ホエールベリィ・タンクカーはグラマラス
プロパンやブタンガスは、日本では都市ガスの供給が無い地域で家庭用に利用されています。アメリカでも一緒なのでしょうか。
モデルは、MTHトレインズの3線式Oゲージです。
アトラスO製品と並べてみると、車体の背丈がちょっと高過ぎます。
2線式へのコンバートは、いつもは車輪とカプラーの交換だけで終わらせるものの、今回はボルスターを改造して車高を下げました。車輪は、100トン車ですから36インチ径です。
タンク側面の文字"Pyrofax Gas"は、ネット上でたくさんヒットしますが、よく判りません。
次はアトラス製で、"ACF 33K Gallon Tank Car"を名乗っています。リポーティングマークはSHPXで、MTH製も一緒です。これは、ACF社のリース部門という"Shippers Car Line"ですね。
両者は同じプロトタイプだと思います。ただし、手すりや歩み板が異なっています。
メインライン・モデラー誌の1997年5月号に、この手のLPGタンクカーについて、David G. Casdorph氏の概説が掲載されていて、James Kinkaid氏の手になるACF社製の図面も添えられています。アトラス製品は、この図によく合致しています。
記事を無手勝流に読み解いてみますと‥‥
1960年にUTC(Union Tank Car)が、ストレート・タンクで中間フレーム無の30,000ガロンを試作したが、85フィートという長さがネックだった。
翌1961年にはGATC(General American Transport Co.)が、ホエールベリィ・タイプの30,300ガロン、プレートBの70トン車を開発し、これが鉄道や運送業者に受け入れられて、その後の数年間、4つのメーカーで製造された。
ACF社は、この種のタンクカーを最も多く製造し、1963年に32,300ガロンの70トン車、1964年には33,150-33,300ガロンの100トン車を世に送り出した。1965年から69年までの間、容量は33,700ガロンまで徐々に増加した。ACF以外では、GATC、UTC、NACC(North American Car Corp.)が製造した。
1970年以降は、LPGタンク車には断熱材(Insulated)と遮熱板(Jacket)が必要とされるようになり、既存のホエールベリィ・タイプは改造、もしくは他の用途に転用された‥‥
というようなことでしょうか。
最後のところは、よく理解できていません。鉄道によるLPG輸送が衰退してしまった可能性もあると思います。
"112A400W"などという暗号!としか言いようの無い、AARによるクラス種別は、チンプンカンプンです。
一方我が国最初の、同じ形のフレームレス異径胴タンク車は、ガソリン用のタキ9900で、1962年の登場ですから、アメリカと同時期です。
LPG用のタサ5700も同じ62年ですけれど、形はストレートで、最初から断熱材と覆いを備えていました。
さて、次のOゲージ・ブラスモデルは、1971年発売のUSホビーズ製品です。明らかに車端部のハシゴ形状が異なります。
1973年刊"Max Gray Pocket Spotter Guide III"からの引用
こちらのプロトタイプを探すと、ACF社の100年史"American Car and Foundry Company 1899-1999"に登場するデモンストレート車(右写真)が、ソックリです。
製造年を追っていくと、この形態は62年から64年前期までですから、MM誌の記事でいうところの1963年製70トン車の様です。
考えるに、「タンク中央のドームの真横にハシゴを設置したいけれど、ここはタンク自体が車両限界一杯に膨らんでいて無理なので、歩み板で車端まで行って連結器方向に降りることとした。さらにタンクが長い100トン車では、車両長を抑えるために径が小さいタンクの部分で左右に降りることにしよう‥‥」といったあたりでしょうか。
USホビーズは、このタンク車を"Pregnant Whale Tank Car"と呼んでいます。
「プレグナント」の意味に、私は無頓着だったのですが、dda40x氏のブログを拝見して唖然とさせられました。この比喩を他では見たことが無いので、同社のLevon Kemalyan氏あたりのウィットなのでしょう。
一般には"Whalebelly Tank Car"と呼ばれていて、訳せば「クジラの腹」です。"Fishbelly Underframe"が魚腹台枠ですから、モデラーには容易に想像が付きます。
なおHOゲージとNゲージでも、アトラス社がOゲージと同じACF製を発売しています。
