京阪びわこ号が連接車となった理由
Why the Keihan's Biwako trains equipped articurated truck?
先日、模型店巡りをしていたら、貼ってあったポスターに「京阪びわこ号製品化決定」とありました。
私の連想は、「ストックしているモデル8のキットをどうする?」といったところですが、世の中一般には大歓迎でしょう。
現役時代に、広報担当者から「どうして連接構造を採用したのか」と質問されたことを思い出しました。【画像はクリックで拡大します】
このときは、「どこかに書いてあるだろう?」と応えたのですけれど、手持ち資料に当たっても、明確な記述は見つかりませんでした。
普通に考えたら「急曲線をスムーズに通過するため」という答えが出てきます。
けれど後年、同じ線路を15m級の80型や260型、600型が走ったし、さらに今では16.5mの800系が4連でビュンビュン疾走しているわけで、本誌の読者なら「違うな!」と直感していただかなければなりません。(逢坂山トンネル付近の線路改良については、「カブリツキ 京阪京津線は水煙いっぱい」という記事のコメントをご覧ください)
実務を担当した経験からすれば、その一番の大きな理由は、耳目を集める奇抜な新機軸を経営者が導入したかった、ということのはずです(笑)
まあ、それはひとまず置いて、当時の設備や輸送力に思いを馳せれば、1両では小さ過ぎるものの、2両分もの需要は考えられない。またホーム長も足りない‥‥といった辺りでしょうか。
ところで、寝屋川市役所が地域振興の目玉として、びわこ号を自力走行させるプロジェクトを立ち上げたとのアナウンスがありました。ただし本線走行は、性能や保安度、また維持保全のことを検討したら難しいと考え直したようで、いつの間にやら「車両基地内での走行を目指す」とトーンダウンしています。
鉄道関係者以外が思い付き難い点は信号感度です。近年多用される合成制輪子composite shoeで6軸では検知の信頼性が足らないはずで、近鉄などの2両編成が昔ながらの鋳鉄制輪子を採用している大きな理由だと記憶しています。
さて、ウィキペディア日本語版の「連接台車」の項は、書き手がだいぶ苦心されていますね。
一般的には“ある種の思惑”で採用されますから公表されない類の話ですけれど、私の思い付いたことを並べてみましょう。自明なことばかりですので、既に誰かが何処かに書いているはずです。
1.乗り心地が良い
これには2つの意味があります。
一つは、ウィキペディアにもある通り、連結器の問題です。連接車では、車体重量をこれに負担させるので強固な構造となりますから、ボギー車のような遊間のあるピン結合や緩衝器が不要となって、編成的に剛性の高い一体的な結合が実現できます。
よって前後の衝動に有利です。
もう一つは、オーバーハング部分を削減できることです。
右の図を見てください。片方の台車が10だけ動いたとしたら、台車中心ピン間では10以下の動きになります。しかし、オーバーハング部分では、10以上も動くことになります。これは上下と左右の揺れに共通の問題で、オーバーハング部分では増幅されて、乗り心地が悪いということです。
連接車には、この部分がありません。もちろん、両端の車には残りますが、長さを短くしたり、荷物スペース等とする方法が採られています。
すなわち、これらが優等列車に採用される理由だと思います。
2.輸送単位の設定を約半分にできる
前述したとおり、京阪びわこ号はこちらに該当するはずです。
サザン・パシフィック鉄道SPの食堂車も同じではないでしょうか。次の図は、Richard K. Wright著"Southern Pacific Daylight Train 98-99 Volume 1"p399からの引用で、57フィート(17m)という中途半端な長さの厨房車です。
また国鉄時代の試作ガスタービン車キハ391では、‥‥機関部分を納めるのに21m車では大きすぎて、残りを客室としなければならないけれど、騒音と振動が伝わってしまう。なら車体を機関に合わせて7.6mと小さくしよう。ついでに台車を削減して連接式にしよう‥‥といった辺りだと思います。
3.曲線での車体偏倚が内外共に小さい
連接方式は路面電車に多く採用されます。路盤が悪くて揺れが大きいから、上述のように、乗り心地向上という意味もあることでしょう。加えて、カーブでの偏倚(へんい)の面でも有利なのです。
