« NACCプレッシャーデファレンシャルPD3000(1) | トップページ | インターマウンテンPS-2CD 4750(2) »

2009/02/05

プラスチック接着変形のテンヤワンヤ

Investigating transformation of polystyrene due to adhesion, part 1

Test1
 まず、上の写真を見てください。このところ弄っていたプレッシャーデファレンシャル・カバードホッパーの側板です。3組のうち、右がキットオリジナルのPD5125用で、左が積層プラ板から削りだしたPD3000用です。
Test3_2  で、フニャっとなった真ん中、これこそがパーツを流用して改造したものの"成れの果て"なのです。

 ちょっと長くなりますが、経緯をお話しします。

 まず、削り出しが単純で確実ということは最初から考えてはいました。でも、それでは力仕事で骨が折れるし、面白くもない。それで、キットの切り詰めを決断したのです。
Test2  ここで問題は、接着剤に何を使うか、です。瞬間接着剤が一番適当ですが、合わせる面同士が密着する精度を出すことは私には無理だし、一度失敗したらこびり付いた接着剤を削り取るのが面倒です。
 では、流し込みタイプを使おう、リモネン系は初期接着力が弱くて使いづらいということで、最終的に、従来の主成分がメチルエチルケトン=MEKのものを用いることとしました。これならプラスチックが溶けるのが早くて、合わせ面がグニューと食い付いてくれます。
 もちろん、思惑通り、3晩で求める形になりました。

 さて、このMEK系での悩みは、以前にも書きました通り、後々の変形です。完成後しばらくしてヒケやヒズミ、また形崩れが往々に起こってくるのです。
 ここで私に、長年温めていた秘策がありました。すなわち、幾ら変形するといったところで、塗装前なら何んとかなる。だから、組み上げてから日数を置いたらどうかということです。修復が困難なほどに大きく崩れることは無く、パテで十分にリカバーできると考えました。
 さらに思い付いたことは、温度を上げたらどうかということです。溶剤が揮発していく反応は高温下では促進されるはずだから、2ヶ月も3ヶ月も待つ必要は無くて、たちどころに"枯らし"の状態とできるというアイデアです。

 それで、カミさんの留守を狙い、ガスコンロで湯を沸騰させた鍋に放り込んだのです。そして結果が、これというわけです。

 もちろん、私だってプラスチックに軟化温度があることを知っています。ただ昔、1.2mm板をヒートプレスしようと煮込んだときには全く変化がなかったし、確かそれが130℃と読んだ記憶があったものですから、全く躊躇しませんでした。
 あとから思えば、どうして事前にテストしなかったのかと悔やまれます。3晩掛けてシコシコ加工し、満足のいく形に仕上がっていたのですから、目の前で起きた事態には息が止まりました。鍋のことがありますので家族には愚痴れませんし……。

Test4  実は、加工した側板と共に、ついでにと、プラ板のテストピースも放り込んでいました。0.5mmに2mmをT形に接着したものです。MEK系とリモネン系で接着したものを各々3つ、それに瞬間接着剤を2つ用意しました。このうち各々1つ(手前の3つ)は常温下で様子を見るためのものです。
 そしてこれらも1晩置いた後に、鍋の中でこのザマとなりました。側板と全く同時でしたけれど、変形が少ないのは根本的に材質に差があったからだと思います。色が白くて輻射熱を受け難かったという可能性もあります。
Test5

 ところで、この悲惨な顛末の中でも、判ってきたことがあります。
 一つは、リモネンが接着部を変形させない、あるいは変形させ難いことは"本当らしい"ということです。上の写真は接着後11日目の状況ですが、この真ん中の列の一番手前、常温で置いたリモネンのテストピースが全く曲がっていないところをご覧ください。ただし、熱湯に入れた方には曲がっている様に見えるものもあるので、絶対的な確証ではありません。MEK系にも接着部分が真っ直ぐなものがあります。

