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2009/12/27

NYC鉄道スリーナイン"999"

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 19世紀の後半においては、鉄道こそが時代の最先端を行くハイテク産業として君臨するとともに、世界博覧会は、その技術力をアピールする格好の舞台であった。

 その中でNYC&HR鉄道(後のNYC)は1893年、コロンブスの新大陸発見400年を記念して開催されるシカゴ万国博覧会に合わせて、地球上での最速のタイトルを得ようと考えた。
 極秘裏に、自社のウエスト・オルバニー工場で技師ウィリアム・ブキャナン指揮の下、直径86インチ(2,184mm)という巨大な動輪を持つ4-4-0、アメリカンを建造したのである。
【画像はクリックで拡大します】

 "999"という名前が、卓越した性能を表するために採用された。
 ロシアン・アイアンの青色に輝くボイラーはブラスの縁取りと配管で煌き、マホガニーとメープルで組み上がった運転台は丁寧に磨かれた。そしてテンダー側面には、エンパイア・ステート・エクスプレスの列車名が、2フィート半高という大きな金箔文字で紋章さながらに掲げられた。

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 1893年5月9日、ブキャナンは性能を確認するために機関士チャーリー・ホーガンに出来上がった作品を委ねた。鉄道主任の息子であるホーガンは、14歳で給水係としてニューヨーク・セントラル鉄道での経歴を開始して、後日、動力車管理者に昇進している。
 その素晴らしき5月の一日、彼はニューヨーク州ロチェスターから"999"を駆って、バッファローまで走った。
 鉄道はその時間と距離を計算して、列車が102mph(165.4km/h)に達したと判断した。そして翌日、公式記録を得る試運転を行うことを決めた。

 それは5月10日、"999"は鉄道の役員と新聞記者を乗せて、再びバッファローに向かった。機関助士アル・エリオットは絶え間なく石炭を火室へ投入し、機関士ホーガンは、スロットルを開き続けた。列車に乗っていたオブザーバー達は、ストップウォッチを使いマイルポストを数えて、"999"が112.5mph(181km/h)でクリテンドン付近を通過したと認定した。

 その夏、チャーリー・ホーガンと、人類が最初に作った100mphを超えた乗り物の"999"は、シカゴ万博の主役となった。
 汽車の玩具を製造する会社は、どの機関車にも"999"の3文字を付けた。そして、世界中の遊園地の鉄道では、タイや南アフリカという遠い外国までも、この機関車をモデルとしたライブ・スチームを3,000以上も導入したのだった。

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 後に批評家と研究者は、この機関車が100mphに達してはいなかったはずだと、記録に異を唱えた。確かに、その5月の午後の実速度を証明できるものは何もない。
 しかし、1つ、確実なことは、シカゴ万博の後の長い間、少し小さい動輪径の姉妹機とともに"999"は、地球上で最も高速で定期運行する旅客列車の地位を維持したことである。

 万博の5年後に、サイエンティフィック・アメリカン誌の記事は、"999"とエンパイア・ステート・エクスプレスが、高速長距離列車の時代を切り開いたと書いた。52mph以上の速度で、比類のない距離を、先例のない無停車で、定期運行を継続したことは、世界の鉄道の歴史の中に燦然と光り輝いている、と……。

 "999"はその後、動輪を小さなものに取り替えて定期運転に投入され、また後の万博でも展示された。
 そして1962年に、シカゴ科学産業博物館に寄贈された。そこは1893年の万博で展示された場所でもある。レストアを受けた"999"は今日、もう一つの速度と距離の記録保持者、1934年登場のパイオニア・ゼファーと並べて置かれている。

 モデルはMTH社のOゲージ、ダイキャスト製です。流線形とはいえませんが、見つけたら矢も盾も射られなくなるところが悪い癖です。
 プレミア・シリーズの2線式(スケール・ホイール)とはいうものの、根幹は3線式ハイレール仕様ですから、窓枠の引っ込み具合等にトイ・トレイン的な臭いは否めません。ただ、全体としては良いプロポーションです。メタリック・ブルーのボイラーもイメージから外れていません。
 MRサイクロペディア1に図面があって、実物が保存されているのですから、資料には困らなかったはずです。

 ところで、"エンパイア"は"帝国"の意味で、民主主義国家のアメリカに何故?と訝りますが、理由は定かでないものの"エンパイア・ステート"はニューヨーク州の愛称とのことです。一方、グレート・ノーザン鉄道の"エンパイア・ビルダー"は、同鉄道の創業者、ジェームズ・ヒルのニックネームです。

999_mth_cat2b  模型の現物を手にして、確認したかった点は、動輪径です。
 右に示すカタログにあるように、登場当時の86インチと、後年履き替えて博物館に保存されている姿の79インチの両方が発売されていて、当然前者を注文しました。
 ノギスで測った結果は45.5mmですから合格です。あとは、牽引される客車を入手したいところです。

 上掲の"999"の物語は、MTH社の製品説明のページを訳したもので、同社には断りのメールを送っています。
 またインターネット上にアップされている、 シカゴ科学技術博物館での"999"展示の様子"999"の速度記録についての考察陸海空の速度記録(最高速を出した日付が5月10日ではなくて、5月11日となっています)、"999"を描いたサイドビュー・イラスト、当方のOゲージの玉手箱もご覧ください。銀河鉄道999