まず外方の偏倚は、オーバーハング部分がありませんから、一応ゼロになることがお判りいただけると思います。
では内方はどうかというと、これも小さくなります。
右の図のように、ボギー車の連結では、編成で見た場合に、台車の中心ピン間隔が大きな部分と、小さな部分が交互に存在します。
ところが連接編成では、同じ編成長(収容能力)で同じ台車数とした場合に、台車の間隔がどれも等しく、ボギー車よりも小さなものになります。すなわち、内方偏倚量が小さくなります。
特に小曲線が多用される路面電車でメリットが大きいはずです。
以上のことを要約してアメリカ型鉄道模型大辞典に追記しておきました。まあ、出典や根拠を示せない点が苦しいところではあります。
他に5車体連接のスパインカーとか、120両連結のロードレーラー、超低床の路面電車など、同じではなさそうな理由に思いを巡らすのも我々の楽しみの一つということですね。
あっ、モデル8のキットはどうしましょう? このパーツ数ですから‥‥連接車のメリット
【追記1】四条を出発する「びわこ」号の写真を見つけました。京都府総合資料館所蔵データベースというところの 「黒川翠山撮影写真資料」で、他にも面白いものがあります。
線路基盤が仮復旧の様子ですから、昭和10/1935年の水害直後かと思います。もちろん、東華菜館からの眺めですね。画像は少しレタッチしています。
続いて連接部の構造を探求します。2011-09-16
【追記2】寝屋川市の「びわこ号復活プロジェクト」が盛り上がってきました。京阪電車の告知(pdfファイル)2012年10月10日付によれば、ギャラリートレインを来年3月末まで運行するとのことです。
これを読み進むと、「びわこ号の概要」として、「京津線には半径の小さなカーブがあり、車両の幅や長さにかなりの制限を受け、京阪本線からの高速大型車両の直通乗り入れ運転は難しかったが、この連節車を応用することによって東山や逢坂山の山越えなど急勾配や急カーブでも円滑に運転することができた」と断言しています。
まあ、イベント的には納得させやすい物言いなんでしょうね。
ついでに本文の記述を一部、弄っています。復活プロジェクトの逐一は掲示板をご覧ください。2012-10-14
【追記3】大阪・大津間直通車両として「びわこ」号が登場した理由は、営業的というよりも、政治的な色合いが濃かったということは、京阪ファンならばよく御存じのはずです。このあたりは、ウィキペディアがキチンとトレースしてくれています。そのため、耳目を集める流線型や連接構造が採用されたというのが定説です。
技術的にいえば、66.7パーミルもの急勾配を登るためにはオールMが望ましいはずですよね。それなのに、びわこ号は中間にはモーターが付いていません。すなわち、1M0.5Tです。言わずもがなですが、念のため記しておきます。2014-02-07
【追記4】1930年代初頭に開発された技術にストレスト・スキン(⇒アメリカ型鉄道模型大辞典)という車体構造があります。京阪でいうと1937-38年の流線型1000、1100型以降がこれです。で、びわこ号がどうだったのかが問題ですけれど、もしそうだとしたら、メーカーである日本車輛が「超軽量だから1M 0.5Tが可能」と売り込んだのかも(笑)2014-04-20
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コメント
60形に乗車したのは京津線の急行運用のときばかりで、路面用のドアを開いている様子をあまり見たことがありません。ニス塗り車内に白熱灯だったと記憶しているのですが、どうしても260形と比較してしまうので、車内が暗い印象です。
キットはもちろんウチにもあります。下回りは走行可能で塗装まで終了、車体組みが途中で止まったままです。
>>廃車が1970年ですから私は現役時代を全く知りません。路面ホームといえば、東山三条、蹴上、日ノ岡くらい‥‥。ことによると、低床用ドアは使ったことが無いかも‥‥【ワークスK】
投稿: ヤマ | 2011/09/15 23:23
近鉄沿線で生まれ育ち、小田急沿線で暮らしてきた身として、連接車は大好きなので興味深く読ませていただきました。
偏奇は偏倚の間違いでしょうか。読みは「へんい」ですね。
>>ご指摘ありがとうございました。変換で出てこなかったもので‥‥(^^;【ワークスK】
投稿: YUUNO | 2011/09/20 18:13