Test7_2
 もう一つ判明したことは、接着部に発生したクレーターです。左がMEK、右がリモネンです。当然、染み込んでいた溶剤が爆発的に蒸発したときに出来たのだと思います。この点の考慮は、沸騰=100℃は無理としても、それよりも低い温度で溶剤蒸発の促進をしようとするときに必要になることです。

 というわけで現在、私の知りたいことは次の3点です。
(1)リモネン系はMEK系よりも接着変形が本当に少ないのか?
(2)接着変形の収斂には常温でどれくらい待てばよいのか?
(3)(2)の時間短縮のために高温度下に置くという方法は可能か?

 我々が常用するプラスチックはポリスチレン、あるいはスチロールと呼ばれる樹脂で、メーカーによってグレード等があるようですから、個人レベルの試みで再現性とか定量的な結論を求めることは、たぶん期待できないでしょう。しかし、何とか傾向だけでもつかめないかと、今後も少しずつ試していこうと思っています。
 もちろん、こんなことはプラモデルを弄る上では基本的なことですから、既にどこかで誰かが本格的に調べている可能性はあります。もし、そんな実績や経験をお持ちだったり、また記事や文献をご存じでしたら、是非教えていただきたいと思います。

■一連の話の流れについては「接着剤の悩み:記事リスト」をご覧ください。

|

« NACCプレッシャーデファレンシャルPD3000(1) | トップページ | インターマウンテンPS-2CD 4750(2) »

ちょっとしたヒント」カテゴリの記事

コメント

こんにちは.

日本で曲がりなりにも高分子化学を学んだものでして,思わず出てきちゃいました.ただ,記事中で投げてくださった疑問に直接答える知識は持っておりませんので,あくまで高分子屋さんとして申し上げるに留めさせていただきます.

まず,グラグラ熱湯というのは,ほんのちょっと温度が高かったですね.
キットのパーツはもしかしたらABS,あるいは普通に耐衝撃性ポリスチレンでしょうが,これらの軟化点はPSは90℃前後,ABSであったとしても100℃前後です.軟化点は融点ではありませんで,その温度以上で樹脂がドロドロに融けるわけではありませんが,それぞれの部材が持っていた歪み等が全て出てきます.特にキットのパーツの場合,射出成型品です.成型時に生じた歪みをなくす方向にパーツが変形したのが,ご紹介くださった結果を生んだと思われます.
白プラ板の場合,射出成型ほどの歪みはもともとないと思われ,結果が違ったと思われますが,それぞれの接着剤で変形の度合いが異なったのは,接着剤がどれだけ,樹脂にとっての「可塑剤」として作用したかだと思います.
「Like dissolves like」というより,よく溶かす溶剤は(残存している限りは可塑剤のように振舞う)それだけ樹脂の熱特性に影響も及ぼすと思います.要するに,同じ温度に曝してもより多く変形する,みたいな.

瞬間接着剤の場合は部材を溶かす作用はほぼ無視できるレベルと思われ,瞬間接着剤使用で熱湯でグラグラしたものの歪みは,接着剤に関係なくプラ板を熱湯で煮たら出るレベルと思われます.

ただ・・・リモネンの沸点は176℃,MEKは80℃です.
普通に考えれば,MEKなどよっぽど早く飛んじゃうはずなんですけどね・・・

長ったらしくてすみませんm(__)m

投稿: イナ@ペン | 2009/02/06 07:30

 イナ@ペンさん、高分子材料のご説明をありがとうございます。当方、根が機械屋なものですから、"ナマモノ"にはトンチンカンです。
 やはり、近道を行こうとしたところに落とし穴があったという図式ですので、まず地道に、変形が収まる期間を探りたいということで、新たなテストピースをこしらえました。また報告しますので、よろしく御教授の程お願いします。

投稿: ワークスK | 2009/02/06 23:28

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« NACCプレッシャーデファレンシャルPD3000(1) | トップページ | インターマウンテンPS-2CD 4750(2) »