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2008/09/20

旭屋書店の鉄道書コーナーにて

 久しぶりに大阪は梅田に出る用事があり、マッハ模型に寄ってみました。ただしモデリングから遠ざかっている身には情けないことに何も買うものが見つかりません。その足で旭屋の8階に上がると、今月発売の鉄道雑誌目当てなのか賑わっています。

 ざっと一巡すると、奥の方にMR誌が置いてあるのが目に留まりました。その陰にTrains誌と"How To Build Realistic Layouts"というレイアウト解説が約10冊ずつ並んでいます。MR誌が2冊ほどでしたから、たぶん3書とも同じだけ仕入れて、他の2書が売れ残っているのだと思います。

 その傍らに張り出しで数冊置かれていたのが『文豪たちの大陸横断鉄道』という新書です。アメリカはあるかな、とパラパラと捲ると最後の数ページだけでしたので、立ち読みを決め込みます。
 出ているのは2人で、野上弥生子の『欧米の旅』と、永井荷風の『あめりか物語』です。
 前者は太平洋戦争開戦直前の1939年に、ニューヨークからシカゴまではNYC、シカゴからグランドキャニオンまではAT&SFに乗ったとあります。NYCは「激しく揺れた」とのことで、ウォーター・レベル・ルートだと信じていた私には意外でした。それでも「タイプライターを打ち続ける」女性記者がいたそうです。

 荷風の方は1904年前後に4年もの長期滞在ですから大変貴重な体験です。シカゴに近いカラマズーからセントルイスまで、折から開催された万博見物に行ったとありました。セントルイス市内で知人が手を挙げて青色のインタアーバンを停め、1時間ほど乗った郊外で泊まったそうです。またインタアーバンはシアトルからタコマまで乗車したともありました。何という鉄道なのでしょうか、興味を惹かれます。
 ところで多くのページが割かれているのは、満州やシベリア、それにヨーロッパです。小島英俊という著者名に記憶があると思ったら『流線形列車の時代』を著された方でした。

 次に目が行ったのは平積みになっていたアメリカ型蒸機の表紙です。『Rail Power 機関車の歴史-北米編-』という書名で、なんとカタカナで「スティーブ・バリー著」とあります。
 蒸機は動態保存機を車輪配置毎、ディーゼル機はメーカー毎にまとめてあって、どうも写真は全部、著者一人の手になるもののようです。ニュージャージー州在住ということで東部の鉄道、特にGG-1をはじめとする電機に多くのページが割かれています。最後の方にモーティブ・パワー社の最新モデルMP36を収録していることに気持ちが動いて、というか、梅田に未だ一円も落としてなかったので、レジに持っていくこととしました。

 で、帰りの電車内で読み始めると、買う前から気が付いていたものの文章の酷さは気の遠くなるレベルです。
 例えばp32は……燃料輸送車は、「T」というアルファベットを彼らのホイール規定の後に続けた(例えば0-6-0T構成のように)。そして燃焼室車両には「F」を付けて、時折それらの機関車の燃料輸送車と貨物車両の両を牽引した。その際には、0-6-0T&T構成と表示して指定する必要があった。("F"はファイアーレスですね)

 またp73には……No.610はエレスコ社によって製造され、車両の先頭部分の一番上には特徴的な吸水ヒーターを備えていた。技師が入れる水は、ボイラーに入れる前に機関車からの排気で予熱するため、ヒーターに入れられる。("吸水"は"給水"の誤変換でしょう)

 なにをかいわんや。機械翻訳のままです。
 ただし、このブログの読者なら容易に読み替えられるはずですから、原文の類推はそれはそれで一つの楽しみとなり得ます。……レイモンド・ルーイ、シェネックタディ、モーグル、10車輪車、ホースショアカーブ、アレガニー山脈、リマ・ハミルトン……

 出版社のスタジオ タック クリエイティブはバイクなどを専門としているところの様です。冒頭の英文を読むと、原本はアメリカで2006年に出版された『Rail Power』という本で、原書も訳書もPrinted in Chinaと記載されています。これは疑う余地が無く翻訳まで請け負わせていますね。(ことによると、向こうから売り込みがあったか!)
 本の大きさが全く一緒ですから、写真とレイアウトはオリジナルのままのはずで、14.95ドルが税別1,900円ならば、私の様な英語音痴にとっては十分に価値があります。
 ただアメリカ型の蒸気機関車といえば定番のUPビッグボーイは、活きている姿を著者が撮影する機会がなかったということか、出てこないところが潔いと感じました。表紙は説明が全くありませんが、サンタフェの4-8-4動態保存機です。

 ところで旭屋で感激した本は、片野正巳さんの「1号機関車からC63まで」という蒸気機関車のサイドビュー・イラスト集です。旧著の「陸蒸気からひかりまで」と同じように、この先、なん十年にも渡ってモデラーにインプレッションを与え続けることでしょう。
Book Review Steve Barry Voyageur Press ブックレビュー 書評

■「1号機関車からC63まで」については鉄道ホビダス「編集長敬白」で一部中身を見ることが出来ます。2008-09-20

■「文豪たちの大陸横断鉄道」がbokukouiさんの「筆不精者の雑彙」に取り上げられているのを発見しました。永井荷風がシアトルからタコマまで乗ったという電車は、Puget Sound Electric Railway という、1902年にシアトル~タコマ間36マイルを結んだ鉄道とのことです。
 この続編で、「文豪でない人の大陸横断鉄道~郡菊之助『旅と交通』(北米篇)」には、ACLとFECを乗り継いでキーウエストまで達する話が出てきます。我々には、こちらの方が面白いかも(笑)2010-06-12

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コメント

Rail Power 機関車の歴史-北米編-は全く同感。ひどすぎます。
ご指摘以外にも、例えば動輪を運転士、従台車を牽引車両と訳したと思われる箇所などもありますね。

投稿: RAILTRUCK | 2008/09/21 11:45

RAILTRUCKさん、コメントをありがとうございます。この本、翻訳がアウトなだけで、よくもまあ、これだけの写真が撮れたものだと思います。原著者のエネルギーには脱帽です。欲を言えば、写真の撮影日が欲しいですね。

投稿: ワークスK | 2008/09/21 15:25

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