« エアースライド・ホッパー(2)エンジニアリング | トップページ | 関西合運2008はメチャ楽しかった »

2008/10/07

エアースライド・ホッパー(3)エトセトラ

Airslide covered hopper cars and et cetera

 イナ@ペンさんが撮影された屋根の膨らんだエアースライドについて、トレインオーダーズ・コムに質問をしてみたのですけれど、空気の入れ過ぎか、ベーキング・ソーダなどを積んで発泡したか、などとどれも類推ばかりで、残念ながら実情をご存じの方が現れませんでした。
 まとまった数の貨車がどれも同じように変形していて、また対象が1970年以降製造の側板のリブが強化されたバージョンですから、間違えて空気を入れ過ぎたなどというミスではなくて、判っていて過剰に圧力を掛けたとしか私には考えられません。

 となると、二つの方式を思い付きます。
Gimg_3109

Gimg_3106  一つは、プレッシャー・スライドPressure Slideというもので、これはBNに在籍しました。
 メインライン・モデラーMineline Modeler誌の1989年11月号に図面と解説があり、ニックネームはホエール・ベリーWhale Belly、すなわちクジラのお腹です。
Gimg_3104  エアースライドと同じGATC社が1966-67年にSALとCB&Q向けに50両ずつ新造した2800cu.ft.のセメントホッパーで、排出に50psiの圧縮空気を使い、底の傾斜が15度だと書いてあります。
 傾斜角はエアースライドと一緒です。操作圧力はメートル法に換算すると3.5kg/㎠ですから、ちょっと危ない圧力で、この貨車がタンクの形をしていることが肯けます。エアースライドの方の圧力は様々な文献に当たっても具体的な数値は示されていず、low pressure airとの記述しか見付けられません。

 モデルは記事と同時に発売されたBeaver Creek/Lone Starのブラス製品で、デカールを自作して仕上げたものです。とれいん誌の2003年4月号p84に掲載してもらいましたからご記憶の方もおられることでしょう。その後、Railway ClassicsからもBNスキームを含めて発売されています。(未だ在庫があります!)

Gimg_3113

Gimg_3100  もう一つの、圧力を掛けるホッパーは、プレッシャー・デファレンシャルpressure-differentialと呼ばれる方式です。
 写真はウォルサーズが1994年に発売していたモデルで、その説明文に、「トリニティTrinity Industries社が1987年に投入したパワー・フローPower-Flo PDと呼ばれるカバード・ホッパーで、目的は積み卸し時間の短縮」とあります。(Walthers #932-5803, 現在は品切れです)
 多分これがイナ@ペンさんが紹介されたパテントに繋がる貨車だと思います。

 下はCar and Locomotive Cyclopedia 1997年版に出ている写真で、側梁に「15 psi pressure discharge car」の文字が見えます。15 psiは、ほぼ大気圧と同等で、これでも一斗缶ぐらいは押し潰す力がありますから、円形断面をしているのでしょう。
 Classic Freight Cars Vol.11を見ると、全く同じ形態の貨車をスロール社やノース・アメリカン・カー社も製造しています。

Img873

 以上のことから、屋根の膨れたエアースライドは、プレッシャー・スライドとか、プレッシャー・デファレンシャルの、この辺りの仕組みを付加しているのではないかと私は思うのです。
 ただし、粉体にどうやって空気圧力を利用するのか、私には理解できていません。"pressure-differential"は「差圧」と訳すのでしょうが、一体、どことどこの圧力差なのでしょうか。普通、液体で加圧といったら、表面よりも上から加えると思うのですけれど、2つの方式共、空気を車体の屋根辺りに持っていくパイプが見当たらないのが不思議です。

 さて、エアースライドのメーカーであるGeneral American Transportation Corporationは元来、タンカーを得意としていて、GATXという略称もそのリポーティング・マークから来ているとのことです。戦前より貨車は荷主との関係からレンタルやリースのスタイルを採ることが多く、1980年代以降はそちらの比重が増していき、貨車の製造から離れて現在はフィナンシャル会社に特化している様です。

