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2008/11/15

ウィントン・エンジンのEMC入換機

 EMDの前身であるEMCが製造した草創期のディーゼル入換機、SWとSW-1が異なる形式ということを知って、BNには全く関係が無いのですが、興味が出てきて勉強をしてみました。
(*^_^*)

 引っ張り出してきた資料は2つです。
 1つは定番のカームバック・ディーゼル機関車図面集で、このp34にSW、SCの図面があります。ただしこの本、現在は版元で絶版となっています。初版が出た1980年からはだいぶ年数が経っていることもあって、たぶん近々、大幅にページ数が増えた新版が出てくるのではないかと期待しています。蒸気機関車図面集の方の在庫は大丈夫です。

Seconddiesel もう1つは、私が古めのディーゼル機で教科書としているThe Second Diesel Spotter's Guide(1973年刊)です。こちらも絶版ですが、古書が潤沢に出回っています。近年、Wikipediaの記述が充実してきていますから再版の可能性は非常に低いのではないかと思います。

 さて、ウィントン・エンジン付のEMC入換機の分類です。製造は1936年から1939年までの4年間です。HTMLタグの練習も兼ねて、次の表を作ってみました。35年製の試作機2両とかNW-4、1,800hpのTは除いています。

Wintonエンジン付EMC製入換機
Model Hp.   Frame 両数  納入鉄道
SC 600 C 42 ATSF, NYC, B&M, MoPac, CGW, GTW, CNJ等
SW W 77

EJ&E, RI, CB&Q, LV, RDG, PRR, B&O等

NC 900 C 5 GN, EJ&E等
NC-1 5 Birmingham Southern
NC-2 2 MoPac
NW W 8 ATSF, NP等
NW-1 27 EJ&E, LV, CB&Q, GN, RI, CNW等
NW-1A 3 Soo

 これを見ると、出力の違いで、"S"が直列8気筒600hp、"N"がV型12気筒900hp。さらに台枠の違いで、"C"がCast、"W"がWeldというバリエーション展開が一目瞭然です。
 ただ、2種の馬力は判るとして、なぜ台枠にも2種類を設定したのかとの疑問が湧きます。はっきりとは読み取れないものの、溶接製が形を鋳鋼製に似せているということで、どうもキャスト=鋳鋼製の方が高級と考えられていた風があります。製造したのはGSCです。

 しかしこの表でも判るとおり、ユーザーである鉄道側の選択は、たぶん価格的な理由で"W"になびき、1938年以降の567エンジンではSW-1とNW-2のみと、"C"自体が無くなってしまいます。ちなみに、モデルにおけるウォルサーズのSW-1が台枠をダイキャスト一体としている感覚はこんなところにあるのかも知れません。

 ところで、この201A付グループにNW-1という型式番号がありますから、1939年以降の567エンジンの時代には12シリンダ機がNW-2で、8シリンダがSW-1と、数字が揃っていません。NW-2は1,143両、SW-1が661両と爆発的に製造されました。

【写真はThe Yardlimit Spotter's Guide "EMC Winton Powered"から引用】

 さて、ウィントン・エンジンの解説をネット上に見つけました。それまでは4サイクルで大きくて重いために据え置き用か船舶用にしか需要の無かったディーゼル機関を、軽量高速回転の2サイクルとしたところに、大きな価値があります。

 この辺りは以前に紹介したGM元会長アルフレッドP.スローンJr.著「GMとともに」に詳しく述べられています。邦訳の1967年版は一寸読み難い文章でしたが、2003年に新訳版が出ています。【経営者本としてはnoriakiさんという方の書評がお奨め】

 1920年にオハイオ州クリーブランドで創業したWinton Engine社は、ガソリン機関を製造し、EMC=Electro Motive Corporationにガソリン・エレクトリックカー(ガスエレ)用として供給していました。GMのチャールズ・ケタリングが自家用ヨットの機関を探していてウィントン社に目を付け、その供給先のEMC共々1930年にGMが買収したのです。

