台車探求:ナショナル・タイプB台車
A pursuit of the truck construction, the National B-1 trucks manufactured by the National Malleable and Steel Casting Company
もう4か月も前になりますが、Brass_solder氏が購入されたばかりのケーディー社の新製品を披露されたことがありました。
バネが上下2段に分かれていて丸穴付きという、ビジュアル的に魅力いっぱいの、アメリカ型貨車用では異色のナショナルB-1台車です。【画像はクリックで拡大します】
ただこのスタイルは、HOゲージでは既にプロト2000やベスレヘム・カー・ワークスから、Nゲージでもマイクロ・トレインズから売り出され、さらにOゲージではコーズ&カンパニーが予告していました(右写真: この製品については、northerns484氏のブログを参照)。
まあ、実物技術者向けのCar Builders' Cyclopedia 1940年版に図面と写真が4頁にもわたって掲載され、資料が単に潤沢にあるからだろうとは思っていたものの、これだけ製品が出てくるとなると、実物でも活躍していたのだと認識せざるを得ません。
今回、アメリカ型鉄道模型大辞典で貨車用台車の各項目を埋めたついでに、この台車の構造の謎解きにチャレンジをしてみました。
まず同書から、メーカーであるNational Malleable and Steel Casting社による画像を見繕ってお見せします。
図面は50トン用で、組立図にはブレーキ関係が省かれています。
特徴的な側梁(サイド・フレームside frame)の写真2枚は共に内側から見たところです。
次図下部のDD断面は、上方が内側で、こちらから枕梁が差し込まれます。
枕梁(ボルスターbolster)のサイドビューでは、肉抜きが目立ちます。
次はその下面で、上段バネが装着されていて、下段バネ用のボスが飛び出しています。
次の図で、上段バネ座の中央に孔があって、組立図ではここにロッドが通っています。さらに上の写真と見比べると、組立時の単なるバネ保持具とも解釈できます。
これらを見てくると、コイルバネは片側で、上段に2つ、下段に2つがあり、それらは直列ではなくて、並列に作用するということ、すなわち枕梁から側梁への垂直荷重の伝わり方が判ります。
ただ問題は、レール方向と、枕木方向の力です。
普通の台車に見られるスリ板構造が無いのです。
素直に考えれば、上段のバネ座(被せ)と、下段のボスで枕梁を案内して、その“倒れ”を防止しつつレール方向へ力を伝え、また上段バネ座を側梁の開口部から覗かせることによって、枕木方向のストッパーとするという構造ですけれど‥‥。
枕梁が側梁に内側から差し込まれる部分は、側梁の開口部が9"とあるものの、枕梁の凸部には寸法が記載されていません。枕木方向のストッパーとなってもよさそうな部位相互にも寸法は無しです。
そして、枕梁側にある下段バネ座としてのボスは径が4・1/2"で、それが入り込む側梁の穴径は4・3/4"です。差は1/4"≒6㎜で、隙間は3㎜ほどです。ただし、この穴、工作機械でどうやって穿つのでしょうか。たぶん、鋳放しの手仕上げです。
ここしかありませんが、ボスと孔が摩耗したら溶接で肉盛りをして、また手仕上げですか。
コイルバネの横剛性を利用した、というのは東急のTS301ではあるまいし、無理です。
こういう分けの判らない台車をモデルで1両か2両を保有するくらいならマダシも、1日数百マイルを走る百両とか千両の実物を維持するのは‥‥(笑)
さて、Brass solder氏から、PRRのB-1台車付で判明した最も古いものは1936年製のホッパーとご教示いただいて、徹底的に探してみると、DVD版Trains誌70年分の中に見つけました。83年7月号のJohn H. Armstrong氏執筆"The Hardware that supports, guides, and cushions freight cars... without a nut, bolt, ore rivet... at a bargain price -Three Piece Truck, part 1"という記事の一節です。
1935年にナショナル・キャスティング社が始めたタイプBは、枕梁と側梁とをインターロッキングinterrocking構造として、スプリング・プランク・レスspring-plank-lessとした。
などと記載されていて、またサイクロペディアに「タイプBの開発目的の第一は軽量化」とありますから、辻褄が完全に合っています。
スプリング・プランクという部品は、枕梁の直下、旅客車用の揺れ枕式台車でいったら下揺れ枕に相当します。左はアンドリュース台車のモデル組立図で、ここのチャンネル状のものです。
1台車当たり150-170㎏程度のはずで、これを省ければ十分に軽量化となります。
実は、この省略こそが当時の一大技術革新だったわけで、Trains誌が言及している理由は正にここです。私が教科書としていた小坂狷二著「客貨車工学」1948年刊に、「バネ床無しボギー枠」として効能が解説してありますので、またいずれ‥‥。
結局、タイプBのインターロッキングは、保守性に疑問が残ってしまいました。サイクロペディアで私の手持ちの次の版は、13年も後の1953年版で、同じメーカーの台車としてはC-1という一般的なタイプが掲載されているのみです。
【追記1】書き忘れましたが、資料を引用した台車を「50トン用」としたのは、ジャーナル寸法が「5・1/2"×10"」と記されているためで、これに関しては「100トン・ハイキューブ・ボックスカーの掟」という記事をご覧ください。2012-01-18
【追記2】NゲージャーのSpookshowのHPに情報があった。
B-1の初期バージョンは上辺の形がARAの"type Y"に似ていて、1930年代後半以降はAARダブルトラス型に似ている。両バージョンは部品の互換性が無いことや部品の供給が滞ったことから1960年代中頃から廃棄する鉄道も出た。1960年代末にはAARが相互直通運用を禁止した。なお、PRRはコイルバネと板バネを併用するクラス2D-F13を採用した。AC&Yは、1947年頃にローラーベアリング付70トン台車をホッパー車に投入した。
ナショナル社は1946年頃にBタイプに代えてC-1台車を開発し、これはASF社のA-3やバーバー社のS-2と共にスベリ軸受からローラー軸受の時代まで普及した。
出典が示されていないので話半分……。2018-03-26
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コメント
枕梁の下段バネ座は、側枠の下段バネ穴の側面だけでなく上段バネ本体の側面にも当たるようになっていませんか?
肝心な部分の寸法が見当たらないので計算はできませんが、摩耗箇所は分散するように考える方が自然のような気がします。
>>早速のコメントをありがとうございます。たぶん、そうだと思います。問題は摺動エレメントですね。【ワークスK】
投稿: YUUNO | 2012/01/17 13:21
枕バネ部分に何か複雑な機構が組み込まれているのかと思っておりましたら目から鱗でした。
模型でよくあるようにプランクレスのトラックはサイドフレームが傾きやすいのでは?と思っておりました。
この台車は上の枕木方向に2本並べたバネでバランスを取り、サイドフレームが傾かないようにしているのでしょうね。
素人考えではスプリングプランクが有る方が安定するような気がするのですが・・・
ありがとうございました、勉強になりました。
>>仰せのとおり、模型でも実物でもスプリング・プランクは有用です。ですからタイプBが現れるまで、誰も無くそうなどとは考えなかったんですね。また、無くすために十分な工夫が施されているわけです。【ワークスK】
投稿: Brass_solder | 2012/01/17 17:38