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2010/12/26

球頭式連結器は怪しさ100%

What is the Drawbar Anchorage?

 4か月ほど前の2010年9月4日にお伝えした「大阪モノレールの連結器」での話です。"ひかり・こだま"さんのコメント中に「球頭式」という単語が登場しました。
 そうです。これが難物なんです。
 本屋の鉄道書コーナーで、技術解説を謳っているものを片っ端から開いても、言及しているものが無いのです。ネットでも駄目です。
 そこで奥の手とばかりにN氏に頼んで、メーカーの昔のパンフレットをコピーしていただきました。1969年発行の住友金属工業(株)のものです。以下、モノクロ写真と図面は、同パンフレットからの引用です。

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 上の写真の右端が所謂ボールジョイントになっていて、その上面が車体台枠の下面にボルト付けされます。これは半永久型です。
 次の図面は、棒状連結器で、緩衝器が両端に付いています。

Img861a

 そしてまた、老人の昔話を聞いてやってください。【画像はクリックで拡大します】

 カーブで電車が脱線したことがありました。このとき、私の上司が参考人として呼ばれました。列車往来危険罪の嫌疑というやつです。そこで、次のように問い詰められたといいます。

「お前のところの連結器は、上下と左右に首を振る構造になっている。しかし、カーブの出入り口ではカントが増減するから、連結された2両の電車は捻られた状態になる。この連結器は、その捻れに対応していない。よって脱線した。その構造を容認しているお前が犯人だ……」と。

住友型密着自動連結器中型
Img868a

Img867a  そうなんです。普通の密着連結器とか棒連結器の根元は、ピンが縦と横に入っています。これはまさに回転力を伝える自在継手、ユニバーサル・ジョイントですから、捩じれ変位を吸収しないのが道理です。
 車体との関係は、「緩衝器の基本的な働き」をご覧ください。

 慌ててメーカーに応援を求めて事無きを得たことは言うまでもありませんが、具体的な中身は忘れました。当然、あちこちの遊間が積み重なって逃げているという説明だったはずです。
 ですから後年、連結器の保守を担当する部署が業務改善の一環として、連結器の衝撃を根絶する活動を始めたときには、メーカーの指示寸法を厳守してくれと何度も頭を下げたものです。

 大津線の500形で1979年に初めて採用した棒状連結器は垂直ピンだけのタイプで、ブッシュが球形だったか、ガタを大きく取っていたかは忘れました。メーカーの推奨のままでした。
 このとき現場に状況を尋ねたら、異常な摩耗や変形が無いとのことで、ホッとしました。2両しか連結せず、しかも両方とも電動車ですから、基本的には連結器に力が伝わらない理屈です。
 1997年に登場した800系は球頭式なので、あるいはこの辺りを心配した結果かもしれません。

 この一件が切っ掛けで私は球頭式に関心を持つようになりました。大阪市交通局で採用と知って感心したものです。
 ただし、ネジレへの対応以外では、従来の伴板式と較べて、球頭の首に加わる剪断と曲げ、球を包む2分割の受を締めるボルトに掛かる引張が心配です。分解検査のときの探傷が面倒だとか、連結器本体が緩衝器と一体となっているから重くてハンドリングが悪いという印象を持ちました。

 というわけで、球頭式が必要となるのは密着連結器とか棒状連結器だけで、自動連結器は結合部を引っ掛けているだけだから無縁……と思いきや、これがあるんですね。次の阪急京都線用です。用途まで判ってしまう理由は、ナックルの下端が伸びている点です。

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Img_9291b  ただし、ナックルのところにブロックがあって、裏からコイルバネで押しています。これが自連の遊間を殺すと共に、連結し合ったナックルが摩擦で上下に食い違えなくもなります。というわけで、球頭式が必要と判断されたのでしょうか。(押片付自動連結器?)

