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2010/06/09

緩和曲線の測量学(2)

A histrical study of railroad transition curves, part 2

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Photo  国立国会図書館の近代デジタルライブラリーで、「緩和曲線」という検索語にヒットした書籍の内、石井槌太郎著「理論応用緩和曲線」(1901年刊)の緒言(5コマ目)には次の様な記述があります。

「……官線および山陽線は、円曲線の両端に緩和曲線を、勾配変換点に縱截(じゅうせつ)曲線を用い、また新たに発布された鉄道条例中にもこの条項がある。これらが各鉄道にも適用されるときが来た……」【画像はクリックで拡大します】

 さらにp2(8コマ目)に実用化の経緯が述べられています。
「……1828年頃に、正弦曲線や鉄道螺旋曲線、立方放物線等が発明されたが、実用に適さなかったので普及しなかった。これに対し1880年、エリス・ホルブルークEllis Holbrook氏がRail Road Gazette誌で『真の緩和曲線は小角度にしてかつ長さの短き曲線に適用するべき』と論じ、1893年にC・L・クランダルC. L. Crandall氏が枝距offsetおよび偏倚角Deflection angleの両法を用いて大角度の曲線に適用する公式および数表を公表し、それより世に用いられるようになった……」

 「クランダル」はWikipedia英語版に出てきた「クランドール」ですね。フルスペルはCharles Lee Crandall(1850-1917)で、著書は"The transition curve by offsets and by deflection angles"の様です。
 Wikipedia英語版のネタとなったと思われる「The Euler spiral: a mathematical history(オイラー螺旋=クロソイド曲線の数学史pdf)」はp10の最下部をご覧ください。

Photo_2  木下(柴山)武之助著「鉄道道路曲線測量表 附・布設法」は、1901年の初版がなくて、最も古い版は1915年(大正4年)の「改訂大増補第7版」です。
 その「第7版の巻頭に」(6コマ目)という文中の「……そして今回増補した中で緩和曲線定規を除くの外は、いずれも初めて社会に提供するものである……」という書き方を読むと、この版で初めて緩和曲線が登場した可能性があります。木下武之助

 また、p42(31コマ目)は「曲線ニ於ケル軌間ノ拡度及軌条ノ高度整備並緩和曲線敷設方法(鉄道院)」で、これは鉄道院の規程ですね。この直前に制定されたのでしょうか。
 「第3章 緩和曲線」の、「第8条 線路の曲線には緩和曲線を採用す。緩和曲線は3次放物線としてその敷設方法は別記第1法によるものとす。ただし、既成線路にして円曲線頂部の移転困難なる場合においては小半径の円曲線を中間に挿入してその敷設法は第2法によるべし。……」いう辺りは、前回紹介した教科書と一緒だと思います。

 検索すると本書は現在でも、なんと理工図書株式会社という出版社の出版目録2007年版p31に出ていて、定価2,100円で売られていました。また、同社の歴史には大々的に登場し、我が国工学書の五指に入るロングセラーだそうです。108年ですか!
 著者が「木下立安」なる別名を持っていたとすると、これが募銘碑です。

Photo_3  近代デジタルライブラリーでは、この2つの書物以外に1919年(大正8年)刊、坂岡末太郎著「坂岡測量学講義 上・下巻」をヒットしましたが、測量技術的な事柄だけで、緩和曲線成立の経緯についての記載はありません。
 ただ、上巻には「滑尺論Slide rule=計算尺の使い方」、下巻には「露営心得」があって、特に後者がケッサクです。Tento
 天幕=テントを張る場所の選定に始まって、溺れた者を蘇生させるためのセルヴェスター法なる処置方、“ホイスキー”の効能、毒蛇に噛まれたときは「ハンケツ」、食用キノコの見分け方等などが、13頁にわたって詳細に述べられています。セルベスター法
 昔の測量技師は命がけだったんですね。なお、著者名を検索すると略歴がありました。

 国立国会図書館のここには著作権切れの面白い書物が山の様に隠れていて、少しでも操作性が良くなった日には、夜が眠れなくなりそうです。

【追記】同ライブラリーにある測量の本で、単円曲線はあるけれど、緩和曲線を載せていないものを探したら、とりあえず3冊が見つかりました。

Photo  1893年(明治26年)野村龍太郎著「鉄道測量用諸表」p4(7コマ目)の「第2項 鉄道曲線公式」、「第3項 枝距offsetにて曲線を敷設する公式」です。著者はウィキペディアのこの有名人でしょうか。

Photo_2  1910年(明治43年)井上福一郎著「土木工事設計便覧」p457(267コマ目)の「第7編 鉄道の部、第1章 鉄道線路敷設及び軌条」です。

Photo_3 1911年(明治44年)仲野雄介著「測量設計実用表」目次p4(6コマ目)に表99 鉄道曲線表、表100 鉄道及軌道曲線設置表、表101 曲線に於ける外軌条の高度表、で、p23-24(15、16コマ目)に使い方の説明があります。

 1910年と1911年に緩和曲線無しで出版されているということは、この頃に開通した、とある路線が単円曲線であることと符合するのかもしれません。2010-06-18

■冒頭の写真は2009年6月15日の11:42、琵琶湖線(東海道本線)膳所駅に進入する上り新快速です。

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