カーダンパーを模型化したいけれど
前回紹介した森島宗太郎著「鉄道工学」1965年刊で、興味を惹いた写真がありました。回転式のカーダンパーです。
実はこの「ダンプ」という単語が難しくて、"damp"および"damper"は、「弱める」とか「勢いをくじくもの」という意味で、風量調節器や振動吸収器、楽器の弱音器を指します。
これに対して「カーダンパー」は、"dump"や"dumper"と綴る方で、「どさりと降ろす」、「傾斜型荷降ろし器」の訳語ですね。ダンプトラックやダンプカーのそれです。
この写真は、セキ3000あたりを車両ごと引っくり返している様子です。「回転式カーダンパー」、"Revolving car dumper"だとあります。まあ、"ロータリーrotary"でもよさそうです。【画像はクリックで拡大します】
装置には「日立」の文字が鮮やかに描かれ、人だかりがしていますから、試運転でしょうか。
さらにもう一枚には、「石炭車を押し上げるためにミュールカー(Mule car)を使用することがある」と説明されています。ワイヤーロープで推進している様に見えます。
「ミュール」はラバ、「雌ウマと雄ロバとの一代雑種」とのことで、私には馴染みが無い単語ですが、馬のように扱い易くて、ロバのように力が強いということです。
先日、お伝えした鉄道馬車は「ウマ」ですけれど、「ラバ」を使ったミュール・カーという例をネット上でヒットしました。
さて回転式カーダンパーについては、とある掲示板の発言番号348辺りに情報があって、なんと機械学会誌1932年10月号の「室蘭に於ける石炭船積設備」(pdf)中村健吾なる全12頁の記事が紹介されていました。1969年まで使われていたそうです。見比べると、まさにこれではないかと思います。
図面が豊富で、ミュールカーもあります。さらに、稼動のタイムチャートも示されていますから、120秒ピッチでひっくり返していたことを信用せざるを得ません。
石炭車やホッパーカーが底に装備している扉を開いて降ろすよりも、作業が遙かに早いのでしょう。さらに、底を閉める作業が不要です。
また、同じ室蘭の写真がウィキペディア日本語版から辿った、これも同じ機械学会誌1955年6月号の「カーダンパおよびカーチップラ」本田早苗(pdf)にあります。残念ながら、少し不鮮明です。
私自身が実際に目にしたカーダンパーは、180度回す回転式ではなくて、45度だけ傾ける側転式でした。
トムから石炭を降ろす現場に遭遇しました。大阪セメントの伊吹工場です。某氏に誘われての訪問で、確か"とれいん"誌1993年5月号に触発されて出掛け、写真も撮ったはずです。機械学会誌の昭和28年汽車会社製でしょうか。
実は同じものを、小学校の修学旅行で訪れた信越化学の直江津工場で見た記憶があります。1962-3年頃のことです。これも、同社黒井工場の昭和24年四国機械製が該当するのかもしれません。
ちなみに長野県上田辺りでは、新潟県の鯨波海岸へ出掛けていました。地引網の体験ですね。クラスの半数が海は初めてという時代です。宿は、そうかい、蒼海ホテルと言ったと思います。
ところで、これらを模型で実現したい、実際に稼動させられれば面白いと考えるのは、モデラーの常でしょう。
私も過去に、ナローのナベトロを試作したり、ウォルサーズのウッドチップ用回転式キットを購入したりしています。写真は、ウォルサーズ・キットのプロトタイプだという、ワシントン州LongviewにあるWeyerhaeuser Timber Co.のもので、Matt Coleman著"Trains, Tracks & Tall Timber,-The History, Making and Modeling of Lumber and Paper"から引用しました。
入換のことまで考えると、機関車で牽引するコール・ゴンドラ編成をそのまま切り離さないで、カプラーの軸を回転させて次々と引っくり返していくロータリー式がきわめて効率的です。
模型でも回転部分さえ精度を出せれば、あとは定位置で編成を止めるだけです。2両ずつ引っくり返す近代的なシーンを、Nゲージで再現された方がおられました。HOではウォルサーズのウッドチップ用キットをこの方式で可動化した例もあります。
さらに妄想すれば、積み込むシーンもやりたいですね。ただし、一定量をどうやって取り分けたらいいのか、ブツは何にしようか、コボれたらどうしようか等々、難問ばかりです。まあ、思い巡らすだけでも、この趣味の楽しみの一つといったところでしょうか。
【追記】ストックしていたウォルサーズ社のキットを引っ張り出してきました。改めて組立説明図とパーツを見比べてみたのですけれど、どうやって動力化したらいいのか、見当が付きません。スチール製の軸とか、貨車を押し付けるためのバネが添付されているのですが(笑)
ウォルサーズHOカタログを探すと、1998年版に"NEW"と出ていますから、その前年、1997年の発売だと思います。品番は933-3145、値段は39.98ドルです。2010-12-11
【追記2】ロータリー・カプラーは左図の右下をご覧ください。
また、セキ3000をプラ板から自作した話をアップしました。2011-10-08
【追記3】マクマイラー・ダンパーMcMyler dumperというものがありました。アメリカ型鉄道模型大辞典を参照ください。2017-03-07
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コメント
10年くらい前三線式Oゲージでこれが回転するのを初めて見ました。カプラは本物と同じように回転式でした。
貨車の片方の妻部分が黄色になっているのは、こちらが回転カプラであるということを示している、ということに気が付いたのはそのときでした。気が付くのが少々遅かったですね。
HO以下のサイズのカーダンパの作動をその後見ましたが、積み荷が静電気でくっついていて全部落ちないのは残念です。
貨車がプラスティックで電導性がないのが原因です。内側に何かの工夫をして摩擦電気を逃がす工夫が必要でしょう。「エレガード」などは意外に有効かもしれません。
>>意外と難しいものですね。ところで、静電気といえば石炭を扱う現場では炭塵爆発が怖いはずで、実物には散水装置が備わっているかも知れません。【ワークスK】
投稿: dda40x | 2010/08/08 21:15