ダブルスリップのあれこれ
Miscellaneous affairs about double and single slip switches
とれいん誌の近着2月号に松本浩一氏がダブルスリップとシングルスリップについて書かれていて、興味深く拝見しました。特に関西の京阪中書島と阪神尼崎の写真には感激です。上は後者で、昨年11月27日の撮影です。
で、「京浜急行は、かなりダブルスリップを好むよう」というフレーズを読んで、一つ思い付きました。
レールの太さが同じなら、軌間が1,067㎜よりも1,435㎜と広い方がスリップは作り易いのではないかという仮説です。この記事の8枚の写真の内、JRは1枚だけで、あとは京急、京王、阪神、京阪という具合なのです。【画像はクリックで拡大します】
アメリカやヨーロッパで多用されているにもかかわらず、土地の制約が多いはずの我が国鉄、JRでは極端に少ないというのですから、強度的とか、摩耗に対する保守性とか、何かあります。 まあ、これについては分岐器メーカーの技術屋に確認しないと答えが出ない話ですけれど‥‥。
それはそれとして、実物の図面を引用しました。MR誌を出しているKalmbach出版の"The Modelrailroader Cyclopedia, sixth edition"p155です。ポイントマシンの動作についての以前の議論は模型だったのですけれど、今回は実物です。
次は、判り易いように横方向だけ半分に縮めています。
左右片側4本ずつのトング・レールを見てください。赤と青で示した一対ずつが、共にスリップする側のポジションを取っていることが判ります。
図で示す赤のルートと、青のルートは、それぞれ同時に成立しています。ただし、両方を一度に走らせたら衝突です。
ということは逆もまた真なりで、それぞれ逆の直進の側のポジションを取らせれば、交差する2つのルートが構成されます。この関係は、ダブル・クロスオーバー(=シーサス=両渡り線)と全く一緒です。
ただし問題はクロス部で、この図は#6ということで可動轍叉(てっさ、movable-point frog)となっていますから、これでどちらかの直線(交差)ルートが決まってしまいます。
リンクとクランクで遠隔操作する昔の方式ですね。上手く判読できないものの、トングレールを操作する系統と、クロスを操作する系統が別々になっているはずです。
一方、クロス部が模型と同じ固定轍叉では、ポイントマシンは1つが可能ということです。
片側2本2組のトングレールを別々に動かせる、大きなOゲージ以上なら実現できるはずで、レールの密着もよくなります。
それともう一つ話題を提供すると、同記事が「アウトサイド・スリップ」と呼んでいるタイプについてです。例えば次の京阪中書島の様に、ダイヤモンド(=4本のレールで構成された菱形)の外にトングレールがあるタイプです。阪神尼崎も一緒です。
これについて、Carsten出版の"Traction Handbook for Model Railroaders"は、「スリップではない」と断言しています。
「オーバーラップした交差と分岐器だ」てな調子ですね。
交差角度が急だったり、曲線半径が大きいと、こういうことになります。
さらに90度になれば路面電車です。
まあ、どこかに境界があることは当然として、阪神や京阪のものぐらいは、趣味的にスリップと呼んでもいいのではないかと思います。なにせ我が国では希少なのですから‥‥。
ダブルスリップのポイントマシン、その魅力、思い出という3篇もお読みいただければ幸いです。
【追記】思い立って手持ちのCD本を開いてみました。文字が多くて、画像も我々に馴染みの無い保守用品ばかりだったので、ほとんど見ることのなかった"Maintenance of Way Cyclopedia - 1921"です。
少し根気を出してメクっていくと、p172に月並みなテキストがあって、それに付帯して全体図が示されていました。この図、MRサイクロペディアと全く同じです。
せっかくですから引用しておきます。図はコアの部分だけを切抜きました。是非、"Throwing Device"の解明をお願いいたします。
なお、工場の写真は、メーカーであるペティボーン・マリケン社Pettibone Mulliken Co.の広告頁p773に掲出されているものです。1880年にシカゴで創業し、生産品はカーボン・レール、マンガン鋼製のフロッグ、スイッチ、クロッシングで、ガードレール、スイッチ・スタンド、テーパーレール、レール矯正器とあります。
ネットを検索したら、スイッチ・スタンドを販売しているこんなサイト(引用画像はレタッチ済)をヒットしました。
SLIP SWITCH
A slip switch is a combination of one or two pairs of turnouts and a crossing, each pair of turnouts having a common curved lead and stock rail. The end frogs of the crossing serve as frogs for the turnouts, while the middle frogs are usually movable point frogs, because at acute angles there is not room for wing rails and guard rails and the movable point frog is less liable to cause derailments than a rigid frog.
