イコライザーへの形而上的アプローチ(4)
私が子どもの時分に、3線式Oゲージと決別し、HOゲージであれこれと夢を思い描いていた頃の話です。
田舎町にもあった模型店で、鉄道模型趣味という雑誌を知ったのですが、何度も足を運んでいた中で入手した本が、出たばかりのTMS特集シリーズ15「日本型蒸気機関車の製作」1963年刊でした。憧れのC62やD51という国鉄型蒸機がたくさん掲載されていて、毎日、飽かず眺めていたものです。
もちろん、イコライザーの存在もここで学びました。軸箱も3点支持も、筆者と一体化して、大人になったらボクも、と思い込んだものです。
その中で一番気になったモデルが、岡靖之介(あるいは岡靖之助)さんという方のD51初期型(1960年7月号初出)でした。ナメクジ形のケーシング以外にも、バネを併用したイコライザーが新鮮だったのです。【画像はクリックで拡大します】
そして、この特集には軸バネだけのモデルと、イコライザーだけのモデルがある。だから、将来はきっと2つの組み合わせが主流になるはずだと確信したものでした。しかしその後、既製品は軸バネ入り、自作モデルがイコライザーオンリーとなっているように思います。最近の動向には疎いので、10年以上前の段階での感想ですけれど……。
それにしても、クラフツマン系のモデラーは、なぜ、イコライザーを好むのでしょうか。
私が推測するに、イコライザーは寸法どおりに作れば、機能が如実に現れて車輪がレールに密着する。また、独自の機構を考えるのも、それを作るのも面白いということでしょうか。
ただ、実物を知れば知るほど、まずバネありき、という思いが強くなってきます。昔の地方鉄道建設規程には「車両ニハ担弾機ヲ装置スヘシ」と書いてありました。当然バネが無ければ、ガンガン突き上げられて乗っておれません。第一、高速走行では跳ね上がり脱線が頻発します。車軸は直ぐに折れるし、台車回りはクラックが入り倒すことでしょう。
バネを入れれば、前回お話したように、モデルでも高速走行での跳ね上がり脱線が減ります。ポイント・フロッグの摩滅が少なくなる。ネジが緩まなくなる。音が静かになる……など良いこと尽くめです。
と、また強引に振っておいて、話を進めさせてください。
さて、バネを模型に取り入れる上で、大きな問題が3つあると私は思っています。
第1に、望ましいバネの特性が分かり難いこと。第2に、バネの計算には特別な知識が必要なこと。第3に、実物のバネをそのままスケールダウンすると全く撓まないこと、の3つです。順に説明します。
まず、モデルに最適なバネ特性を求める件についてです。
最初に、実物の決定方法を、前出の森・松野本から引きます。
……P(荷重)とD(撓み)の関係は自由に増減し得るものにして設計者は各その所信に拠りてこの関係を異にせり。
しかしてDの大小は運転中における機関車の衝動を軟化するの程度問題に属し、その大に過ぐるものは上下動(ピッチング)および傾斜動(ローリング)と称する動揺を増大すべく、また小に過ぐるものは外輪その他機械部の摩損を増大するものなり。線路の不良なる場合には、機関車に与ふる衝動大きをもって比較的柔軟なるスプリングを用うべく、完全なる線路には比較的剛直なるものを用うるを良しとす。
ただし米国または大陸の大部において採用せらるるスプリングは、屈撓性に富みかつイコライザーを用うるもの多けれども、英国において採用せらるるものは比較的剛直にしてかつイコライザーを用うるもの少なきはその慣例を異にするにありといえども主として軌条の軽重ならびに線路の状態大いに異なれるに基因するものとす。
現今各国において採用せるスプリングの撓度(デフレクションdeflection)はこれを実例に徴すれば特別の場合を除くの他は大略次の範囲にあるもの多し。
D=1/4"~3/8"(1トンに付き)
もちろんこの範囲を脱するものありて、その小なるものは3/16"、大なるものは5/8"に達するものありといえどもこれらは、はなはだ少数なり。しかして一般にボギートラック、またはビッセル・トラックに属するスプリングは撓度の比較的大なるを良とす。
