操舵台車の妄想が拡がって
先日、寝屋川工場でファミリー・レールフェアなる催しがあって、何年か振りで訪れました。まあ、人手として駆り出された形ですけれど、あまり変わっていませんでした。
そこでは意外にも、展示してあった台車が人気でした。単に「見慣れないから」ということでしょうが、自由回転車輪付などというマニアックな台車の周囲に人並みが引きも切らず、私もカメラを構えたもののこんな写真しか撮れませんでした。
また先日は、鉄道ホビダスの編集長敬白で「パブロ・モデリングが自由回転車輪を試作」などと伝えられたりして、またぞろ“薀蓄”の虫が疼き出しました。
またか! でしょうが、そう言わずにお付き合いください。【画像はクリックで拡大します】
京阪の路線は、阪神などと一緒で、曲線ばかりです。株式会社ならぬ“カーブ式会社”と揶揄されることもあります。そこをスムースに走り抜けるために、このKS68という台車が開発された、と普通は考えるはずですが、実は直線を高速で走る目的なのです。
この辺りを書き出すと止まらなくなりますが、専門家にも信じてもらえないことが多いので、やめておきます。ただし、次のことだけは理解してください。
曲線における車輪とレールの相対関係で発生する抵抗には通常、3種類が考えられます。
まず、フランジが擦れるものです。これを低減するには、フランジの形を工夫して、その根元だけでレールに接触させることです。摩擦が少なくなり、転がり接触に近くなります。dda40x氏のLo-D車輪はこれです。
次は左右の直径差に拠るもので、車輪が円周方向に滑べって発生します。このためには皆さんよくご存知のように、踏面に円錐形の勾配を付けます。パブロ・モデリングの試作輪軸は、この円周滑りに有効です。
最後は、車輪踏面の横滑りです。 左の絵をご覧ください。2軸車が左へ曲がっていきます。多くの方は想像できないでしょうが、このときの車輪とレールの関係は、実物や大きなモデルで観察すると、こんな風になっています。
曲率などの条件にも拠るのですけれど、2本の車軸が平行ですから、これらを同時に曲線の中心に向けるという芸当が出来ないのです。よって、特に先頭車輪が横方向に滑らざるを得ないことが直感的にお解かりいただけるでしょうか。ちなみに、これがキシリ音(キシミ音)の原因です。
この絵を見ると、フランジ接触の改善も、踏面の勾配も無力です。
なお、3種類の抵抗は、曲線半径や軸重の大きさ、速度や軌間の条件に因って、卓越するものが異なりますから、議論をするときは、ここを最初に押さえることが肝要です。
そこで、ならば2軸の平行を固定しないで、カーブの方向に曲げたらどうか、というアイデアが出てきます。
思い出すのは、確か1970年代の前半か、中頃の話です。
戦後に始まった高速台車の開発が一段落して、ボルスタレス台車や振り子台車が研究、あるいは実用化されつつありました。その中のテーマのひとつが操舵台車だったのです。
まず最初に注目されたのは、南アフリカ国鉄でシェッフェル教授という方が考案した台車でした。クロス・アンカー式と呼んだと思います。4つの軸箱を2本のリンクでX形に結ぶと、曲線中で車輪車軸が内方に向いて、抵抗が極端に低くなるという仕組みです。
外力に拠らず"自立的に"というところがマユツバと思ったものの、映画か何かで急曲線をスゥーっと回る場面を見せつけられて、目を丸くしたものでした。 写真は、その鉄道の現在の運営体と思われるサイトにあった写真です。この台車でしょうか?
