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2009/10/14

イコライザーへの形而上的アプローチ(2)

Img339a  前回に引き続き、蒸機設計者のイコライザーに関する記述を引用します。今回は、1936年刊、朝倉希一著「鉄道車両」です。

 肝要な部分は最初の段落です。森彦三・松野千勝共著と同じことを言っていますが、より具体的に、噛んで含めるような言い方です。【画像はクリックで拡大します】

第4節 釣合梁
 各個の車輪に独立した担バネ(にないばね)を用うる方法は、英国を除き現在一般には行われておらぬ。
 その理由は各車輪に単独のバネを用うれば運転中、各担バネに起こる荷重の変化が非常に大で、各担バネをこれらの荷重に耐える如く設計することが必要であり、かつ車両の走行も円滑でない。ことに3軸以上になると運転中荷重の分布の如きも全く不明であって担バネの設計が困難である。これを防ぐために釣合梁を用う。

Img341b

 第52図に示す3軸車においてP、Q、Rを各担バネに加わる荷重とし、後部の2個の担バネに釣合梁を入れたとする。釣合梁の支点はQa=Rbなる如くに定めればQ=b/a・R=kRとなる。すなわち2個の担バネは釣合梁を入れることによって各支点にR/2、(k+1)/2・R、k/2・Rなる荷重が加わり、Rが如何に変化しても3点における荷重の関係は一定である。すなわち2個の担バネが、釣合梁を入れることにより1個の担バネと同じ働きをすることになり、これによって荷重の分布も明らかになる。

 4軸車の場合でも片側に2個の釣合梁を入れれば片側に2個の担バネがあるのと同一結果になる。もし片側の担バネ全部を釣合梁で結べば片側に1個の担バネがあるのと同一になり、いわゆる1点支え、両側で2点支えとなる。これは不安定な支え方であって、少し傾いても自然に元の位置に戻ることは出来ぬ。外力を加えて初めて元の位置に戻すことになる。ゆえに支点は少なくとも片側に2点、両側で4点を必要とする。
 しかるに片側の担バネを釣合梁で結んだ如く、左右の担バネをも釣合梁で結んで支点の数を減らすことが出来る。平面を定めるには3点が必要にして、かつ十分な条件である。ゆえに4点支えの両側2点を結べば3点支えとなり理想的なものとなる。急行用旅客機関車で前部にボギー台車を有するものは大抵3点支えである。

 しかし構造上3点支えを許さぬものは普通4点支えとしている。

C12__2

 第51図は棒台枠に施した担バネ装置の一例である。先輪と第1動輪の担バネは釣合梁(8)によって釣り合わされ、第1動輪と第2動輪との担バネはさらに釣合梁(9)によって連絡されている。すなわち前部6個の担バネは左右各1個と見なすことが出来る。第3動輪および従輪は釣合梁(10)によって左右別々に釣り合わされているから、その担バネ装置は4点支えということが出来る。前後いずれかの担バネ群の左右を釣り合わせれば3点支えとなる。第3動輪の上部には火室があって担いバネを上部に置くことが出来ないので軸箱下部に釣っている。

 要は、担バネを許容荷重以内で受けるように設計したいが、担バネだけで構成したら荷重が1個に集中して加わることがあって、その担バネが折れる。だから、イコライザーで分散させなければならない、ということです。
 実物ではバネの伸び、ストロークが大きいので、モデルのようにレールへの追従性なぞを議論することはないのでしょうか。

 ところで、この朝倉本が想定した読者は、学生ですね。前書きに拠れば、「専門書とはいうものの大衆向けのもので良いのと、機関車の部を多賀祐重君、客貨車の部を小坂狷二君、気動車の部を佐竹達二君、電気車の部を山下善太郎君がお引き受けくださったので……」とのことです。
 書き方が、「こういう設計になっている。こういうことを考慮している」と、懇切丁寧です。

 それに対して森・松野本は、全体として迫力が違っています。「こうやって設計しろ」という風に聞こえてきます。外国の最新式の設計を引き合いに出して、「勉強しろ」と言っている趣きです。読ませたかったのは実際に設計する連中だったのではないでしょうか。知っているはずの冗長な部分は全て省いて、伝えたいことだけを書いているような気がするのです。
 まあ、単に私の思い込みですけれど……。

【追記】ここに紹介している中に、「3点支え」云々の文言がある。これ、3点支持。3輪車と同じ原理なんだから、大局的には不安定。蒸機は重心が高い。電車は基本的に4点支持だし……と、機関車設計の第一人者の書いた文章だけれど、ほんまかいな、と疑うのが私の常。
 斎藤晃著「蒸気機関車200年史」p96以降に、3点支持によりレールへの順応性が向上した旨の記述があったから、余計に疑わしい。そう、イコライザーの目的は、違う。

 しかし、機関車工学会著1937年刊「新訂増補 機関車の構造及理論」の上巻p437に、それを示す次の略図。

Equalizer5

 うぅむ、確かに3点支持なのか。
 ただし、高速走行を行うパシフィック4-6-2の先台車はどうだろうか。

 ここに荷重の加わる構造が解る図を探していて、国鉄編纂1958年刊「鉄道辞典上巻」p928-932に見つけた。肝心のエコノミー式とコロ式の2軸台車の構造図だけは、1点とは見做せないような気がする。リンク式の2種はそう見えなくもない。揺りリンク式は私には理解不能。
Economy

Link2

Link

 1軸先台車はD51用か。これもイコライザーが左右で結ばれているとは思えない。

Leading

 次は下巻p1489のC58で、これは正に3点支持。ということは3点でも大丈夫なことは大丈夫。(意味不明:笑)

C58

 荷重点が心皿構造だったら、中心が1点ではなくて、その左右の縁(ふち)が夫々1点ということだってある。
 「構造及理論」の本に、私が最重要だと考える、3点支持の3角形と重心の関係が示されていないことも不思議。すなわち、探求の道は半ば‥‥‥。2013-09-04

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