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2012/02/07

貨車用台車の変遷 CBD 1888年版

Transition of freight car trucks appeared in the Car Builder's Dictionary 1888 by the Master Car Builders Association

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 前回は「カー・ビルダーズ・ディクショナリー」の1879年版でしたが、今回はその9年後、1888年(明治21年)版を見ていきます。ネタは、これもGoogle booksです。【画像はクリックで拡大します】

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 この版での大きな変化は、貨車用台車が、ダイヤモンドDiamondタイプと、ミサレイニアスMiscellaneous(その他諸々)タイプとに分かれたことです。菱枠台車が標準として認知されたということですね。

 まず、その菱枠台車4種類の中から、"New York, West Shore & Buffalo Railway"の標準台車です。

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 後年のものにだいぶ近い形です。バネ(照号80)はコイルの様です。

 次のボックスカーは、台車とは関係ありませんが、側引き戸を開けて、穀物grainをバラ積みするためのサシ板(グレイン・ドアgrain door)を見せています。

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 次は、Philadelphia & Reading Railroad(後のレディング鉄道)で、控棒が直線的ではない点が、他に見られない特徴です。

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 NYC&HRは1879年版とほぼ同じですけれど、「新しい標準は、板バネからコイルバネに変更」との注釈が付きます。控棒を斜め45度に捻っています。

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 PRRは1879年版と全く同じ図で、これも、板バネを中止してコイルバネspiral springとしたとの注釈付です。

 Thielsenも1879年版と同じ図で、"Standard of Several Lines. (Several modified types of this general desige exit which are not shown by drawings.)"とあります。

 そしてミサレイニアスが3種です。2種のウッド・ビームは1879年版と同じ図で、"old style; no longer built"、「古いスタイル、既に製造されていない」とのコメントが振ってあります。

 Boston & Albanyは2種があって、1種は1879年版と一緒で、もう1種が特徴的な形態です。

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 "Continuous-Frame"ですから、両方の側枠は、横梁と端梁で強固に固定されていて、当然、軸バネがあるはずです。
 サイド・ビューは2階建ての構造も異様ですけれど、トラスでいったら、これ、ハウ・トラスですよね。斜材に圧縮力が掛かるこの構成は、台車では日米を通して他に例を見ないと思います。普通は逆ハの字のプラット・トラスです。

 さて、この1888年版は、辞書部分が肝要です。
 台車Truckの項p184を拾い読みすると、

‥‥台車発明の栄誉は、John B. Jervisに帰す。彼は、デラウエア&ハドソン運河会社とイリーErie鉄道の建設時にチーフエンジニアを務めた。

 客車用台車は一般に木製だが、鉄の部分が増えつつある。
 貨車用での木材は、横梁、枕梁やスプリング・プランク以外はほとんど使われなくなり、それらも近年は急速に鉄に変わりつつある。標準的な貨車用台車は今や殆どがダイヤモンド台車である。そして、全鉄製Thielsen台車の標準設計に近くなっている。

 MCBAの1884年定期総会では、貨車用標準台車についての以下の推奨仕様を次の総会に答申するための委員会が設置された。1. 5フィートのホイールベース。2. 菱枠の形。3. チャンネル棒式横梁。4. 枕梁はスイング式か固定式か。

 枕梁をスイング式とするか固定式かの投票は、32対30でスイング式が賛成多数だった。

 次の英文が理解不能です。「貨車の相互直通についての規則では、費用対効果で台車構造は決まる」といった辺りでしょうか。
For the price allowed for trucks by the rules for interchange of traffic.

 全体の論調として、何か恣意的な思いがあるようにも感じます。この辞典の編纂者の名前を見ると、Matthias N. Forneyと、どこかで聞いたような‥‥。

重ね板バネとコイルバネ

 ところで、板バネからコイルバネへ変更した理由がわかりません。記載が見つからないのです。PRRとNYCとが期せずして変わり、図版の頁数も2対8となったのですから、何か原因があるはずです。
 ここでは、私の妄想を披露しておきましょう。

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 まずその第1は、“重量”です。
 部材は、曲げよりもネジリの方が単位体積=重量当たりの弾性エネルギー蓄積量が大きかったはずです(と、学校で習ったつもりでも自信が無い‥‥)。特にこの1880年代といえば、ベッセマー法の開発によって炭素鋼が大量に生産されるようになってきた頃です。
 強度が大きくて高品質な“スチール”の出現により、初めてコイルバネが実用的となり、貨車に使われるようになったと考えられます。

 重ね板バネは、設計や製造が容易で、錬鉄でも破断などの欠陥が出にくく、値段も安かったけれど、重量があった。それに対してコイルバネは、高度な製造設備が必要で、材質的に十分に管理しないと破損が発生する。‥‥というようなことです。

 日本の貨車用台車も、当初はアメリカに倣ってコイルバネでした。
 しかし、1920年代後半からは、板バネへ転換されて、戦後に普及したTR41まで続いたのでした。その切っ掛けはアメリカ型鉄道模型大辞典の「エリプテック・スプリング」の項に記しておきました。

