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2009/07/23

京阪はカーマイン・レッドの心

Why are former two colors of Keihan's limited express bodies called Mandarin orange and Carmine red?

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 この7月に発売された鉄道ピクトリアル誌2009年8月臨時増刊号は9年ぶりの京阪特集ということで、日本の実物誌を”願断ち”しているはずの私も2千円の大枚を叩いてしまいました。来年が開業100周年ということで編集に力が入っているようで、初耳の話や見たことのない古い写真も目白押しです。

 中でも白眉の記事は、澤村達也先輩の「車両開発の一時代」だと思います。さらにこの内の「第3章 回生ブレーキの系譜」が技術に関心のある向きには必読です。複巻(ふくけん)電動機の仕組みをご存じの方々には特に面白い内容だと思います。

 さて現在、この鉄道の車体色が切り替わっている真最中ということで、古い色合いに馴染んできた者には一抹の寂しさを禁じ得ません。
 この号のいたるところに現れる通勤車の緑の濃淡や、特急車の赤黄色には、未練というか、惜別の感情が込められているような気がします。次回の特集発行では新スキーム一色となってしまうことでしょう。

 ところで私には、一抹の不安があります。旧特急の「マンダリン・オレンジ」と「カーマイン・レッド」の色名が、この名前で本当に正しいのかという疑問です。

 ここで話は大昔の、鉄道ファン誌1977年の3月号に遡ります。
 この号の特集は「華麗なる私鉄ロマンスカー」でした。実は、ここの「京阪」の部分を書いたのは私なのです。

Img197 もちろん、勤務しているからという単純な理由で割り振られたのですが、就職して1年ちょっとという新人は慌てました。先人に教えていただいたり、文献を借りまくって、にわか勉強を敢行したわけです。与えられたテーマは「特急」でした。印刷された号では「ロマンスカー」になっていて、テキストとはチグハグです。

 このとき、閲覧可能なあらゆる資料を漁った結果、1700系から採用された特急色の赤の方が「カーマイン・レッド」という呼び名だと、何処かに出ていたのではなかったかと思います。辞書を開くと「カーマイン:carmine サボテン科植物に寄生するエンジムシの雌虫を乾燥して得られる紅色染料、臙脂(えんじ)色」とあります。

 では、黄色の方は何だ、と疑問になるのは当たり前なのですが、これがどこにも見つからなかったのです。

 そんな中で、寝屋川工場で車体係長をされていた山本正一さんに相談したところ、何と、明解に「マンダリン・オレンジだ」という答えが返ってきました。
 こちらは「Mandarin、中国ミカン」という意味です。
 さっそく「これだ!」と合点して原稿に入れました。山本係長は「塗料メーカーに教わった」ということだったと思います。
            
 その後、あちこちで「カーマイン」と「マンダリン」を見掛けるようになりました。私としては「間違っていなかった」と内心ほっとしたものです。ただ密かな心配は、まさかそれらの根拠が私の記事ではなかったのかという恐怖ですね。
 それ以前の古い文献で確認したいと考えながら、あっという間に30数年が経過してしまいました。

 ところでアメリカ型でも、Tuscan red, Cascade green, Brunswick green, Armor yellow, Harbor Mist gray, Jade green, Big Sky blue, Royal blue, Chinese red, Glacier green, Omaha orangeなど、固有名詞を持ったカラーが目白押しです。貴方はいくつ判りますか。

【追記】鉄道ピクトリアル誌1962年3月号「私鉄車両めぐり・京阪電気鉄道(3)」同志社大学鉄道同好会(沖中忠順記)の1700、1750形の項に、「派手なカーマインレッドと濃イエローの塗り分け」という記述を見付けました。たぶん、私の参考にしたのはこれです。2009-12-30
 なお、この記事を公開した当初とは、内容を変えました。余りにも経緯がヤヤコシカッタものですから‥‥(笑)2012-11-10

