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2009/05/22

グレンフィナン高架橋は曲がっているか

Which is the element arch of Glenfinnan Viaduct, Scotland curved or straight?

Img102b
 しばらく前の5月19日、朝日新聞夕刊(大阪本社3版)では既に新型インフルエンザ騒ぎが始まっていましたが、私は呑気にも、朝日サンツアーズという旅行会社の広告に目が釘付けになっていました。カーブしたアーチ式高架橋を蒸気機関車が走る写真が出ていたからです。
 早速ネットを辿れば「~ヒースの花咲く雄大な大地とミリタリー・タトゥ鑑賞~ 列車で巡る・スコットランド紀行 9日間」という、関西空港発着のイギリスツアーです。


Wikipedia

 宣伝文句には、欧州モノに疎い身に耳慣れない固有名詞が並んでいます。

○ウェスト・ハイランド鉄道「ジャコバイト号」 1894年に開通以来、フォート・ウィリアム~マレイグ間を今も変わらず走り続ける蒸気列車「ジャコバイト号」。最近では映画「ハリー・ポッター」に登場しました。ハイライトは世界最古のコンクリート橋グレンフィナン高架橋です。 ○景勝路線のカイル~インヴァネス線 ○最果ての島・スカイ島に宿泊 ○スコットランドらしい魅力 ・氷河が作り出したダイナミックなU字谷グレンコー ・歴史が息づくスコットランドの首都エジンバラ ・イングランドから独立を勝ち取った栄光の城スターリング ・スコットランドの産業と芸術の中心都市グラスゴー ・謎のネッシー伝説残るネス湖 ・ヒースの花咲く荒涼とした風景ハイランド地方 ○ミリタリー・タトゥーを見学!  独特の音色が世界的に有名なバグパイプと、タータンチェックの衣装に着飾った軍楽隊のパレード「ミリタリー・タトゥー」を楽しみます。

 「ウェスト・ハイランド鉄道」、「ジャコバイト号」 、「フォート・ウィリアム」、「マレイグ」、「カイル」、「インヴァネス」、「ミリタリー・タトゥー」等々、皆さん、ご存知なのでしょうか。

 この中で問題は「グレンフィナン高架橋」です。
 発端は1月29日の記事「ブリッジ&トレッスル・ハンドブック」でのアーチ橋についてのコメントでした。

 まず鉄道模型趣味TMS誌1988年12月号から佐伯二郎氏が連載された「鉄道橋ガイド 」より、次の文を私が引用しました。

「実はカーブしているのは線路だけで、アーチそのものは直線になっています。模型では、多少のウソは承知の上で、曲線区間に石積アーチ橋などを作ることがありますが、急カーブは不自然で工作も難しくなります。やはりアーチ橋は直線が基本なので、後述の作例のように直線アーチを組み合わせて曲線に対応するのもひとつの方法です」

 スイスの有名なレーティッシュバーンのラントヴァッサー(ランドバッサー)橋をネットに探すと、ディテールが判る写真があって、確かに一つ一つの石積アーチが直線となっています。

 ところがskt48さんから思いがけない情報が寄せられました。曰く、ハリーポッターの映画に登場する世界最古のコンクリート・アーチ橋、グレンフィナン高架橋は、曲線を描いているようにみえる……というのです。
 これには慌てました。

 確かにグーグルの画像集を繰ってみると、側壁は曲面にしか見えません。ウィキペディア英語版には同橋の解説があったものの、この辺りは不明です。
Glenfinnanviaductmap1  英国のMAgicというオンライン地図を拡大してみると、曲線半径は約200mです。長さ400mで21連ということから、側壁が曲面だと仮定して計算すると、張り出している寸法は「200-SQRT(200^2-(400/21/2)^2)」ですから、19mの径間で227mmほどになります。

 このウィキペディア文中の「using concrete without reinforcing」は、「コンクリートに鉄筋を入れなかった」ということでしょうか。だとすれば、石積みアーチ橋と一緒で、各部材には圧縮応力だけを作用させ、引張や剪断、曲げを掛けない設計になっています。荷重はレールから枕木、さらにバラストへと伝わり、アーチ・トンネルの曲がった壁に加わる圧縮力で受けるはずなのです。
 ならば、227mmの張り出し、あるいは凹みには飾り以外に意味がないということにならないでしょうか。