 どうして日本は重ね板バネで、アメリカはコイルバネか、という疑問に対しては、“運賃制度”が原因ではないか、というのが第2の妄想です。

 我が国の運賃について、大阪鉄道管理局編纂「鉄道用語辞典」1935年刊から引用します。

運賃計算重量:鉄道運送貨物の運賃を算出するにその計算基礎となるべき重量を言い、手小荷物、貨物の品種、運送距離と共に運賃計算上須要なものである。原則として手小荷物、貨物共、その実重量に依るべきであるが、運賃計算上手小荷物においては1トンまたは1トン未満の端数を生じたるときはこれを1トンまたは1トンに切り上げ、貨物においては小口扱、宅扱は10トン毎の計算として10トン未満は10トンに切り上げ、トン扱、貸切扱は1トン未満の端数は1トンに切り上げることになっている。なお貨物において商取引上一定の荷造に限定されあるもののごときは、大体重量が一定せるため標準重量により、甲種の鉄道車両(私有貨車を含む)は自重2トンをもって1トンとし、家畜にして容器に入れざるものは鉄道にあっては使用貨車の小なる標記トン数、減トンすべきものは減トン数を控除したるトン数、航路のみにより運送する貸切扱貨物にしてその容積3立方米に付き、重量1トンに満たざるものは3立方米につき1トンとするのである。

 要は、運ぶ貨物の重量によって運賃が決まるということです。甲種回送が自重の半分というのは、便法ですね。私有貨車も同じというのは、鉄道側に不利ですから、終戦直後の国鉄が私有貨車を認めようとしなかったという話は真実味があります。

 さて、アメリカの運賃計算については、資料を持ち合わせていません。
 ただし、彼の地の特徴的な鉄道施設として、トラック・スケールがあります。「トラック」は軌道を表わす“track”です。台車や貨物自動車を指す“truck”ではありません。
 貨車1両毎の重量を測る装置で、B&Oの例でいえば、1929年に197か所、1954年に126か所に設置されていたようです。【出典:Rrailway Prototype Cyclopedia Vol.12 2005】

 あちらでは他の鉄道と相互直通で貨車が運用されますから、乗り入れて来る貨車の重量には神経質にならざるを得なかったはずです。機関車の牽引力に直接、影響するわけです。
 ですから、積み荷と自重を合わせた輪重を測り、それに距離を乗じて、請求金額が決めたと思うのです。請求は、直接的には貨車の持ち主である鉄道にされるのでしょうが、最終的には荷主へ転嫁されることとなります。

 すなわち、貨車の自重は経営的な死活問題といえます。競合する鉄道に後れを取るわけにはいかず、1トンでも0.1トンでも軽い方が望まれたはずです。
 ですから、板バネからコイルバネに急速に移行したのではないかと‥‥。
 もちろん、機関車や客車、それにカブースは自社保有ですから、重量が問題となることは無くて、板バネのままです。

 これに対いて日本では、荷主は貨車の自重には関心が無いわけです。営業サイドも考えません。台車を発注する担当者は安い方がいいし、運用する連中も折れ易いコイルバネに手を焼いていて、2軸車が全て板バネですから違和感はなかった。また、ボギー車の数自体が少なかったので、牽引上も問題となることは無かった‥‥などという推論ですね。

 まあ、バネの重量比較とか、運賃制度などを実証する必要があるものの、調べるのに困難な事柄ばかりです。何処かに記述が見つかるかもしれず、気長に構えています。

【追記2】板バネの弱点として、疲労強度を指摘できるかもしれません。貨車には、空車と積車の状態がありますから、その荷重、すなわち応力の変動範囲が大きいわけです。それに対して、機関車や客車は、それほど変化しません。ただし、テンダーは貨車と同じです。2014-05-09

【追記1】1879年版と88年版の間に84年版が存在しますが、これが見つかりません。ただし、一部がセントラル・パシフィック鉄道“仮想”博物館で公開されています。以前、当ブログの「弁慶号の連結器はミラー式?」で言及していました。2012-03-01

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コメント

どなたも書かないので...

> 次の英文が理解不能です。「貨車の相互直通についての規則では、費用対効果で台車構造は決まる」といった辺りでしょうか。
> For the price allowed for trucks by the rules for interchange of traffic.

まず、これは英「文」じゃないですね
、だって主語も動詞もないもの ;-)
まあ、それはさておきこれに良く似た文は良く見ます (というか見たくないんだけど)

For the price allowed ... by your insurance company, we ...

って奴で、自動車事故などを起こした時の補償の範囲で修理をする時に使う文です。
それからすれば、おそらく当時の ICC には台車に使えるコストが決められていて、「その範囲内で言えば」という意味ではないでしょうかね。

>>ご助言ありがとうございます。確かにこの時期、安全な連結器と空気ブレーキを義務化する法律が1893年に可決され、鉄道事業者は多大な出費を強いられつつありました。まあ、台車のスペックを各社で揃えて、混結して走る貨物列車の運転速度を向上させることは、大変に重要な課題ではあるものの、費用の捻出が‥‥という悩みは十分に考えられますね。【ワークスK】

投稿: 稲葉 清高 | 2012/02/16 01:16

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