 このブロックは、電車の前方から眺めるとよく判ります。
 ところが、2010年秋撮影のこの写真を見ると、連結器がそれを支えている胴受で上下動を許されない構造になっています。ということは、球頭式の意味がありません。
 一方、押ブロックの作用で、連結した前後の連結器は上下の逃げを規制されて、揺動でどちらかの車体が輪重抜け?
 この辺りは、またどなたかに解説していただきたいものです。

 ところで、この球体の部分を「球頭胴支え」と呼ぶようです。住友金属の特許情報のページには挿絵が無いものの、そう読めます。
 球面部分の潤滑がミソなのだと思います。

 ネットを徹底的に探したら、東京メトロでの見聞を発見しました。2009年12月5日に開催された綾瀬車両基地の見学会です。「ともこ ともこ ともこ」という女性の方のブログで、男子禁制エリアだったそうです。次の写真は棒状半永久型連結器です。
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 2分割球受の片方を手で持って、その仕組みを説明してくれています。鉄道屋は女性に優しい……(笑)
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 これが問題の"銀の玉"で、球頭部を連結妻から見たところです。
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 N氏によれば、「アンカレージ式」なる呼び名もある由。綴りは"anchorage"でしょうか。しかし、これらでネットを検索しても引っ掛からないのです。アメリカ物では頼みのCar & Locomotive Cyclopediaにも出ていません。

 住金のパンフレットでは球頭式のトムリンソン型など、当たり前の様に紹介されています。そして、それ自体の説明は一切ありません。結構、日本全国、津々浦々に蔓延っているのではないでしょうか。

 ただ、何か鉄道業界全体で球頭式を隠避隠匿しているような……。
 連結器関係の記事は一覧表にまとめていますのでご参考まで。

【追記】O氏より住友金属工業の新しいパンフレットを頂戴しました。連結器とゴム緩衝器に関するA4裏表の簡単なもので、まったく同じ内容がネットで公開されています。特筆すべきは、ここに球頭式が皆無な点です。「2004年8月発行」ですから、遅くともこの頃には、推奨方式では無くなったことがわかります。2010-12-30
Sumitomo_couplers

【追記2】とうとうアメリカ型に球頭式を発見しました。Car Builders' Cyclopedia 1928年版p915です。
Tomlinson_coupler

 トムリンソン連結器で、球頭を"Drawbar Anchorage"と呼んでいます。輸入したこれを手本に、日本でも広がったんでしょうか。2012-10-17
Tomlinson Automatic Radial Car Coupler and Draft Gear, Air Connecting, Used on Illinois Central Suburban Cars. Centering Device and Drawbar Anchorage Shown Below. Ohio Brass Company.

【追記3】鉄道ファン誌2010年11月号p60-66に東京地下鉄16000系の新車紹介があって、ここに「球頭式」の語が見えました。書き方が微妙なので、ソックリ写しておきます。

 16000系においても、すでに副都心線用の10000系や東西線用の15000系で実績のある連結器を採用した。車体取付け方法は、従来の球頭式連結器を変更し、強度面とメンテナンス性に優れているヨーク式連結器を採用している。

 この辺り、こだま・ひかりさんのコメントの通りです。強度というのは、球体の付け根に剪断と曲げが加わること、メンテは球面の潤滑(とボルトの探傷?)なんでしょう。2014-01-09

アンカーレイジ アンカーレージ アンカレイジ 密着自動連結器 柴田式密着連結器 ゴム式緩衝器

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コメント

相変わらず研究熱心で感心しています。
阪急の押ブロック付自連は京都線用だけで無く1000形から採用され5300系まで全ての系列に採用続けられました。
確かにせっかくの球頭支持も連結器自体が車体の捻れに対応していなければ意味がありません。多分自連ナックル間の隙間で逃げているのでは?押ブロックの押付力も上下の動きを規制するほどの力は無いと思います。上下でずれるところを駅で見たような記憶もあります(30数年間阪急沿線住民でした)。

私が球頭式を評価するのは車両間の衝動がほとんど無いことで、伴板守式に移行した阪急6000系以降では結構衝動が気になります。

ところで東京メトロでは10000系シリーズで球頭胴ササエ式をやめ伴板守式に変更になっています。こういう場所の画像はなかなか無いのですがこのページの上写真の左にちょっと写っているのは伴板守式のササエですね。

銀玉ファンのともこさんは残念がるでしょうね(笑)

>>コメントありがとうございます。
 この方式がどういう切っ掛けで始まり、そしてどういう理由で廃れていくのか、今になって好奇心が湧いてきています。またご教示ください。【ワークスK】

投稿: ひかり・こだま | 2010/12/26 13:59

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