次は、ACF社でタンク体を自動溶接している様子です。手前の2条が、これから溶接する繋ぎ目で、U字形の溝となっているところに注目してください。サブマージアーク溶接についてはウィキペディアの日本語版を読んで、英語版の図を見ていただくのが判りやすいと思います。
この写真は、Car & Locomotive Cyclopedia 1966版からの引用です。
実はこの事典に、とんでもない“クジラ”が紹介されています。
長さ96フィート(29m)超、容量は60,000ガロンだという、4台車式のタンク車です。製造はGATCで、積み荷はLPガスや無水アンモニアanhydrous ammoniaです。【拡大画像はスクロールします】
側面の向かって右に描かれた“丸に点”は、明らかに目玉をイメージしていますよね。
ネットを探すと、セントルイスのMuseum of Transportationに保存されていて、1965年製だとあります。次の写真はネット上から拝借したもので、収差と明度を補正しています。反対エンドの写真もみつかりました。
こういう車両にはモデラーズ・マインドが疼きます。
しかし、仕掛り品を山のように抱えている年寄には‥‥(笑)
これに似たタンク車をNゲージでアトラスが発売したことがあるらしいのですが、どなたかご存じないでしょうか。
【追記1】4台車式タンクカーのNゲージ・モデルについて、arxさんにいただいたコメントの情報を頼りにMR誌を当たると、1970年12月号の裏表紙裏、アトラス社の広告に発見しました。定価4ドルです。製品紹介は同年9月号p12で、GATC製60,000ガロン、両端梁間94'6"だから同一。
また、Galverton Island Museumというところにも、同じ4台車のタンクカーが保存されています。こちらはUTCの1963年製で、89フィート、50,000ガロンです。2011-09-06
【追記2】4台車式タンカーがHOゲージで販売されているのを発見しました。大物キットで知られたConcept Modelsです。50ドル弱というのですけれど、自前で適当なパイプが入手できるなら、そちらの方が遥かに楽に出来上がる、というようなブツではないかと‥‥(笑)2011-12-04
【追記3】dda40x氏がわざわざセントルイスに行かれ、撮ってきてくださいました。「続々々 St. Louisの鉄道博物館2012-04-29」。撮影日は2012年3月11日で、超広角レンズを使った。塗装は塗り立ての様にきれいだったとのことです。
Google Mapで空から覗くとタンクカーは真っ白だったのですが、レタッチしたら錆が浮いているのが判ります。塗り替えもムベナルカナです。2012-03-25
【追記4】2011年9月24、25日に開催された第20回鉄道模型大集合in大阪、通称2011関西合運の鉄道模型同好会「どうりん」の線路にホエールベリータンクカーが留め置きされていました。間違いなくアトラスHO製品ですね。2011-09-26
【追記5】アサーンからあったプレオーダーの案内に拠れば、LPGタンカーはその後、33.9Kガロンが製造されています。1992年以降と、1997年以降ですから、これらがホエールベリィ・タンクカーの後継ということなのでしょう。なお積み荷はLPGの他に、アンモニア, ブタジエン、イソプレン、ガソリンとあります。2011-11-11
【追記6】アトラスNスケールの4台車タンク車が、MR誌2019年1月号p26で語られていました。97フィート長は空前絶後。なぜなら1970年代にFRAが貨車の最大長は89フィートと定めたのだそうです。2019-02-03
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コメント
Nゲージの4台車式タンク車でアトラス製品は、これですね。
大抵のNゲージ製品ならここの中央、model railroadingのページにあるencyclopediaにリストアップされています。
>>これは凄いサイトです。それにしても70年代初頭に、こんな“お化け”を製品化するとは!【ワークスK】
投稿: arx | 2011/09/06 21:34
> 「プレグナント」の意味に、私は無頓着だったのですが、
乗り物では飛行機に "Pregnant Guppy" と言われる有名な輸送機がありますし、日本でもちょっと腹部が豊富になった中年男性に「子供でもできたん?」とか言うのと同じ感覚で、使う用法だと思います。
しかし、Guppy の方が Whale より大きい気がする ;-)
>>ホントだ! グッピーは 127フィート(38m)もあるんですね【ワークスK】
投稿: 稲葉 清高 | 2011/09/13 13:35