【過大の撓度を有するスプリング】過大の撓度を有するスプリングとは、普通のスプリングに比し2倍以上の撓度を有するものにしてベルギー(白耳義)その他2、3鉄道において一時、大いに歓迎せられたることあり。この種のスプリングは上下動および傾斜動等の動揺多けれども一般に運転円滑にして機械部の損傷を減少するものと信ぜられたり。
しかれども実験の結果、あるいはその効を奏したるものあり。あるいは動揺のためかえって機械部の損傷を助長したるものありてその結果、はなはだ判明ならず。この問題は万国鉄道会議の議題ともなり、はなはだ重要なる事項に属するものにして同会議においては1890年、各国の意見を徴して大いにこれが適否を研究したれどもその結果は、堅牢にして保線充分なる線路にはこの種のスプリングを用うるの必要なきものと結論したり。
要するにかかるスプリングは2、3鉄道において効果の良好なるを認めたるの外、広く歓迎せられざるのみならず、ベルギーにおいても既にその使用を中絶するなど利害相伴わざるのもののごとし。
次は朝倉本の一節です。
……担バネを設計する場合には応力と同時に撓みを計算する必要がある。撓みはなるべく大なる方が良いのであるが、実際にはこれを大にすることは困難で、静止のときの撓みは40~50mmくらいあることが望ましいがこれより少ないものもある。
森・松野本の硬い方でトン当たり1/4"という数字を、C53やD50の軸重16トンに適用すれば、英トンに直して4"、100mmにもなり、朝倉本とは倍以上の開きです。まあ、実物のバネが一義的に求められるものではないということです。電車でも適当です。空車のときも満車のときも、床面高さが巧くプラットホームと合う……などという条件で決めていました。そんな程度です。
では、モデルはどうか、です。
実物を参考にすれば、40~100mmですから、これをスケールダウンして、Oゲージで1~2mm、HOゲージで0.5~1mmということになります。この程度なら実現可能ですよね。イコライザーを備えていれば、硬めでも良いと思います。ローリングやピッチングの心配も減ります。
モデルで軸箱可動とする基本的な目的は、車輪のレールへの追随性ですから、固定軸間距離=ホイールベースの長い車両では撓みを大きく、短い場合はそれほど必要ないということになります。レールが正確に敷設された固定式のレイアウトと、随時組み立てるフロアー式では全く異なるはずですが、こんなものでしょうか。
一方で昔、中尾豊氏が「市販品は強すぎる」と仰った真の意味は、せっかく軸バネを入れたのに、そのバネで軸箱を動輪押え板に押し付けていることを問題にされたのだと思います。軸箱の下部が押え板、実物でいったら軸箱守控に当たっていればバネが無いのと一緒です。その場合はバネを切って縮めなければなりません。さらに硬くなりますけれど、バネは機能するようになります。柔らかいバネでも撓む量が大きくなれば強い力になります。硬い、柔らかいはバネ定数の話です。
なお、既製品がそうなっていた理由はたぶん、モデルがひっくり返えされて軸箱がカチャカチャと遊び、バネが外れてしまうのを恐れたことだと思います。それなら、軸箱と押え板の間にもバネを入れる手がありますが、バネ定数は2倍となります。
ところで、森・松野本にあるとおり、基本的にはレールの状態によって経験的に決めるものですから、模型でも試行錯誤やたくさんの事例を積み重ねる必要があります。この辺り、実物と同じように情報の収集、コミュニケーションが大事ということです。万国鉄道模型会議も開催しなければなりません (^_-)
なお、バネには固有振動、共振という問題もあります。物体などの固有振動数に外部から揺らす周期が合致してしまった場合に破壊的な振動に発展してしまう現象です。鉄道車両でレールから受ける振動は、例えば枕木やレールの継ぎ目、あるいは橋脚の間隔といった辺りで、同じ速度で走り続ければ現れるだけの話ですから、模型では大丈夫です。
ちょっと長くなり過ぎました。残り2つの問題はまた後日……。
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