柴田式密着連結器の廻り子
新幹線と在来線の電車は共に同じ方式の密着連結器を採用している、とはいうものの、填り込む突起部と開口孔の形が、新幹線は丸形で、在来線は四角という違いがあります。[新幹線はなぜ丸型か?と疑問を抱かれた方は、追記2へ]
澤田氏に拠れば、「阪急神戸線の5000系8連が、三宮で2両を切り離して6連となって神戸高速鉄道に乗り入れる目的で、この連結器が採用された。また宝塚線でも5100系に付いていた。それらが換装されてから、新幹線の他は大阪モノレールぐらいしか見ることが出来なくなり寂しい思い」とのことです。知りませんでした。
新幹線は先頭の連結器をカバーしていますので、これらの写真は貴重です。それにしても連結器の下に"コ"の字形で付いている手掛け?は一体、なんなのでしょうか。
さて、主に国鉄-JR系で使われている柴田式密着連結器は別名"廻り子(まわりこ)"式と呼ばれていることはご存じだと思います。澤田氏の写真で、凸と凹の境目で四角い平面にグリスがベタベタに塗られていて少し傾いている部品です。
この"廻り子"が面白いのですが、説明をネット上で見付けられません。ならばと、ウンチクを披露しておきます。ネタは、言わずと知れた私の教科書、小坂狷二著「客貨車工学(下巻)」1950年刊です。
以下の引用のほとんどはファンにとって言ワズモガナです。肝心な部分は末尾数行と付図です。
密着連結器は、普通の自動連結器の欠点たる連結面間のガタを無くし、衝動、蛇行動揺を軽減することと、車両連結と同時に空気管(または電気配線)の連結をもなしえることを特長とする中央引張緩衝自動連結器であり、主として電気列車などに用いられる。米国のみならず欧州においても用いられ、ドイツ国有鉄道はSharfenberg会社のものを用いている。本邦でもWestinghouse(東京急行)、Tomlingson(東京地下鉄、京阪、九州電軌)、Vandone(京阪)等の外国物も用いられた。
国有鉄道は柴田衛氏(自連の柴田兵衛氏令弟)考案、鉄道大臣特許権所有のものをその電車に用いている。電気列車は列車中に電気動力車が介在するため、それによる前後衝動を防ぐ上に密着連結器使用が望ましいのである。
柴田式密着連結器:連結に際しては連結器頭1の角(つの)は互いに案内されつつ相手連結器頭の懐内に突入し、錠2の出鼻aを押し込んで、錠を回転せしめ、前壁が当たるまで進入する。しかるとき錠はその取手に取り付けた戻しバネ3によって引き戻され、連結位置になる。
解放を行うには[B]の如く一方の連結器の錠の取手を引き寄せ、連結器側にある小取手4を回して掛金5のアゴ(原文「顋」)を錠の取手の上面にある小突起に引っ掛ければ、両連結器の錠は連結器縦中心軸を含む垂直面上に向き合って留められ、車両を引き出せば解放が行われる。
なお連結器前壁(連結器密着面)中心には制動管および元空気ダメ管のバネで押されている筒先が上下に並べて顔を出しており、車両の連結が行われればこれらの筒先も互いに詰めゴムを圧しつけ合って連結せられる。
錠外面およびその懐の内面は真円ではなく、図の[C]および[^C]に見る如く、円弧のクサビ形になっている。よって接触面が摩耗しても、それに応じて錠が余計に回り込むことによって連結密着は保たれえる。
実はそうなのです。
"密着"と呼ばれる本来の作用は、このクサビ形状によってもたらされるものなのです。原理的には密着自動連結器と一緒です。
この点をどうして誰も説明しないのか、本当に不思議です。
ところが、ところがです。私が関わった鉄道では、なんと"真円"を採用していたのです(単円?)。
詳しいことは聞き漏らしたのですが、3000系での導入当初に、クサビ形と真円の両方を較べたら、クサビ形の廻り子が食い込んで、エアーシリンダでの自動解放が辛いことがあった、とか、真円でも高級グリースを十分に塗布しておけば不都合がない、というようなことだったと思います。この辺り、私が在籍していた頃には問題を起こすことが無くて、関心を持つ必要がありませんでした。
