プラスチック接着変形の研究:第5報
Investigating transformation of polystyrene plates due to adhesion by d-limonene and methyl-ethyl-ketone(MEK), part 5
今回の報告は第5回目ということになりますが、実は実験開始から33日目以降の測定を行っていません。というのも、前回に報告したMEK 3mm試験片での翼逆反り現象がそれ以外の全ての試験片でも現れたのです。
前回、試験片が反る現象の原因はクリープと書いたものの、結局私にはよく分からなくなってしまいました。すなわち、変形がいつ終わるのかを確認したいにもかかわらず、別の要素が入ってきたために数値的に追跡する意味が無くなってしまったということです。【画像はクリックで拡大】
一応、これまでのデータをまとめようと、ちょっと乱暴な処理になりますが、それぞれ3個の試験片の平均を出して、かつその前後3回分の移動平均をグラフ化してみたものが次です。
MEK 3mmとリモネン 3mmに関しては、これで変形が終了したとは言い難いものの、所期の2つの目的は達したのではないかと思います。
まず、dリモネン系がMEK系よりも遙かに変形が少ないことは明白です。変形自体はMEKと同じ様に体積が縮小する方向に生じているものの、ヒケが極僅かであることは期待できます。特に接着面積の小さい場合は、無視できそうです。
次にMEK系での変形の進展度合いは、接着面積と気温に依存する気配が濃厚です。その中で、寒い2月から3月でこの程度ですから、2~4週間ほどを見込めば、実用上は問題ないかと思います。ただし、1週間では危ないと断言できます。
ところで、面接着の方は、1ヶ月経過後の今の時点でどれも目立った変化はありません。MEKの0.5t+1.2tで0.5t側に僅かな歪みが出てきたくらいです。リモネンは未だに僅かに香る様な気がします。こちらの実験は長丁場となりそうです。
30数年前にシンナー接着で作ったセキ6000を10両の内で、歪みが出た側面数が1.5両分だけだったことから考えると、現象は作業の一寸した違い、あるいは確率の問題という面があって、判断が難しいかも知れません。
もちろん、単純な探求心からいえば面白いテーマですから、大幅にサンプル数を増やして系統的に傾向を把握したいという気はあるものの、気力的にちょっと大変です。ここまで傾向がつかめたのですから、そんなことよりも実際にモデルを作って経験を積み重ねていく方が、結局は実用的ではないのかと思い始めているところです。
昔のメインライン・モデラー誌(MM)でHundman編集長が見せてくれたプラ素材を縦横に使っての複雑な造形を、「しばらくしたら変形するぞ」と疑っていたものですが、リモネンがあれば実現可能と思えてきました。
私の拘っているBN物で、密かに狙っている題材がいくつかあります。それらはマスプロ製品では絶対に売り出されないマイナーなもので、今までは「定年後の楽しみに……」等と悠長に構えていました。それが、目が利かくなったり、思考力や根気も落ちてきて、ちょっと焦りが出てきた今日この頃といった案配です。
■一連の話の流れについては「接着剤の悩み:記事リスト」をご覧ください。
【追記】先日、ある方にプラ板で製作中の1/45の電車を見せていただきました。驚いたことに、接着剤は普通のプラ用というにもかかわらず、変形が全くありませんでした。
それで、4年半ぶりに試験片を取り出して見てみたのです。
面接着のものには、どれも数値化できないくらいの僅かな反りが認められました。その方向が皆同じなので、接着のときに力を加えたせいかもしれません。
悩んだ結果、初期のプラ板は残留応力を持っていて、変形はそれが解放されるために発生したのではないかと思えてきました。射出成型したモールドではほとんど見られず、たぶん圧延工程を経ているはずのシート材で起こったからです。
そして、近年製造されたのプラ板では、この残留応力を少なくする処理、例えばアニーリングがなされているという推論です。メインライン・モデラー誌でハンマン編集長は変形について語っておられないのですから、メーカーによっても異なる可能性があります。確認する試験をやった方が良いのでしょうか。2013-10-09
【追記2】リモネン以外の市販溶剤系は、Mr.ホビーとタミヤがあります。成分をみると、前者がMEKで、後者が酢酸ブチル、アセトンと、全く異なります。揮発は前者が早いという話があって、変形にも影響するかもしれません。2016-11-01
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