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2008/08/17

大平原の煙

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 プレス・アイゼンバーン刊、William T. Harvey著、大東孝司訳「大平原の煙 with Big Boy of Union Pacific」を古書サイトで見つけ、入手しました。新刊だった頃はアメリカ型に興味が無くて、外国人がどうして日本で出版するのだろうか、と怪訝に思った記憶だけが残っています。新本定価1,600円、送料300円が、2,500円に送料340円でしたから、まずは順当な値段です。

 本の大きさは280×280mmという変形版、手持ちのスキャナーに収まりきらないため、上の表紙写真は下部が欠けています。総アート紙の全50頁で、カラーの表紙と口絵1枚を除きモノクロ、最初の2頁に見開きで「本書をごらんいただく前に」と題する最初の大陸横断鉄道開通時のエピソード、その後に大判の写真でFEF、チャレンジャー、ビッグボーイなどの蒸機から、タービン機、ダブル・ディーゼルまでの活躍を伝える37頁、次に本文とも言える「ビッグボーイの機関士として」というテキスト7頁、さらに高田隆雄氏所蔵のUP形式写真、訳者後記という構成です。

 驚くべきは大判写真です。
 機関士をしていた人間の余技というレベルを遙かに超え、正にプロ並みです。「第二次世界大戦中、B-17の爆撃手兼偵察カメラマン」で、使用機材が「ミノルタ二眼レフならびにコダック製ボックスカメラ」だという解説はむべなるかなです。そして熟知している機関士本人の目で撮影されたバルブギアや給炭台のアングルには唸らざるをえません。

 ただ、この写真集には残念な点が幾つかあります。小さいことでは、表紙の題名の文字が右下がりに傾いていることで、上の写真は0.6度ほど左回転させて直しています。単純な造本上の不手際ですので、ことによると私が入手した本だけかも知れません。
 もう1つは、奥付に発行年が無いことです。とれいん誌の広告を確認していくと、1980年1月号に予告があって、次の2月号以降が本式の宣伝になっていますから、間違いなく1980年刊行です。なお、広告は翌81年7月号までで、この出版社が出した本にしては珍しく早く売り切れたようです。

 本質的な面では、私は前もってGiants of the Westの「Tom Harvey」を読んでいて、著者の意図が、生身の人間が冬はマイナス数十度にも及ぶという過酷な自然環境に立ち向かい、個人個人の卓越した能力で国家を支える広大な鉄道システムを動かしていた時代を活写するというところにあることを知っていますから、この本の編集性向が車両自体や歴史への興味に置かれていることとのミスマッチを痛切に感じます。すなわち、渾身のフォトとテキストが、モデラーが抱くディテールへの興味を満たし、かつ動力車変遷を解説するための素材として扱われてしまったということです。
 あるいは、この本の出た時代、買う側である日本の趣味人がアメリカの鉄道に対して抱いている嗜好を考えれば、致し方ない味付けだったのかもしれません。

 また写真は暗部が潰れ気味で、折角の大判による情景を伝えきっていないのではないかとも思います。ただし、これも当時の印刷技術では無理な注文でしょうか。とれいん誌を眺めていくと1981年後半から写真が格段に良くなっていきます。81年12月号に著者William T. Harvey氏撮影のUP保存機、チャレンジャー3985とFEF8444のカラー写真が掲載されていて、これらは正にシャキッとしています。

 しかし、このような数々の不満な点があるにもかかわらず、著者の思いは確実に読む者に伝わってきます。鍛え抜かれたスチールの持つ感触や2,000mを越える高地に降る雪の苛烈さ、さらには重責を全うする鉄道人の魂の鼓動が、紙面から滲み出ているのです。
 もし、古書店で見掛けたら、手にとってご覧になることを強くお奨めします。

Bigboy Challenger Pictorial ビッグボーイ機関士手記 ビッグボーイの機関士の手記 米国 図書 エリエイ 書評

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日本語写真集賞賛」カテゴリの記事

コメント

 あまり思い出したくない本をご紹介いただきまして、赤面の至りです。
 この本は一度も校正されずに出されてしまった本で、訳者としては極めて残念な限りです。
 提出した原稿は、地名、人名とも全て原語で書いてありました。それを編集部が独断でカタカナにしてしまったのです。
 Wahsatchをワサックとしたのには参りました。著者名もページによりハーベイ、ハーヴェイとあります。本当はハーヴィなのですがね。
 構成もこちらが考えていたものとは全く異なり、写真もよくありません。原版は驚くほどシャープです。

投稿: 大東孝司 | 2008/08/18 09:12

翻訳者ご本人によるコメント、ありがとうございます。奇跡的な出会いから献身的ともいえる御尽力により、この様な珠玉の写真とテキストが出版まで漕ぎ着けたことには本当に頭が下がります。

投稿: ワークスK | 2008/08/19 01:11

 表紙については残念なことがいくつかあります。まず副題の"with Big boy of Union Pacific"です。これは中学生の英作文のようです。訳者に断り無く入れられたものです。Along with ・・・ とでもしたいところでした。
 この写真の6×6のポジフィルムは紛失したのだそうです。ありえない話です。
 どこかでお見かけの時はご連絡を。

投稿: 大東孝司 | 2008/08/20 00:24

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