なお廻り子式はNCB2に比べて格段に強いので、いずれは全車を置き換えたいと考えて、8000系では分割部に残しておきました。
こういうことがありますので余計、前回のシャルフェンベルク式のロック機構が気になります。
一方、柴田式では錠も孔(懐)も旋盤とかボール盤で単純加工というわけにはいきません。一体どうやって成型するのか、また摩耗したときの補修方法は? と、改めて考えると夜も眠れません(笑)
なお、引用文はバンドンとかトムリンソンについて、阪神と京阪を混同している可能性があります。
右の写真は、大阪鉄道局編纂、博文館版「鉄道用語辞典」1935年刊にある写真です。この柴田式がいつ発明されたのかが判りません。自連の柴田式も不明です。
こちらは住友金属改め、新日鉄住金の製品案内にあったもので、80数年前とほぼ一緒というのは恐れ入りますね。
モデルの方は、エンドウが発売していたHOスケールです。ダイキャストの本体に板バネを上手く使って、角(つの)内側のカギに引っ掛かける構造となっています。外すのには手前のツールが必須で、これで互いの頭を捻るのですが、なかなかスグレモノだと当時は思ったものでした。
【追記1】住友金属が2012年、合併して新日鉄住金となり、リンクが切れていたものを復旧しました。また、日本国有鉄道編纂「鉄道辞典」にも付図がありましたので、引用しておきます。そのp1666です。
大阪モノレールの連結器も記事を仕立てています。2014-07-08
【追記2】ハマり合う部分の形が新幹線と在来線とで異なる理由。機械加工で、丸に削るのは旋盤が使えて効率が良い=コストが低い、と、当時の設計者が考えたから。残念ながら出典を覚えていません。2014-11-30
【追記3】とれいん誌2020年1月号の表紙に近鉄の新車“ひのとり”が登場しました。で、この連結器の先っぽ! 尖がっていない! どうなっているのでしょうか。2019-12-22
【追記4】Google Search Console Teamというところから「貴ページが Google 検索で上位に急上昇しています」とメールが来ました。東北新幹線で列車分離の起きた9月22日です。確認すると3日間で300を少し超えた程度で、当方の期待からは桁違いに少ないと感じました。多くの方はこういうものに関心がないのでしょう。2024-09-25
廻り子式密着連結器 構造 仕組み 回り子式 周り子式 京阪の連結器
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コメント
なるほど、筒状のくさびですか。
今なら、多軸の加工機で容易に削製できますが、昔はどうやって作ったのでしょうね。
鋳鋼で作って、やすりがけして熱処理でしょうか。熟練工の技ですね。
廻り子はまだしも、内側の研削はさらに難しそうです。
>>シェーパー(型削盤)とか人間臭い機械が使えそうですが、この仕上げ公差を見ると、型板を片手に、削っている職人の姿が脳裏に浮かんできますね。【ワークスK】
投稿: dda40x | 2009/09/02 18:39
初めまして、こちらのサイトはいつも楽しく拝見しております。
さてN700系の連結器画像で下に付いている「コの字」形のものですが、まさしく「取手」です。画像の連結器は先頭部のもので通常は先頭カバーの中の納めるため引込んでいますが、救援などで連結する場合は引出して使用するため、その際使用する取手です。
画像の左右に少し写っていますがロックを固定/解除するために結構長いレバーがあってこれを動かして左右から嵌めてあるロックピンの出し入れをします。レバー位置を示す青、赤、黄色の名板と↓が何となく解るかと思います。
下の画像で連結器の先っぽの横の黒いものが操作作レバーで黄色のものがレバーのロック装置です。
ご参考まで。
>>御教示ありがとうございます。世界の新幹線が人力に頼る部分を持っているとは驚きます。故障で止まってしまった列車の運転士が非力な女性でも、救援列車に屈強な連中を乗せていけばいいわけで……【ワークスK】
投稿: ひかり・こだま | 2009/09/02 19:33