A slip switch may be single or double, depending on whether access is afforded from either track to the other in one or in both directions. A single slip switch affords a connection across one obtuse angle of the crossing while a double slip switch provides access across both obtuse angles. The end and center switch rails may be operated by means of separate switch stands or from one stand opposite the center, pipe-connected to the end switch rails. Unless interlocked, the latter arrangement is preferable, as it saves time and is more convenient. The number of the slip switch is that of the crossing frogs. The slip switch is a space-saving arrangement used where there is not room for ordinary turnouts, as in tracks crossing a number of parallel yard tracks diagonally.
次はp703で、単なるバーナーの広告です。2012-01-25
【追記2】woodcrestさんのコメントでは、レーテッシュバーンでは普通に用いられている印象‥‥とのことで、この手の本を放り込んでいる段ボール箱を引っ張り出してきました。しかし残念ながら、どの写真も肝心のアングルを外しています。ネット上でも駄目です。
ただ、Henning Wall著"Albula"1984年刊に、線路配置図がありました。次は、Thusisで、それらしい雰囲気です。他にもSamedanやSt. Moritzの構内にも存在していそうです。
レールのグレードは如何ほどかと、当たった手持ち資料はちょっと古くて、イギリスで刊行の"World Railways 1952-53"です。
それによれば、RhBの標準は、50.9 & 60.7 lb. (25.2 & 30.1 kg/m)です。同じ本で日本国鉄は、60, 75 & 100 lb. (29.8, 37.2 & 49.6 kg/m)となっていました。随分と違うものですね。2012-01-26
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コメント
ひさしぶりに線路の話題ですね ;-)
> レールの太さが同じなら、軌間が1,067㎜よりも1,435㎜と広い方がスリップは作り易いのではないかという仮説です。
これはその通りです。そして、軌間が広いほど (同じ最小 R であれば) ポイントとしての番数 (ヨーロッパ式に角度で考えても一緒) は小さくできます。(より遠くまで行ってからフログに当たるから)
そして、レールも日本で多用されるような、FB (Flat Bottom) レールより、イギリスで多用されていた Bull Head レール (双頭と似ていますが、あくまで上下があるレール) の方が底が狭いので作りやすくなります。
> アメリカやヨーロッパで多用されているにもかかわらず、土地の制約が多いはずの我が国鉄、
これはどうでしょうか?
欧米でも、駅のあたりは所謂「旧市街」であることが多く、周りは石造のビルばかりですから、土地の制約は大きいように見えます。ロンドンのターミナル駅あたりを見ると、良くもまあこんなところに押し込んだな、と思える駅が多いです。(最近出ていた、ベニス、というかその対岸の駅もそうですよね)
> 「スリップではない」と断言しています。
アウトサイド「スリップ」は、イギリス式の鉄道工学の本ではスリップに入れますが、たしかにアメリカ式では入れないようですね。ワークス K 様の引用された記事をはじめて見た時に「へー、アメリカではスリップじゃないんだ」と思った記憶があります。
>>国により、時代によって様々で、一概に括れるものでは無いのですね。ネットの時代ですから、謙虚に情報を拾わなければいけません。イギリスにも行ける機会が何度かあったのですが‥‥【ワークスK】
投稿: 稲葉 清高 | 2012/01/24 14:52
JR東は特にダブルスリップが気に入らないようで、大規模な線路改修をする度に普通のポイントの組み合わせに交換してしまってます。中書島のシングルスリップは、、、これはその昔にTMS誌に河田耕一氏だったか坂本衛氏だったかの記事で紹介されていて一度見に行きたいと思うようになって大雑把に45年、念願かなってようやく撮影に行ってきたので、阪神尼崎のモノと併せて記事に使いました。正確に言うと、記事にするのが目的で中書島まで往復してきたようなモノですけど(笑)、あの記事の趣旨を考えると、尼崎と中書島の写真がセットで揃わなければ記事を書く順序を変えてでも、、、と思ってました。中野富士見町の東京メトロの車庫にはダブルスリップが4連発になっているモノがあって、これもかなり壮観です。
>>東京メトロの4連続はホント、凄いですね。貴サイトの画像は迫力満点です。とれいん誌にどうしてこの写真を使わなかったのかと‥‥。中書島については当方の過去記事をご覧ください。【ワークスK】
投稿: 松本哲堂/松本浩一 | 2012/01/24 15:32
阪急河原町駅はシングルスリップからダブルスリップに変更された珍しい例ですね。
キャラ絵で描きますが、うまくアップできるかな?