【追記1】1893年のシカゴ万博で展示された蒸気機関車を列挙した「蒸気機関車拾遺」というサイトを見つけました。アメリカの機関車が全13回、外国の機関車は7回にわたって紹介されています。 それにしても大変な数で、万博が「技術力をアピールする格好の舞台」だったことに間違いなかったわけです。
 なお、この万博の別名、Columbian Exhibitionで、ボールドウィン社が"Columbia"と命名した2-4-2蒸機を熱心に売り込んだことに因み、この車輪配置を"コロンビア"と呼ぶとのことです。2009-01-25

【追記2】この3月にシカゴ科学産業博物館Chicago Museum of Science and Industryを訪問されたnortherns484さんのブログに、見聞記が登場しました。2010-04-25

【追記3】シカゴ万博に展示中の"999"の写真が見つかりました。キャブ腰部には"999"の数字が、さらに客車の幕板には"NEW YORK CENTRAL‥‥"の文字がクッキリと読み取れます。手前の超古典機は、デウィット・クリントンDeWitt Clinton号(Wikipedia英語版)で、NYCが吸収したモホーク&ハドソン鉄道が1831年の創業時に新造した機関車のレプリカです。
 "Official views of the World's Columbian Exposition"という書籍のp37です。プロジェクト・グーテンベルクというサイトからダウンロードでき、100枚以上の高精細画像が収納されているものの、鉄道関係はこれだけです。2010-07-07
037a

【追記4】この機関車にマッチする客車を入手しました。「木造客車に明かりが点灯り」です。2011-06-27

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コメント

4-4-0と云うと、西部開拓時代に、コンバインとコーチの2輌編成を牽いて大平原を進む、てなイメージですが、NYCの999は本線で長距離列車を牽引する、その時代の最新鋭機の貫禄十分ですね。今年8月にシカゴの産業科学博物館へ行き、見てきたばかりだったので、よけい親しみがわきました。Oゲージの模型が出ていたとは知りませんでした。なかなか素晴らしいですね。HOでは、GEMから発売されています。Trains.com の10-19-2009 7:44 AMのコメントに写真があります。。

ところで、これらの模型にはWater scoopが付いています。英米の蒸気機関車(実物)で、これを装備しているものは多い筈ですが、模型で再現しているものは少ないのでないでしょうか? NYC999は、テンダー台車間がスケスケで、Water scoopを付けておかないと間が抜けて見えるからでしょうか。近代機などでは、折角付けてみてもあまり目立たないかもしれません。このWater scoop、英国で実用化されたのは1860年と、日本の鉄道開業より早いのです。米国での採用は、NYC&HRが最初で、1870年、999号登場の23年前でした。そして廃止されたのは1954年だそうですから、何と84年に渡り使われた仕組みでした。日本では試験はしたものの採用されず、超特急「燕」は、水槽車牽引となったことは、ご存知の方も多いでしょう。そのせいか、日本ではWater scoopについて、あまり紹介されているのを見ません。勉強してみたい方は、 こちらをご覧下さい。

さて、このコメントワークスKさんが、HTMLタグの解説をして下さったので、早速やってみたのですが、旨くいったかなぁ・・・。

>>実機を拝まれたとは羨ましいですね。動輪は79インチでも2mですから、さぞや迫力のあったことでしょう。GEMのモデルも存在感充分で良い出来映えです。スクープはMR図面集や記事で示したサイドイラストにはありますが、MTHのモデルには残念ながら付いていません。【ワークスK】

投稿: 宮 崎 繁 幹 | 2009/12/28 22:52

これは40年ほど前に購入したKTMの999です。
見難い画像ですみません。
Train.comの999とテンダーのリベットの乱れまでそっくりに見えますが、GEMもKTM製品を扱っていたのでしょうか?
この999はギア比の大きいこともあってスローも効いたのですが、最近DH13からジャンクのカンモーターに換装してより調子よくなりました。86吋の動輪がゆっくり回転する様は見飽きませんね。

>>拝見しました。確かによく似ています。プライス&データ・ガイドを見ると、HOは1965年までの日本製しかないようで、近年は人気がないのでしょうか。ところで、目の前で大きな動輪がゆっくり回転する様を堪能するために、dda40xさんが紹介されたテスト台が欲しいですね。【ワークスK】

投稿: RAILTRUCK | 2009/12/29 18:25

今日は。NYC,999の側面図をアップしました。
唯、拡大図を表示すると、右半分が切れてしまいます(私の不徳のいたす所です)。
右半分が切れたまま表示された画像は、ご自分のパソコンに一旦保存すれば、全域が見れますので、お手間な話ですが、
よかったらどうぞ。

蒸気機関車が走行中線路の間の溝から給水(吸水?)する発明は、
1860年頃、英国、London & Northwestern 鉄道の John Ramsbottom 技師に依ります。
鉄道史上、最後に使われた例として英国のディゼル機関車が走行中客車蒸気暖房用の水を汲んでたのが在った気がします(出典忘れです)。

>>御紹介ありがとうございます。凄い図面ですね。Simmons-Boardman発行のLocomotive Cyclopediaでしょうか。この本、魅力があるのですが、値段も……【ワークスK】

投稿: 鈴木光太郎 | 2010/02/08 00:29

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