 1933年のシカゴ万博でGMは、シボレーの自動車組立ラインを実際に動かすという展示の動力供給用として、600hpの2サイクル・ディーゼル機関2台を運転しました。この試作エンジンがWinton 201です。これを基にCB&Qのパイオニア・ゼファー用に実用化されたものが201Aで、1934年から37年まではこのエンジン一色となります。以前に紹介した平凡社1937年刊の「時局解説百科要覧」には「ウィントン」の文字ばかりが並んでいます。長距離連続運転の流線形時代を切り開いたのは正にこのエンジンだったと言えます。
 なお、ゼファーに先駆けて開発されたUP、M-10000の機関はスポッターズ・ガイドに拠れば、191Aという型式で、"spark-ignition distillate engine"とありますから、ガソリン・エンジンの方が近いと思います。

 また、これら旅客列車用としてのエンジン単体の供給とは別に、GM-EMCは機関車完成品の製造を画策します。それまでのオーダーメイド生産とは異なり、レディーメイドの規格品を販売するという手法です。その手掛けた最初の分野が入換機でした。都市部での無煙化の要求もあった様です。一方、電気品などを社外から購入するというシステムを全て自社生産に切り替えるため、1935年から38年にかけてイリノイ州ラ・グレーンジ(マクーク)に総合工場を建設しました。
 そして、567エンジンを開発し、1939年からSW-1、NW-2、そして本線用貨物用機FTの生産を開始するのです。

 なお、ウィントンのエンジンは潜水艦などに重用され、GMのクリーブランド・ディーゼル・エンジン・ディビジョンが201Aの後継として、248、248A、268、268A、278、278Aなどというモデルを製造した様です。

先日、三菱重工の栗東工場を見学する機会があり、その玄関でゼロ戦エンジンの一部を展示しているのに目が留まりました。キノコ形のバルブが縦半分にカットされていて、断面の傘と軸の部分がT字に空洞になっています。軽量化のためかと思って尋ねたら、案内者が言うには、金属ナトリウムが充填されていて、目的は排気バルブの冷却だったそうです。
 早速ネットを検索すると、情報がありました。製造に携われた方の思い出話は「10.中空排気弁鍛造用スウェージング・マシン」【リンク切れ】です。最初はドイツからもたらされた技術で、今でもスポーツカーに採用されることがあるそうです。
 1930年代から40年代に掛けて、レシプロ・エンジンの技術が急速に発展し、行き着くところまでいっていたような気もしますが、内燃機関は、というか、内燃機関、得意な分野ではないので、トンチンカンかも知れません。皆様のご助言をお待ちしています。

【追記】dda40x氏からメールで、ナトリウムが軽い点も排気バルブに使われている理由の一つと伺いました。なるほど比重が0.97で水よりも低い値です。中学の理科の時間だったか、教師が灯油の中から塊をピンセットで摘み出してナイフで小さく切り、水の入ったビーカーに入れて素早くフタをした途端、火花を出して激しく飛び回った場面を思い出します。高速増殖炉もんじゅといい、何か危ないものという印象しか私にはありません。2008-11-18

【追記2】クラシック・トレインズ誌2005年「流線型特集」号にウィントン・エンジンの記事を発見しました。11頁にわたっていて、開発した機関の一覧表もあります。2012-06-08

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コメント

こんにちは、お世話になっております。
ディーゼル機関車図面集は絶版になったんですか。20年ほど前に古本屋で出ていたのを蒸機とセットで手に入れました。写真をパラパラと見た程度で、エンジンの分析をするほど読んだことはないですが。

投稿: ヤマ | 2008/11/25 00:54

ディーゼルが全160頁で古本の74~137ドル、蒸機が全272頁で新本の33ドル、何か変ですね

投稿: ワークスK | 2008/11/25 21:20

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