 ところで、このGATCはエアースライドの後にドライ・フロー Dry-Floという方式を売り出しました。私はこれ、ただの重力式だと思います。
 このイースタン・カー・ワークスのキットを購入したと2002年5月に報告していて、今回、写真を撮って製品構成の破天荒振りをお見せしようと思ったのですが、どこに仕舞い込んだのか出てきません。
 CB&Qが200両、NPが5両を購入し、後者5両がBNに引き継がれていますから、写真が見つかったら組み立てるつもりです。

Img876  エアースライドの参考記事は、モデルのディテール・アップがメインライン・モデラー誌1987年4月号、後期型のクローズアップ写真と図面が同誌1987年1月号に掲載され、さらに両記事が、前述のプレッシャー・スライドと共に、The Best of Mainline Modeler's Freight Cars Book 3に再掲されています。作り込みたい方にはお奨めしたいと思います。
 今となっては同誌の鮮やかな図面や写真、それに明快な解説が貴重です。

Dda40x001

Dda40x002 さて、こちらのグレート・ノーザン車の写真はdda40x氏にお送りいただいた、Oゲージの素晴らしいエアースライド・モデルです。American Standardというプラスチック・キット・メーカーの製品から組み立てられたものなのですが、キットというよりも、スクラッチビルドの素材として部品と図面を提供すると言った方が当たっていますから、私も2両分を持っているものの完成には至っていません。
 なお、お便りはエアースライドの原理について言及されていて、「チキソトロピィという現象を利用しています。海岸で濡れた砂をゆっくり踏むと体重を支えますが、振動を与えると沈んでしまう、あれです……」とのことです。

Img878 ■圧縮空気式のカバードホッパーを一つ、忘れていました。ACFのセンター・フロー、プレッシャーエイドCenter-Flow Pressureaideです。6年ほど前にアトラスからHOモデルが売り出されて、右写真のデモ塗装が欲しかったのですが、買いそびれています。使用圧力が15 psiでも、側面はセンター・フローそのままで十分に耐えられるようです。ただし、平板の妻面はリブで物々しく補強されています。"aide"は辞書に拠れば助手、補佐官という意味です。写真はACF発足100周年を記念して出版された"American Car & Foundry Company 1899-1999"という大冊からの転載です。2008-10-08

■新たにアトラスのプレッシャーエイドと、ウォルサーズのパワーフローの、共にデモンストレータースキームを入手して、記事をアップしました。2009-02-02

エアースライド・ホッパー(5) 18/09/29 2ベイ車の再増備
エアースライド・ホッパー(4) 15/03/14 2ベイ車の増備
エアースライド・ホッパー(3) 08/10/07 エトセトラ
エアースライド・ホッパー(2) 08/10/03 エンジニアリング
エアースライド・ホッパー(1) 08/10/02 コレクション

|

« エアースライド・ホッパー(2)エンジニアリング | トップページ | 関西合運2008はメチャ楽しかった »

新旧製品探訪」カテゴリの記事

コメント

こんにちは.色々勉強させていただいています.有難うございます.

さて,非常にお恥ずかしいのですが,ご紹介くださったMainline Modelersの貨車の本,実は持っていたりします.
記事でご紹介くださるまで,中にエアスライドホッパが載ってたことすら覚えていなかった・・ほんと恥ずかしいです.

さて,あれからチマチマ特許探ししまして,エアスライドの元になったのはUS特許2589968号であることが分かりました.
そこに,エアスライド(当該特許は,トラックなんですけどね)の加圧の度合いが載っています.
0.8~2psiなんだそうです.
2psiって言うとちょっとに思えますが,例えば飛行機が巡航時の上空で0.8気圧だったりする訳です.
(昔持ってた腕時計で気圧が測れました・実測値です)
大気圧との差は3psiくらいですか.
その時ヒコーキは,パンパンに膨れている訳です.