【追記2】カーマイン・レッドについて、dda40x氏より面白いメールをいただきましたので紹介します。2009-07-30
 京阪の赤をカーマインというのですか。この音が日本語に入っているとは思いませんでした。
 高校の生物の時間に、「細胞を酢酸カーミンで染色」というのがありましたね。カーミンはよく聞きます。クリムゾンと同じものです。クリは虫を表すギリシア語で虫からとった赤です。確かラテン語にも入っています。カーミンも同じ語源です。
 この種の赤い虫はいろんな所に居ます。我が家の塀の隙間にも居て、直径0.5mm位のその虫をつぶすと赤い汁が出ます。ダニのようにも見えます。
 余談ですが、これは天然色素なので、食品の赤は大半がこの色です。虫から取ったものを食べるのは勇気が要りますが、「知らぬが仏」ということなのでしょう。ほとんどの人は合成色素を食品に使うと非難しますが、「天然」と言うと「素晴らしい!」ということになります。
 メキシコにはこの養殖場があります。直接見たことはありませんが、「あれだ」と指を指されました。中はかなりおぞましいものだそうです。
 さて、現実にはどんな顔料を使っているのでしょうね。有機物である天然色素が屋外で長持ちするとは思えないのです。どのくらいの頻度で塗り替えをしているのでしょうか。3年おき位なら、天然色素でしょうね。
 褪色が少なければ、何かの無機顔料を配合しているものと思われます。ペンキ屋の話によると、「鮮やかな赤」系統の顔料は大変高価だそうです。安いのは緑、青系統だということです。

【追記3】skt48さんよりも、メールを頂戴しました。2009-08-02
 こんにちは ブログのdda40x氏のメール引用を興味深く読みました。
 動物系染料の代表的なものの一つで、一般的にはコチニール染料といわれているものですね。あらためて調べてみて、これをカルミンレッド、つまりカーマインということを知って、ちょっと感動しました。
 この他、動物系染料として有名なものにパープルがあります。これはその昔はちいさな巻貝から採取される大変貴重な染料で皇帝色ともいわれた高貴な色だったそうですが、いまでは合成染料が普及して誰でも安価に使えるようになったという歴史があります。
 色に興味を持っていたこともあり、思わずメールいたしました。「
コチニール」、「コチニールカイガラムシ」、「」についてはWikipediaにも項目がありますので、ご参考まで。それでは

【追記4】マンダリン・オレンジの意味は実を言うと、今の今まで「温州(うんしゅう)ミカン」とばかり思っていましたので、ウィキペディア日本語版の「近縁であるが別種」という説明には驚きました。正月用に求めた10kgだかの段ボール箱に併記してあった様な気もするのですが……。
 ミカンといえば、子どもの頃に読んだ中国の童話で、外国へ持っていって大儲けをする話を思い出しました。以前に機関車の出てくるアメリカ編を紹介した講談社、世界童話文学全集の第14巻、中国編です。改めて引っ張り出してきてみると、明の時代、1628年に凌濛初(りょうもうしょ)という人が著した「拍案驚奇(はくあんきょうき)」を基にした話だとあります。蘇州西南の太湖(たいこ)に浮かぶ島で採れる洞庭紅(どうていこう)というミカンだと解説されていました。
 Wikipedia中国語版にそれらしい項目もあります。で、検索していたら、この話を日本語に翻訳して公開されているサイト(音楽付)を発見しました。このページの左フレーム、4番目に「楽志堂」とあるところを選んで、さらに「商いの心得」です。
 鉄道に全く関係のない話ですいません。2009-07-24

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コメント

京阪電鉄は釣りかけ車が主流だった昭和20年代から空気ばね車を導入するなど時代の最先端をいく鉄道会社だけに増刊号も技術面においては充実した内容になっていますね。京阪のすべてを楽しめる増刊号ではないでしょうか。皆さん買いましょうね。

>>りょうたさん、ようこそ。ときどきは京阪のことも話題としますので、また御訪問いただければ幸いです【ワークスK】

投稿: りょうた | 2009/08/01 23:23

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