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同時着発ができたのですが、2号線の7連対応化のため、片渡りが取り払われてダブルスリップになりました。
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ここの写真撮影はなかなか困難と思われますが、探したら撮っている方がおられるんですね。
1067mmのダブルスリップは以前に吹田機関区のものを紹介したと思いますが、本線系では見かけませんね。神戸電鉄くらいならあるかも・・・?
>>知りませんでした。阪急河原町は正に本線上で、通過頻度は高そうです。リンクを張っておきました。googleも!【ワークスK】
投稿: ヤマ | 2012/01/24 22:21
1067mmゲージのダブルスリップは、、、浜川崎の写真は一応は本線に使われています。以前は新宿駅の南口、甲州街道の陸橋の斜め下辺りの山手線・中央緩行線の出入りする辺りにありましたが線路の付け替えの際に消滅しました。上野駅の鶯谷寄りで常磐線の特急の留置場所になっている辺りには現在でも残っている筈です。東京メトロのダブルスリップ4連発は、、、ゲラ刷りが届いてから思い出したので後の祭でした(泣)。ゲージが広い方がダブルスリップを作りやすいと言うのは、正にその通りだと思います。もう一つ、インターアーバン的な鉄道にはゲージが広い場合が多くて、併用軌道を前提として線路を敷設すると周囲の地形に合わせて配線を決めて行かなければならないので、結果的にダブルスリップの比率が高くなるのではないかと思います。
>>それでは、と手持ちのトラム系の書物も探したのですが、無いですね。保線系で一つ見つけたのですけれど‥‥。本文に追記しておきました。【ワークスK】
投稿: 松本哲堂/松本浩一 | 2012/01/25 08:49
こんにちは。
複雑な分岐器が織り成す線路の表情は、鉄道好きの琴線に強く触れる情景の一つだと思います。
確かに軌間が広いほど複雑な分岐器が作り易いというのは理解できるところですし、
実際に日本では1067mmゲージのダブルスリップなどが少ないというのも実感できるように思えます。
ただ、欧州の狭軌鉄道、例えばRhBなど日本のJR在来線より狭い1000mmゲージながら、
Chur等主要駅や比較的小さな分岐駅でも、ダブルスリップやシングルスリップがわりと普通に用いられている印象があります。
ゲージの問題も勿論ですが、各々の国の技術的な好み?みたいなものが反映されたりはしていないのでしょうか?
>>そうです! ベモBEMOが12度のダブルスリップを売っていました。では、当方の蔵書で‥‥っと、結果は本文に追記しておきました。
なお、仰せの通り、技術的な好み=保線関係の陣容が大きく関わっていて、国情により、また時代的にも変化していくものなんでしょうね。【ワークスK】
投稿: woodcrest | 2012/01/25 23:27
そういえば、「シカゴのユニオンステーションの写真とかないかな」と思って、ちょっと捜してみました。
今はなき、Model Railroading の 2002/2 pp.40 からの "The Passenger Train Oriented Layout" という記事のタイトルの写真がそうですね。TrainLifeで読めます。
アメリカのユニオンステーションってこういう風に柳線が複線になっているのが多いのですけど、何が理由なんでしょうね? 機関車の退避のためかな?
>>シカゴは確かにスリップだらけですね。当方でも「ダブルスリップの魅力」で紹介させていただきました。なお、この斜めに渡る複線は、吉江一雄著「停車場の配線を診断する」を読んでみると、同時に複数の進路を構成するため、というふうに解釈できると思います。【ワークスK】
投稿: 稲葉 清高 | 2012/01/26 12:16
ヤマさんが、阪急の京都側の終点を取り上げてくれましたが、神戸側の終点であった三宮駅 (当時は正確には「神戸」駅) には、ひたすら説明に困るポイントがありました。
簡単に言えば、シザースのホーム寄りの二つのポイントをシングルスリップに変えた物、なのですが写真か図を使わないと、どう「変」かが判り難いと思います。(で、写真を探したのですけど、見当たらないですねぇ...)
