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2010/06/04

緩和曲線の測量学(1)

A histrical study of railroad transition curves, part 1

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Img484b またまた指導が入りました。
 鉄道主任技術者の制度は無くなってしまったそうです。というわけで、"元"主任技術者から「この本で勉強せよ!」と、学生時代の教科書を貸し与えられました。
 石原藤次郎・森忠次共著「新版測量学応用編」1965年初版、1974年第3版で1,700円という、当時にしては高価な本です。【画像はクリックで拡大します】

 もちろん、モデラーのために書かれているはずは無くて、歴史や経緯を明らかにすることを目的とした本でもないのですが、脚注と併せて読んでいくと、我田引水が出来ないこともありません。以下、勝手に拾い読みをしてみます。前後の関係から、文意に添った形で翻案している部分もあります。詳しい数式はネットを検索してみてください。

 まず、ちょっと信じられなかったのは、緩和曲線として当初に考え出され、試みられたものがクロソイド曲線ということです。

 理想とする曲線の定義からすれば当然の話で、これを最初に導いたのがE. Holbrookで1880年という記述は5月22日にお伝えしたWikipedia英語版と一致します。
 ただし、現実に適用することが難しいので、それを簡略化して3次螺線(Cubic spiral:これがよく判らない)、さらに実用的にしたものが3次放物線(Cubic parabola)で、1889年、C. D. JamesonとE. W. Crellin(Railroad and Engineering Jounal)の名前が挙がっています。螺旋
 そして、時代が下がりクロソイドへ回帰という粗筋です。

 アメリカでは、A.R.E.A.螺線(American Railway Engineering Association ten-chord spiral,1919年)です。AREAの螺線小委員会において、なるべくクロソイド曲線に近く、しかも式が簡明で、実用上十分な正確さで容易に設置できるという条件の下に考案決定されたもので、アメリカの鉄道方面でこれを用いている。……結果的には3次螺線に極めて近似した曲線、と記されています。【この綴りで検索すると、おびただしいページをヒットします】

 レムニスケートLemniscateは、曲線始点よりの弦長に反比例して曲率半径が変化するもので、クロソイド系の円弧長に反比例のものとは異なる。曲率半径が無限大よりRへと漸減する割合がクロソイドより緩慢であるが、3次放物線よりも著しく、列車の安全運転に優れている。
 3次放物線では螺線角が約24°のときに曲率半径が最小となるため、それ以上の螺線角に対して使用不能であるが、レムニスケートは135°の螺線角まで適用できるから、市街鉄道や地下鉄道のような急角度の曲線の緩和曲線として有利であるとされている。
 提案されたのが1932年、精密な計算が行われたのが1936年で、曲線表が完備されたのが1958年です。その後日本で採用されたか否かは不明です。

 半波長正弦曲線逓減緩和曲線は、カントを半波長正弦曲線で変化させる場合に得られる線形で、国鉄で用いられる、とあります。
 ネットを検索すると、新幹線などの高速区間で採用されているようです。

 ところで国鉄での3次放物線では、曲線整備・緩和曲線敷設方法(大正12年(1923年)4月24日,研甲第217)があって、緩和曲線の無かった古い線路にそれを挿入するする方法も記されているとのことです。【ただし、国立国会図書館近代デジタルライブラリーでは、共に明治34年(1901年)初版で、石井槌太郎著「理論応用緩和曲線」と、木下(柴山)武之助著「鉄道道路曲線測量表 附・布設法」があります。この頃には実用になっていたのでしょうか】

 また、面倒な数表や計算を要しない緩和曲線敷設方法別法(昭和10年(1935年)3月1日,東工亥1268)も採用されたようです。
 この辺りに興味がある方のために6ページを貼っておきます。実用的な近似値を求める場合に役に立つと思います。主に解説されているものは別法の方ですので、そのつもりでお読みください。

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 また本書から、緩和曲線以外の鉄道の知識も拾っておきましょう。
 単心曲線(Simple curve)の日本国有鉄道の標準曲線半径(m)は、120、150、200、250、300、350、400、500、600、700、800、1,000、1,200、1,400、1,600。

 反向曲線(Reverse curve or S-curve)は、車両の危険や速度の減少を生ずる程度が著しいから、なるべくこれを避け、やむを得ず使用するときにはその区間に緩和区間を設ける。鉄道では2つの緩和曲線の間に出来るだけ長い直線部(20m以上)を挿入して車両運転が円滑に行われるようにする(日本国有鉄道建設規程調査委員会:日本国有鉄道構造規程および解説(案),1959,第16条およびその解説)

 アメリカでの曲線の表し方は、日本で一般的な半径ではなくて、もっぱら曲線度数Degree of curve or curvatureとのこと。
 鉄道方面では図(a)のように100ftの弦abが中心を挟む角度の度数で曲線の緩急を表わす(これをChord definitionという)。
 道路方面では少し異なり図(b)のように100ftの円弧abが中心において挟む角の度数で表わす(これをArc definitionという)。この2種の定義による差は、緩い曲線(普通1°以下)に対しては無視できる。

 この教科書には他に、北陸トンネル等を例に曲がったトンネルとか、河川の水量、海波の高さと向き、潮位や風波、空中写真測量などが解説されていて、1週間の通勤途上を楽しませてもらいました。
 現代はパソコンやGPSが普及していますから、測量の状況は一変していることだと思います。

 なお、ネット上には、マッコンネル(あるいはマッコーネル,McConnel、McConnell)曲線というものが出ていました。競輪場や競馬場、自動車の高速周回コースに用いられているそうです。私の組立式レイアウトにはこちらの方が良かったでしょうか(笑)

【追記】株式会社ランドアートという測量機器販売会社のサイトで「日本道路協会型クロソイド定規」なるものを売っていました。ここのアール定規100枚組には若い頃、お世話になったものです。2010-06-19

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冒頭の写真は2009年4月6日12:38、近鉄京都線の丹波橋駅に接近する奈良行準急です。

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コメント

この書き込みを読んで鉄道ピクトリアル大阪市交通局特集増刊号(2004年)にクロソイド曲線の緩和曲線を乗り心地改善のため新線及び在来線でも半波長正弦曲線逓減緩和曲線に改良しつつあるとの記述を思い出ました。
いつも利用している御堂筋線淀屋橋-なんば間ではホーム前後のSカーブで昔ほど左右に振られる感じは減ったような気がします。又梅田→淀屋橋の中間地点にあるカーブに入る所は縦曲線との合成ですが、昔はガクっと曲線に入る感じでしたが今は大変スムーズに走行しています。

確か、グーグル地図ではここですよね。「電車が右に曲がります。ご注意ください」とアナウンスがあって、ホントにガクンと来た記憶があります。今でも放送があるのでしょうか。どうして南行きだけだったのか……【ワークスK】

投稿: ひかり・こだま | 2010/06/06 23:01

当社では測量機器の買取をしておりますので、是非ブログに遊びに来てください★

投稿: 株式会社 エコランド | 2011/01/16 16:33

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