 この高架橋の近傍に名前も同じグレンフィナン駅があって、博物館が併設されていました。実は直ぐに、この辺りの疑問を教えてほしいというメールを送ったのですが、残念ながら未だ返事をいただけていません。

 ところで「地球の歩き方」というサイトの「誇り高きジャコバイト号と美しきスカイ島」という記事は、なかなかの魅力を紹介してくれています。
 スコットランドに興味があって懐に余裕のある方には是非とも参加していただいて、ついでにこの辺りの写真を撮ってきて欲しいものですね。

 なお、レーティッシュ鉄道ではベルニナ線のブルージオ・ループも、側壁が曲面だという話があります。もちろん、こちらでもOKです。グーグルの画像集をご覧ください。

【追記1】我が国の雑誌「とれいん」に、The Royal Scotsmanというツアー列車に乗って撮影したグレンフィナン・バイアダクトの写真が掲載されていました。1991年8月号p76です。カンチレバー式のForth Bridgeの方は覚えていましたが、こっちは気が付きませんでした。ところで松本謙一夫妻が参加した5泊6日の列車でスコットランドを巡る豪華ツアー、いくらだったんでしょうか。
 また日本の方で、素晴らしい写真を公開されている方がおられました。2009-01-19

【追記4】グレンフィナン高架橋の俯瞰写真が"とれいん"誌2020年10月号「英国鉄道へのいざない」第5回に掲載されました。33頁です。こりゃあ壁面はカーブしてますね。2020-09-22

【追記2】skt48さんから追加情報で、南半球はオーストラリアの例です。「ある写真リポートの中にこんな写真を見つけました。Zig Zag Railwayのviaductです。アーチまでは直線、キイストーンから上の石積みがカーブを描いているようにも見えます。これはやはり 装飾的な意味合いからの構造でしょうか。スイスのBrusio Circular viaductのほうは、橋脚上部(二つのアーチが交差する点を通る垂直線部)の石積みを良く見ると、乱れが見られるように思えます。やはりここで幾分折れ曲がっているのだろうと思われるのですが、どうなのでしょう? 石造りのアーチ橋でも、欄干部分は曲線を描いていることが多いようです。模型化するときに参考になるかも知れないと思い、記憶に焼き付けました(苦笑)」とのことです。モノクロ写真はWikipediaで見られる付近の橋で、Google Mapは次の辺りでしょうか。2009-08-17

大きな地図で見る

【追記3】スリランカにもありました! ⇒「スリランカの鉄道博物館と模型と」 2015-06-22

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コメント

今日は:
「側壁は曲面にしか見えません」ですが、Wikimedia Commonsの最上段、右から2枚目は明らかにカーブしていますね。目の錯覚ではなさそうです。

投稿: eltonjohn | 2009/05/22 14:59

ワークスKさま、こんばんは。
橋梁の話題で盛り上がっていますね。楽しく拝見させてもらっています。
ブルージオ・ループの方ですが、1997年に乗車し通過しました。その時の写真と展望ビデオを見てみましたら、どうやら曲面を描いているようです。

投稿: tunnel_no2 | 2009/05/22 21:52

eltonjohnさん、tunnel_no2さん、コメントありがとうございます。やはり曲がっていますか……。少なからずショックです。壁面を撫でてみたい様な……(笑)

投稿: ワークスK | 2009/05/23 00:15

ベルニナ線のループですが、レンガ積みですよね。直方体のレンガを少しずつずらして積んで、全体として曲面のように見えるということでしょうか。それともR付きレンガですか?
グレンフィナン高架橋のことはBSのヨーロッパ鉄道の旅のような番組でたまたま見たことがあります。コンクリート曲面とすれば、型枠を曲面にして流し込んだのでしょうか?