神戸高速との接続の時かその後の 10 連化の時に消え去ってしまったように思います。
>>うぅむ。探す手立てが‥‥【ワークスK】
投稿: 稲葉 清高 | 2012/01/26 12:45
RhBを引き合いに出しておきながら、写真も無く失礼しました。数年前に乗る機会があったのですが、面白いものがあるとは思いつつ、分岐器の写真は撮っていません。
そこで、いろいろ検索してみましたが、確かにネット上にはここで期待するような写真は少ないようです。検索の仕方を改善すればもっと見つかるかも?
Landquartだそうです。なかなかの連続ぶりです。
これもLandquartです。この駅は車両工場があるところですね。
「ダボス会議」のDavosにも。
RhBではダブルスリップはそれほど特別な存在ではないようです。で、何だかBEMOの模型が欲しくなってきました(笑
>>こりゃ凄いですね。ベモの製品が12度ということは5番弱ですか。スペース的に楽かも‥‥。リンクは訂正しておきました【ワークスK】
投稿: woodcrest | 2012/01/27 00:57
三宮駅ってこんなんでしたかいな?
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Yポイントのシングルスリップのようなものがあったと記憶しますが、キャラ絵では表現が無理です。ここは駅ビルの中なので写真に撮っている人は少ないでしょう。でも、駅構内から撮られた写真がどこかに載っていた記憶もあるので、これから本棚を探します。ネット上では・・・どんなキーワードで探すんですか?
投稿: ヤマ | 2012/01/28 12:21
三宮のキャラ絵は思い切り崩れましたね。m<_o_>m
本を探しましたら出てきました。鉄道ピクトリアル1978年5月増刊号348号阪急電鉄特集号36ページです。
何とネットにもありました。
ちなみに、阪急 三宮 ポイント でさがしました。撮影年月が書かれてないのが残念です。写っている電車は非冷房3000系のようです。
>>これは美しい写真ですね。HTMLというか、ここはキャラ絵表現が難しいです。写真に合わせて少し弄っておきました。【ワークスK】
投稿: ヤマ | 2012/01/28 14:40
お久しぶりです。
「阪急三宮ポイント」画像こんなところにありましたか・・・なんと私のオトモダチでした
。
省スペースで出来るだけ同時進出入が可能になる配線ですね。
昭和30年代の阪急梅田駅宝塚線と神戸線のポイントも同じ配置でしたよ。
5連位まではこの配置で持ち堪えたようですがさらなる長編成化で三宮より早く消えましたね。
>>うぅぅむ。そう伺うと、是非とも画像が‥‥【ワークスK】
投稿: ひかり・こだま | 2012/01/28 21:41
少々古い写真ですが、吉川速男著「カメラと機関車」に上野駅北側の線路を陸橋から見下ろす写真があります。そこにはDSが二つ写っています。10年ほど前確認しましたが、今もあるかは分かりません。
この本の現物を昔見せてもらいましたが、その後ネット上で公開されているとは思いませんでした。
上野駅構内には全部で10台くらいあったように思います。学生時代調べていました。
>>直リンクに変更させていただきました。昭和13年、1938年ですか。当時として、これは贅沢な本ですね。なお、鉄道撮影への助言のクダリがTMS誌1955年6月号p240に転載されています。【ワークスK】
投稿: dda40x | 2012/03/03 09:41
始めまして いつも楽しく拝見しております。
雑誌記事のなかに「京浜急行は、かなりダブルスリップを好むよう」と書いてあるとのことですが、以前近所におられた京浜の保線関係の方によれば、「好みで採用していると、マニアは思うかもしれないが、実際は土地のスペースがなくて“しょうがなく”使っている」とのことでした。「高速での衝撃等でポイント部分の調整は手間が掛かり、土地が有れば、ふつうの分岐で組み立てたい」と言っておられました。
>>コメントありがとうございます。その保線担当者の言葉は痛いほど良く解りますね【ワークスK】
投稿: DEHA1000 | 2012/04/09 00:25