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2009/01/26

ブリッジ&トレッスル・ハンドブック

An introduction of the book, Bridge and Trestle Handbook, by Paul Mallery. How wonderful curved girder bridges and ballasted floor framed timber trestles are!

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 前回お話しした鉄道模型趣味2009年2月号で、私が心を動かされた記事がもう一つありました。それは表紙となったレイアウトで、畑川政勝さんの「入江のモジュール」です。雪が解け出した風景の中に流れる水面の揺らめきがライティングの妙技と相まって、まさに詩情を醸し出しています。
 HNモジュールという規格は最小半径が420mmとのことで、ローカル線を再現するには格好の規格だと思います。このグループの展示は、秋に開催された2008鉄道模型大集合in Osakaでも拝見しました。

Tms0902 ところで、TMSのこの作品で気になったものはプレートガーダー橋です。完成後は目立たないのですが、工作途中の写真では線路に沿って桁が曲げられていることがハッキリと判ります。工作用ボール紙を用いたとのことで、さぞや大変だったことだと思います。
 一部の方はご存知でしょうが、主桁は、実物では全て直線なのです。【転載した図はクリックで拡大します】

Curve
Cant  この辺りの解説が、ちょうど入手したCarstens社刊「Bridge and Trestle Handbook」にクドい様に書かれていました。上はそれを説明する単線の図です。ちなみにカントは、右図のように1本ずつの枕木を持ち上げるか、削るかで付けられます。

 実物の状況を見ることはなかなか難しいので、モデル化するイメージが湧かず、実際にはTMSの記事のように作った方が違和感が無いのかも知れません。レイアウトは余りに急曲線です。ただしこの辺り、編集部でコメントを付けるなりした方が良かった様な気がします。
 私の記憶では、近鉄京都線宇治川鉄橋桃山御陵前駅寄が曲がっていたはずです。

Img663b さて、このハンドブックですが、表紙の絵を見て私は長い間、内容はフェリーか何かだろうと思っていました。橋の本と気付いて今回のウォルサーズ社への注文に混ぜてみたのです。
 オリジナル版は1958年の出版で、著者はロングアイランド鉄道の橋梁技師を務め、のちに橋梁会社を経営した方。そして、この版はその子息で、モデラー向けの本をたくさん著されているPaul Mallery氏が手を入れたものとのことです。ですから、そんじょそこらのものとはレベルが違って、例えば古典蒸機ファンにはおなじみのCooper's Loadings、クーパー荷重の解説があったりします。

 我々に最も有益なデータは、プレートガーダーについての諸元一覧表でしょうか。50フィートの単線用では、近代重量級で高さが6'、補強縦アングル11本、上辺補強板50'×1+30'×1+20'×1枚。近代軽量級=1900年頃重量級で高さ4'3"、補強アングル11本、上辺補強板50'×1+20'×1枚……というような調子です。
 ということで、TMSの表紙では、ちょっとヘビーデューティかな、と思わなくもありません。

 我が目を疑った写真は、SPの5277号機、ボールドウィンのAS-616が巨大なティンバートレッスルを渡るものです。この説明に"Ballasted Floor Framed Timber Trestle"とあります。すなわち、木橋がバラスト道床だというのです。

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Trestle UPやAT&SFでは珍しくないそうなのですが、何故だと思われますか?
 私が今まで聞いた話で「有道床化」といえば必ず環境対策、防音が目的ですけれど、両鉄道とも荒野の真ん中を突っ走りますから、そんなこととは無縁のはずです。バラストがあれば降った雨が乾き難くく木材の寿命が心配です。

 で、書いてある理由は"ハイスピード、ヘビートラフィック"だそうです。鉄橋も一緒です。
 言われてみれば、地面上より橋上ではレールの支持弾性が硬くなります。また、橋脚で支えている点は硬いけれど、その中間は撓んで柔らかい……ということで、高速だったり重量が過大な場合には凄い上下動が起こることが考えられなくもありません。にわかには信じられませんけれど。

 他には日本で稀なMovable Bridge、可動橋については33頁に渡って解説されています。彼の地で実際に見ている方には興味深いことでしょう。ターンテーブルもこの範疇に含まれています。またヤジロベー式cantilever等を組み合わせた長大橋についても紙枚が割かれています。

 ところで、私が昔からレイアウトで"変だ"と思っているのは、勾配中の橋が概ねレールに沿って掛けられる、すなわち橋桁が傾いていることです。実物は水平で、枕木にカマしものをして一方のレールを持ち上げていると認識しているのですが、手持ちの文献では見つからないし、この本にも書いてありません。記憶では、上田丸子電鉄真田傍陽線の神川鉄橋(デッキトラス)がそうでした。風景の中で傾いている大きな人工物には違和感があると思うのですが……。

 巻頭にある著者の言葉です。「リアリズムを付加するよりも、むしろそれを損なう目障りな橋は、ほとんど、いつも、知識欠落の結果だ。モデリング・スキルの欠乏ではない」 The eye-sore bridges which detract rather than add to realism are almost always the result of lack of knowledge of bridges, not lack of modeling skills.

【追記】何を血迷ったか「単線」と「複線」を取り違えていました。すいません。上記の文章は訂正済みです。「橋」について日本の雑誌にも種々解説がなされていることと思いますが、私の知っているのは鉄道模型趣味1966年8月号の「トラスブリッジの模型化」(シーナリィ・ストラクチャーガイド1に再録)ぐらいです。他はどうなのでしょうか? 2009-01-27

【追記2】この本がdda40x氏のGiants of the Westでも取り上げられました。30年以上前に購入の旧版とのことです。TMSの作品には、卓越したセンスと技術、さらに渾身の情熱とエネルギーが注ぎ込まれているというのに、最初のちょっとした手違いで実感を損ねる面があるということは本当に残念です。これを避ける方向にリードすることも、専門誌が読者から求められていることだと私は思います。2009-02-18

【追記3】本文中で「実物の主桁は全て直線」などと断定してしまったものの、近年は種々カーブしているものが現れてきています。その実例を「カーブするトラス橋が実在した!」で報告しました。
 また、橋桁に勾配が付いている例が、なんと身近な京阪線にありました。ガーダー橋です。ただ、大きなトラス橋は水平に設置されるのではないかと思います。
 なお橋の話をまとめて「鉄橋ラプソディー」と名付け、一覧表を作ってみました。2009-04-14

【追記4】ティンバートレッスルの写真を追加しました。掲示板で話題としたように、撮影者はリチャード・シュタインハイマー(またはスタインハイマー)氏です。2011-12-13

【追記5】このティンバートレッスルのバラストは、どうも火災対策のようですね。RMC誌2008年10月号p88-98によれば、橋梁全体への延焼を防ぐために枕木を覆う形で散布する鉄道があったとのことです。2012-10-02

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