イコライザーへの形而上的アプローチ(1)
前回、ロンビックに関するあらぬ妄想をお聞かせしましたが、イコライザーについて、衝撃的な話があります。それは以前、dda40x氏のブログ、Giants of the Westで紹介された井上豊さんの談話です。
井上さんといえば我々モデラーには、超大型蒸機に走行性能を改善する数々のメカニズムを組み込まれたことに加えて、現役の頃はC62の機関士や駅長をされた鉄道マンとして知られています。
さて、その井上さんがある席で「(実物の)イコライザーは何のためにあるか知っているか?」と問われたそうです。「線路の不整に対応するためです。軸重を等しくする効果があります」と応えた詳細な顛末は、その記事をご覧いただくとして、最終的な正解は「イコライザーは、スプリングが折れないようにしているだけだ」とのことでした。
当然、私としても直ぐには信じられない話です。
例え運転を担当する人間がそうであっても、設計者は、レールへの追随性、軸重の平均化を意図しているはずだという思いを拭い切れませんでした。
ところが今回、明治時代の一時期、蒸機設計で中心的役割を果たした人物による森彦三・松野千勝共著「機関車工学」1910年初版を読んでみましたら、全く同じ事が書いてあったのです。【画像はクリックで拡大します】
イコライザー(平均棹)
車輪と軌条との間に起こる衝動は縷々軌条を毀損し、かつ往々スプリングを折損することあり。ゆえに第993および994図の4に示すが如くイコライザーと称する鉄棹の媒介によりて車輪上の重量を両スプリングに共通負担せしむるを要すべし。
車輪が軌条を打撃する力はスプリングを経てこの棹に襲来し、しかる後、フレームに及ぶものなれば、1車輪に受くる衝動は2車輪に分担せらるることとなり、相平均してこの打撃を緩和することを得るものなり。この方法は、ボギー車にも応用せらるる。
この如くイコライザーは車輪と軌条との間に起こる衝動を緩和するをもって運転円滑なるはもちろん、外輪の摩耗を軽減し、かつ車軸その他機械部の損傷を減少することをうべし。粗悪なる線路に用いる機関車または高速度用機関においては特にイコライザーの設備充分なるを要すべし。
英国の如き建設および保線の完全なる線路にはこの設備を欠くものありといえども、米国ならびに欧州大陸の線路にはその応用はなはだ盛んなり。ときとして左右のスプリングに横なりにイコライザーを応用せるものあり。
第1024図および第1013~1020図は米国におけるイコライザーの実例にして、第1021~1024図は鋳鋼製イコライザーの一例とす。また第1025~1033図は米国において慣用せらるるイコライザー応用の各種の方法を示す。
この本のイコライザーの章は以上です。車輪の追随や均等化などという文言は一切ありません。仮名遣いなどは現代風にアレンジしています。
確かに昔、金属バネの客車に乗っていて、橋梁や踏切を通過すると"ガーン"と来た記憶があります。今は、空気バネとなり、軌道の保守も向上したためか味わえなくなりました。UPやATSFでは原野の真ん中を走るティンバートレッスルにバラストが敷いてあるという話もありました。
イコライザーの話をもう少し続けます。
【追記】イギリスではイコライザーの採用例が少なかった‥‥という点について、単なる思い付きですけれど、製鋼技術でも図抜けていて、バネ鋼の信頼性が高かった、という推察はどうでしょうか。2013-02-18
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