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2008/07/07

アメリカの鉄道史-SLがつくった国-

Ahistory 以前より気になっていた書籍を入手しました。近藤喜代太郎著「アメリカの鉄道史-SLがつくった国-」です。
 WURE氏の掲示板に著者自らが書き込みをされたこともあって、興味をそそられていたものの、鉄道書コーナーを持つ近所の書店には置いて無くて、またインターネット上では税込み3,990円という値段に怖じ気づきクリックを躊躇していたものです。
 で、もうそろそろ発行から1年が経過するので、古本で出回っていないかと探すと名古屋の古書店で見つけました。愛読者葉書とカバーが付く新本同様です。送料が加わってソコソコの値段になりましたが、中身を見ずに注文できる許容範囲におさまりました。

 さて、この本は大きく2つに分かれています。
 前半の1~10章にはアメリカの独立から南北戦争、西部開拓などの社会の流れと、それに関わる鉄道の独占と規制、凋落と1980年代以降の再生まで、手際よく簡潔に解説されています。私が今まで断片的にしか知らなかった事項が一本に繋がった感じがします。
 例えば、B&Oが何故にアメリカ最初の鉄道になったかといえば、ボルチモアが内陸への運河を建設できない地形を克服するために、鉄道で西にそびえるアパラチア山脈を越えてオハイオ州ホイーリングまでを結び、オハイオ川の川船に連絡してミシシッピ川流域を商圏に収める意図だったというのは、正にナルホドです。勾配に強いウィナンス・キャメルの出現も肯けます。

 本の後半の11~16章は蒸気機関車を中心とした車両技術史となっています。ただこちらは本誌読者の中にさらに詳しい方がおられて、食い足りない面があることでしょうが、内外の資料から転載されている図版の量と質が半端ではありません。特に19世紀末に著されたという鉄道創生期の蒸機に関する技術書には良く辿り着かれたものだと思います。たぶん今ではCatskill Archiveというサイトに公開されている数々です(画質からすると、ここからの引用の可能性もあります)。
 また1950年代の多くの写真で「沢野と星」と記されている原典は、巻末の文献一覧にないものの、F’Trackさんが紹介されている沢野周一、星晃著、1962年、交友社発行「写真で楽しむ世界の鉄道-アメリカ」2分冊のはずです。

 ところでインターネット上ではbokukouiさんの筆無精者の雑彙に読後感がありました。私も同じように、この本が斎藤晃氏の蒸気機関車シリーズや加山昭氏の「アメリカ鉄道創世記」を参考文献に挙げていないことが不思議でなりません。著者が医学博士で専門の著作を多く著し、鉄道関係でも「幌内鉄道史」とか「国鉄乗車券類大事典」を書かれた趣味人であるからです。それに「アメリカ型4-4-0」や「モーグル型2-6-0」という表記は無いと思います。(すなわち、こういうことを分別できる方には、大変に有用な本だといえます)
 本の一部はアマゾンで立ち読みできます。アメリカ鉄道の通史を日本語で読める稀有な本です。

【追記1】本書の写真転載元で「トレイン」となっているのは、我が国の「とれいん」誌ではなくて、たぶんアメリカのカーンバック社発行「Trains」誌のはずです。図版の引用先が不明瞭な点も本書の欠点でしょう。2008-07-10

【追記2】風雅松本亭にも本書の感想を見付けました。2008-11-30

【追記3】本書の著者、近藤喜代太郎氏は2008年9月に亡くなられていました。四国新聞社のサイト(リンク切れ確認2014-01-10)です。謹んで故人のご冥福をお祈りします。2010-05-06

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