>>やはりナデナデする必要があるかと……(笑)【ワークスK】

投稿: ヤマ | 2009/05/23 21:29

TK氏に、日本にもコンクリート製の鉄道用アーチ式で、しかも曲がっている高架橋があることを教えていただきました。五新線という未成線ですが、五條市内に残っている遺跡です。ネットを探すと次のサイトに写真がありました。ここなら、ナデナデも……(笑)

E-SYSTEMをIMPに積んで
汽車旅つれづれ日記【リンク切れ】
幻の鉄道 五新鉄道を行く!!
京阪びわこ号【リンク切れ】

投稿: ワークスK | 2009/06/10 22:22

>ワークスK様
御丁寧にメールまで頂き有難うございます。
幻の鉄道 五新鉄道を行く!!のページを管理しています
shinと言います。
この度は私のページを紹介して頂き、有難うございます。
まだまだ充実出来ていないページで見づらく申し訳ありません。
今後は少しずつではありますが、良いページにしていきますので、
よろしくお願いします。

検索でいろいろと見ますと、私のページもかなり出て来るんですね。
びっくりしました。

>>コメントありがとうございます。いつかコンクリートアーチを見に行きたいと思います。‥‥3年後、念願かなって行ってきました!2012-08-15号です【ワークスK】

投稿: shin | 2009/06/11 01:12

とれいん誌09年8月号のp90に、曲線となった石積みアーチ橋が出ていました。12スパンという長さに、大型の2D2タンク機の牽引する客車5両の編成が収まった姿を、都築雅人という方が撮影されています。チェコ国鉄のリベレツというところだそうです。で、一つ一つのアーチは、私の目では直線に……。

投稿: ワークスK | 2009/07/19 13:23

こんばんは

その後グレンフィナン駅博物館から回答はありましたでしょうか?

テレビでジャコバイト号列車がグレンフィナン橋を渡る場面が出てきたので観察したら、よくわかりませんが、どうも横断面が裾広がりになっているように見えました。うちのブログに写真貼付けてあります。

情報ありがとうございました。残念ながら回答は結局なしでした。skt48さんのブログはここです【ワークスK】

投稿: skt48 | 2011/01/29 00:15

グレンフィナン高架橋のアーチ脚部は、やはりカーブを描いていたようです。よくわかる写真が掲載されている本がありました。うちのブログに載せましたのでご覧ください。

投稿: skt48 | 2011/04/22 19:51

石造アーチ橋の話ではないのですが、トンネルポータルの模型で、こんなことをしている例を見かけてとても気になりました。

http://www.geocities.jp/momo24dan/R00176121.jpg

たしか曲がったガーダー橋をつくられた方だと思うのですが、アーチ構造の意味を知ってのうえのことなのでしょうか?とても不思議に思います。

普通なら、アーチの形状はともかくも、ポータル開口部の上辺に沿ってアーチストーンを並べた表現をすると思うのですが。

>>Vollmer社の品番2506複線用を加工と拝見しました。急曲線に手こずられたのでしょう。この形だったら、同じようなシチュエーションの京阪京津線逢坂山トンネル(当ブログ)が参考になりませんか?【ワークスK】

投稿: krams | 2015/01/18 08:47

ワークスK様、今晩は。
曲線上に在るアーチ橋、大好きです。カーブしたアーチ橋はヨーロッパに行けば何処にでもありそうな気がします。例えばスイスのベルリナ線とかオーストリアのセメリング鉄道とか。昔に造られた山岳線はトンネルを出来るだけ避けたので曲線とアーチ橋のオンパレードですね。
アーチ橋のアーチ部が無ければ単に上辺と下辺の幅が等しい石積みの築堤ですので、曲線部でも荷重は垂直に掛かるだけで問題は発生しない筈です。そして、曲線の築堤部にアーチを明けても荷重は均等に逃げてくれるので、変な捻り荷重は発生しないでしょう。
そうでなければ、ローマバチカン市国のサンピエトロ大聖堂のドームとか、ローマ・コロッセアムの外壁なんて簡単に崩れたでしょう。

>>ネジリマンボの存在を知ったときには、シビル・エンジニアリングが我々門外漢の想像を遥かに超える面を持っていることを痛感したものです。そして、ん十年前に習得し、ナリワイとしたはずのメカニカル・エンジニアリングだって、ハイドロジェン・ブリトルネスなど深遠で追求し尽くせない分野を抱えているんだと、思い知らされている昨今です【ワークスK】

投稿: ミッキ〜 | 2015/01/23 23:59

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