宇治川ラインの"おとぎ電車"(2)
上は保線担当が作成したと思われる路線図で、青焼きですから線が消えかかっています。水は右から左へ、すなわち東から西へ流れています。
左は宇治川ラインの誘客ポスターで、京阪の社史「鉄路五十年」(1960年刊)に掲載されていたものです。
今回、図らずも"おとぎ電車"をまとめることになったのですけれど、一つ、大きな障害がありました。20年前に書いた原稿ファイルが読めなかったことです。
当時使っていたワープロソフトは"新松"といいました。別のソフトに乗り換えたときに、ファイルを変換しておくのを忘れたのです。ウィンドウズ版は売っていないし、古いパソコンも処分してしまっています。思い余って発売元である管理工学研究所にメールしたら、画期的な解決策を授かりました。
"松風"という簡易ワープロソフトは販売を終了しているけれど、試供版は今でもネット上で提供している。これをダウンロードして使ってくれ。ただし、使用できる期間は3ヶ月。とのことでした。
もちろん即、目的を達したことは言うまでもありません。
さて、謎は未だ数多く残されています。特にオリジナルの電気機関車については、皆目不明です。1920年前後に輸入した記録が宇治川電気、現在の関西電力には保存されていないのでしょうか。次は京阪車両部所蔵の写真です。
そこで、アメリカの鉄道趣味の掲示板であるトレインオーダーズ・コムで問うてみました。写真を披露して、付いた3つのコメントに曰く、
1990年代にメキシコの銅精錬所で、同じようなJeffrey製を見た。
Atlasにこういうデザインは知らない。
コントローラーでリード電線の出ている部位が、一般的な"底"ではなく"側”という点が興味深く、同じものを60年ほど前に遊園地の乗り物で見た。
・・・・とのことでした。
アメリカのLocomotive Cyclopediaという本の1922年版p1045に出ているJeffrey Manufacturing Company製を引用しておきます。私はCD-ROM版を求めました。
アイデアに終わったと思われるタルゴ客車のステアリング機構は、レイルNo.78にも図面が載りましたが、模型的には右の青焼図が判り易いでしょう。車体の折れ曲がり角度に連動して連接部の1軸台車がレールに沿います。もちろん、編成両端の2つの軸には適用できないので、本質的な解決策にはなりえません。
おとぎ電車についてネットを検索すると、「夢幻コラム」という名であちこちの資料から写真を集められたサイトがありました。
東淳平さんという方のブログには、実際に乗車した思い出が書かれていて、添付された写真では機関車側面の文字が「むかで」と読めます。これはレイルNo.78、p68の写真説明と符合します。たぶん、「ばんび」用の機関車を「むかで」客車に使ったことを運転士に確認させる目的だと思います。
中には模型を作って走らせている方もおられました。
種々思いを巡らせていたら、ふと戯れ事の伝言ゲームが思い浮かびました。
これで学んだことは、最初の伝言が人を介して伝わるたびに変化して、最後は似ても似つかぬ内容となるということでした。情報は伝達によって劣化するという事実だったはずです。
しかし、現実は異なっていました。
かつては五里霧中、暗中模索だった"おとぎ電車"が、10年、20年と時を経るに従って鮮明となってきています。廃止されて50年という今になって、生々しい証言と資料、貴重な写真と図面が集まってしまったのです。
伝言ゲームは閉じた系の中での話ですけれど、我々の社会はオープンです。人々の手によって、たくさんの情報が発見、取捨選択、関連付けられて、時間の経過と共に真の姿に迫る、というような解釈でよいのでしょうか。
例えば、卑弥呼の邪馬台国は魏志倭人伝の中だけだったものが、近年の発掘によって新しい事実が次々と出ています。
謎は、多くの方々の知恵や努力によって必ずや解けていくと期待して良いのでしょうね。
ところで昨日、レイルNo.78を手にとられた豊田隆氏から電話があって、2号機関車の「ばんび」はやはり記憶に薄い。開閉式の正面窓は、現場が「暑い!」というので、ナニワ工機に作ってもらって現地で取り付けたとのことでした。
最後は「鉄路五十年」に掲載の、トンネルをくぐる「むかで」号です。
続きは、ちょっと跳んで第3回です。
【追記】宇治川ラインのポスターをスキャンし直しました。「石山 三日月楼」と「宇治 花やしき」は今でも盛業だと思います。特に前者には数年前、厄介になりました。
また保線担当の手になるか、とした地図は、発電所関係の水路が詳しく描き込まれているところから推察すれば、原図は宇治川電気作成かもしれません。2011-04-27
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