、参考にすることがあると思います。古書店で発見されたら、是非。2012-05-03

【追記8】グーグルマップで、シカゴのルーズベルト・ロードからのストリートビューが、更新されていました。2013年9月撮影です。この跨線橋には歩道があって、歩く人の姿も写り込んでいます。機会があったら是非。シアーズタワーが真正面に入ります。2014-07-02

Chicago_kousin

【追記9】シアーズ・タワーの北にあるC&NW線の1952年7月の様子が、Classic Trains誌のサイトにアップされました。ミネアポリス発の夜行列車、ノース・ウエスタン・リミテッドが朝に到着するところだそうです。腕木信号機が凄い。2014-09-18

20140908

【追記10】Trainorders.comにスイスのチューリッヒ中央駅が紹介されていて、Google Mapで覗いてみました。次の航空写真は長手方向を半分に縮めています。ホーム先端から写真が撮れるそうなので、行かれた方は是非! 2015-07-26

Zurich

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コメント

こうやってならべてみるとたしかに幾何学的美しさはありますね。とりあえずガーッと引いて、交差したところにダブルスリップを置いておけば、どっち方向からでも対処できるからOK…てな感じを受けてしまいますが。
ところで、昔の新宿駅ってダブルスリップがわりとあったような記憶があるんですが、違ったか平面交差…うーん、すいません。(汗)

投稿: ヤマ | 2008/07/21 01:16

ヤマさん、コメントをいつも有り難うございます。お話から30数年前、長野駅南の跨線橋上から80系電車と緩い可動式のクロスを眺めていたことを思い出しました。写真は……

投稿: ワークスK | 2008/07/21 22:44

はじめまして、ダブルスリップにひっかかってお邪魔しました。吉江一雄さんという土木技術者の本によると、お察しの通り保守と通過速度の問題でスリップは極力避けているそうです。上野駅も氏の設計で、進路構成上やむなくスリップが入ってしまったとのこと。荷物電車や配給電車が廃止される前の事です。。。

>>コメント、ありがとうございます。私も30数年前に氏の「停車場の配線を診断する」を買い求めました。以来、線路の見え方がガラッと変わりました。どこへ仕舞ったか‥‥(笑)【ワークスK】

投稿: kazycom | 2011/12/27 08:50

あ、やはりご覧になっていたのですねww 私もあの本で配線の虜になってしまいました。

投稿: kazycom | 2011/12/27 13:04

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