それと同等の耳ツンを生じる(こっちはポジティブな圧力変化ですが)新幹線のトンネル突入時でも,100系時代ですが,窓際の座席の肘掛の外に手を入れておくとマジ側板に挟まれて痛かったりしたわけです.
何が申したいかと申しますと,2psi程度の圧力でも,(ほんのちょっとオーバープレッシャになるとか),ヘタすると変なことが起きうる・・・と.

それら事象と同時に,当地で各種歪んだ貨車を拝見している一方で,オリジナルの車体を歪ませて使用するということが昨今のアメリカで出来るのかという点(車体のwarrantyとかも全部フイになりますね)も含めて,事故というのをやっぱり捨てきれないのです.

如何なものでしょうか・・・

重ねまして,たくさんの貴重な資料,有難うございます.これからもよろしくお願いいたします.

投稿: イナ@ペン | 2008/10/09 07:25

 国民性というものを考えると、イナ@ペンさんの仰るように確かに「事故」とか、あるいは「ミス」という可能性が大きくなるのかも知れません。先日のロサンゼルスでの衝突の様なことがあると、そういう思いを強くします。
 アメリカの特許ですが、お示しいただいた番号から何とかトレーラーの図面とテキストに行き着くことが出来て感激です。ただし、ファイルを保存するために専用ソフトが要るようで、また画像として「Print Screen」キーでコピーは出来ますけれど解像度がアウトで、読むのは断念です。

投稿: ワークスK | 2008/10/09 19:43

こんにちは.
コメントが舌足らずでごめんなさい.

>US特許
usptoのページはご存じの通り専用ソフトだなんだで面倒ですが,以下の手順を踏めばtifイメージで全文ダウンロード可能です.

(1)"Publication Images"のページのソースを表示
(2) ソースの下のほうに以下の文章を見つける
<embed src="/.DImg?Docid=US002589968&PageNum=1&IDKey=634D0AE766B4
&ImgFormat=tif" width="570" height="840" type=image/tiff></embed>
(3) ""内の,.DIMG以下の部分を,(1)のページのhttp://patimg2.uspto.gov/(patimg以下の数字は1とか2とか変化します)にペースト
(4)コンピュータが以下ファイルを保存しますかと聞いてくるので,素直に保存
(5)これを,各ページごとに繰りかえす

非常に面倒だったのですが,先日もご紹介したとおりヨーロッパの特許オフィスのページでなら世界中の特許文献をPDFでダウンロードできて大変便利です.例えばこれ(http://ep.espacenet.com/numberSearch?locale=en_ep)で,usナントカと入力すれば,一発で米国特許が出てきます.

投稿: イナ@ペン | 2008/10/10 02:03

イナ@ペンさん、御教示の通りで上手くファイル保存が出来てしまいました。ありがとうございました。よく判らないのですが、Explorerのバージョンとか画像ビューアーの関連付か何かが悪いのか、○○のパソコンではダメでしたが、自宅のはOKでした。
 確かにcanvasとあります。それを支えるのはwoven wire=金網ですか……

投稿: ワークスK | 2008/10/10 21:49

米国特許はGoogle PatentならPDFで簡単にダウンロードできますよ。
例えば、イナ@ペンさんご紹介のUS特許2589968号の検索ページです。
http://www.google.com/patents?id=olFLAAAAEBAJ&dq

投稿: RAILTRUCK | 2008/10/11 19:52

RAILTRUCKさん、寺久保さんのブログ共々、コメントをありがとうございました。早速活用させていただきます。
 昔だったら専門家でも四苦八苦だったブツを日本の片田舎で素人が居ながらにして閲覧できるのですから、凄いですね。taknomさんもトンでもないことを始められたし、世の中の仕組みが音を立てて変わっていることを実感しています。

投稿: ワークスK | 2008/10/12 00:17

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: エアースライド・ホッパー(3)エトセトラ:

« エアースライド・ホッパー(2)エンジニアリング | トップページ | 関西合運2008はメチャ楽しかった »