ただその後、他で採用したという話を聞かないところを見ると、高速性能に問題があったようです。
国鉄やメーカーは、曲線で台車が車体となすボギー角を利用して心向台車、操舵台車を研究していたと思います。問題は動力台車への適用でした。
左のポンチ絵は、その中でモデルに取り込めそうだと記憶していた一種類です。真ん中の軸を矢印の方向に回すと、手前側のホィールベースが縮まり、向こう側が伸びるという仕組みです。反対に回せば、反対になります。
この回転力は、ボギー車では車体と台車の回転偏倚を利用する原理でした。2軸単車で実現するには無理がありますけれど、模型では例えば、架線を張って、カーブでは線路から内側に寄せておいて、それをトレースするポールの動きを伝えたらどうか、などと思いを巡らしたものです。
今だったらDCCと組み合わせて、振り子作用を追加するとか、さらに妄想が拡がります。
そういえば大昔にラジアル台車というのが多摩湖鉄道(現西武多摩湖線)にあったと知って、構造をあれこれ思い巡らした記憶もあります。
実物はその後、軸箱の前後剛性を工夫することで、車輪の自立的な挙動に期待する方向に進みました。円弧踏面もその一環です。
現在の動向については把握していないのですが、ネットを探しましたら、この辺りの流れを上手く説明しつつ、新しい試みを解説している文章を見つけました。鉄道総研のRRRという雑誌2008年7月号で「曲線を滑らかに曲がる台車を作る(pdfファイル)」です。カーブを検知して、アクチェーターで左右の軸受間隔を伸び縮みさせるという仕組みで、異常時の安全を確保できれば、これは期待できます。
そろそろモデルでも、何か出来ないものでしょうか。
【追記】上述「曲線を滑らかに曲がる台車をつくる」の記事に示されているDT953試作台車のうちで、「ボギー角リンク方式(強制操舵)」というものの原理が、私の描いたポンチ絵に合致します。ちょっと判りにくいのですが、「操舵わく(回転ばり)」が水平面で回転します。ですから、ボギー車ではこの「操舵わく」を直接車体に取り付けます。2軸車でポール駆動とするには、そのポールで、直に「操舵わく」を回転させれば良いわけです。記事を読んでいくと、これがJR北海道の283系気動車に採用されたとあります。
なお、シェッフェル教授は、「博士」だったかもしれません。南アフリカ連邦の国民的英雄になっているはずだと思って、ネットを探しているのですが、辿り着けません。2009-10-28
【追記2】OneDogさんという方の「OneDogの工作室」というブログを発見しました。何と、2軸車での操舵台車に取り組んでおられます。つい先日は固定操舵などという禁じ手も繰り出されましたが、「かつては、電動5インチで2軸ボギーの自己操舵をやった。差動ギアや左右輪の別駆動などを併用して, 半径1.5mの線路を回した」とのことで、今後の取り組みも楽しみです。2009-11-03
【追記3】シェッフェル式台車に言及された文を発見しました。北山敏和という方の「鉄道いまむかし」というHPで、その中の 「四軸操舵台車とその考えられる利用法」です。ただし、「シエッフェル」と表記され、そのものの説明はありません。2011-08-03
| 固定リンク
「車輪・台車のABC」カテゴリの記事
- 京阪びわこ号の連接構造は(2)(2017.07.22)
- 国鉄ED14にまつわる大いなる謎(1)(2014.07.16)
- 電車はどうして曲がれるのだろうか? 地動説的解説(2013.05.08)
コメント
大変ご無沙汰しております。
記事とは関係なくて恐縮、すでにご存知とは思われますが、BNSF が Buffett さんの会社に買収されることになりましたね。日本ではなかなか起きそうもない鉄道会社の買収のニュースに少し驚いた朝でした。
>>貴重な情報をありがとうございます。ではっ、というわけで、色々探してみると、日本語ではロイターが伝えていました。そして驚くべきことに、それをJackおじちゃんが既に報じておられます。そしてそして、なんと、この投資家の名前がウィキペディア日本語版にも載っています。ともあれ、BNSFが有望な企業ということでしょう。
また、9月10日付という早い時期にウォーレン・バフェット | バーリントンの保有比率を25%に引き上げる可能性などという見通しを立てていたサイトもありました。
他にも鉄道ファンが鉄道グッズの値上がりで喜んでいます。【ワークスK】
投稿: 吉田河馬歯 | 2009/11/05 02:24
> なお、シェッフェル教授は、「博士」だったかもしれません。
古い記事ですが、「イコライザーの復習」をしてて、こっちにまで来てしまったので、コメント。
Dr. Herbert Scheffel は教授にはなっていないと思います。この手のを探す時は、引退した後の記事を見つけるのが一番 (履歴が見つかればベストですが) なので、色々さがしたところ、英語のはありませんでしたが、スイスの新聞記事 (ドイツ語) のがありました。
最近は機械翻訳も精度が高いので、適当に翻訳してください。(引退した元 SAR の CME であるシェッフェル博士は、とあります)
ちなみに、Y-25 はヨーロッパで良く使われる台車の形式です。ちょっと、問題がありましてね...
ちなみに、南アフリカではシェッフェル台車から、新しいメカに変わりつつあるようです。Railways Africa.com
投稿: 稲葉 清高 | 2015/03/14 12:42
> ただその後、他で採用したという話を聞かないところを見ると、高速性能に問題があったようです。
連続投稿が癖になってる感じもあるけど、一応話題は違うので...
Cape Argusによると、"is now generating export earnings" とありますから、他でも使っているようです。少なくとも、オーストラリアは南アフリカから台車を買ってるから、それらにシェッフェル台車が入っているかも。うーむ、そういえば模型 (1/87) では逆で、南アフリカの貨車はオーストラリア製の台車を使うんだよなあ...
>>たくさんのコメント、ありがとうございます。おおっ、マトモなことが綴ってある。こりゃ、シラフ。お教えいただいたサイトにはジックリ取り組んでみましょう。アメリカでの1980年代の様相は大辞典に記述してあります【ワークスK】
投稿: 稲葉 清高 | 2015/03/14 12:49