貨車用台車の変遷 CBD 1879年版
Transition of freight car trucks appeared in the Car Builder's Dictionary 1879 by the Master Car Builders Association
アーチバー台車が発明されたのは、いつか、という疑問をずっと持ち続けているのですが、ハッキリとした答えがなかなか見つかりません。MR誌の1956年3月号p60-61に、「初期の台車はウッド・ビームに金属製ペデスタルの組み合わせが標準設計で、1860年代から70年代にかけて金属製のアーチバー台車が開発されるまで続いた」とあるくらいです。
一方近年は、古い著作権の切れた書籍がネット上に登場するようになって、中に鉄道モノも含まれるようになってきました。
その一つが、MCBA、マスター・カー・ビルダーズ・アソシエーションが編纂した、「カー・ビルダーズ・ディクショナリー」です。【画像はクリックで拡大します】
今回は、最初に出版された1879年(明治12年)版から図版を見繕って、アーチバーをはじめとした貨車用台車の構造を追ってみました。なお、公開されている本は、ミシガン大学図書館所蔵のオリジナル版に、スタンフォード大学図書館所蔵の1881年再発行版から一部を補ったものを1971年にNewton K. Gregg社が再出版して、さらにGoogleがデジタル化したものということの様です。
さて、この本に貨車用は7種類が紹介されています。その中で、アーチバー=ダイヤモンド・トラックは4つで、残り3つは軸バネ式です。軸バネ式からは前述のMR誌の記事に出てくるウッド・ビームに良く似ているCNJをまず引用します。ちなみに、図面の配置は大幅に弄っています。
全体図のページにある図版から、ウッドビームを履いていると思われる車両です。ミルクカーですから、高速仕様かも入れません。
で、残りの4つがダイヤモンド・トラックです。
まずPRRです。別にCNJのものもありますが、これとほぼ一緒です。驚くのは、板バネですね。それと木材が枕梁やバネ床に加えてブレーキ・ビームに使われています。枕梁はキングポスト式で補強されています。
“鉄”材は主に引張力が働く部材に、また木材は曲げ応力がかかる部材に使われている様です。また中空のチル車輪です。
次のNYCも板バネで、かつ、スイング・モーションです。一本余分の照号16は、補助弓棒Auxiliary Arch-barという名称です。(板バネの先を逃げるための構造でしょうか?)
外見上似た台車を履いているフラットカーです。(左手の台車のブレーキシューはどうなっているのでしょうか?)
次もスイング・モーションです。"Thielsen"はメーカー名で、この記事の冒頭、2枚目の広告がそれです。コイルバネだと思います。ネットを検索すると、モデルでナロー用のアーチバー台車をヒットしました。(発音は「ジールセン」あたりでしょうか?)
この台車付らしきボックスカーです。枕バネが外部に見えないところが一緒です。
この書籍の辞書部分で、菱枠台車Diamond-truckが説明されています。「アーチバー台車」とは呼んでいません。
ダイヤモンド形diamond-shapedの鉄製の側枠iron side-frameを持つ台車。軸箱は側枠にボルトで固定され、枠内で上下動はしない。その側枠は、2、またはそれ以上の鉄製棒で軸箱をボルトで固定し、横梁とバネ梁に結合されている。側枠の各棒はトラスの構造を採り、車体重量を車軸に伝える。
部品の名称は各図共通という力作です。照号のいくつかを辞書部分から抜き出しておきます。後年とは呼び名が異なり、上弓棒top arch barが単なるarch-bar、下弓棒bottom arch barがinverted arch-bar(逆反り弓棒!)、控棒tie barがpedestal tie-barとなっています。
[14] Arch-bar : A bent wrought-iron bar which forms the compression member of a truss of an iron side-frame of a truck.
[15] Inverted Arch-bar. A wrought-iron bar bent into somewhat the form of an inverted arch, and which forms the tension member of a truss of an iron side-frame of a truck. The ends of an inverted arch-bar rest on top of the journal-boxes and the arch-bar is on top of it.
[16] Auxiliary Arch-bar : A wrought-iron bar attached to the under side of the journal-boxes, and which forms the lower menmber of an iron truck side-frame. In some cases such arch-bars are made with transverse pieces wich extend across from one frame to the other under the transoms.
[6]Pedestal Tie-bar : An iron bar or rod bolted to the bottom of two or more pedestals on the same side of a truck or car, thus holding or tieing them together.
なお、“アーチ・バー”は客車用台車にも登場します。3軸台車のセンターベアリング=枕梁を支える部材、照号66と67です。メーカーは名にし負うプルマン社、Pullman's Palace Car Companyです。
これをみると、台車において帯材でトラスを組む手法が、この時代には既に十分にコナレていたと思われます。
[66]Center-bearing Arch-bar : The upper or compression member of a center-bearing bridge which supports the center-bearing of six-wheeled truck
[67]Center-bearing Inverted Arch-bar : The lower or tension member of a center-bearing bridge which supports the center-bearing block of a six wheeled truck
スイング・モーションといい、板バネといい、アーチバー台車について、今まで思い描いてきたイメージとは大きく懸け離れた事実に愕然とさせられますね。さらに探求を続けます。
■ところで本書の巻末広告に、とんでもないものを発見しました。
"PHOTO-ENGRAVING"とあります。これ、光学式のエッチングではないですか! "Wood Cut"は「木版画」、"circular"は「チラシ」の意ですかね。売り込もうとする先は印刷業界なのか、機械の銘板なのか、ちょっと理解できない面がありますが、エッチングであることは間違いなさそうです。
明治12年ですよ! 恐るべし舎密、化学です。dda40x氏の言われた通りですね。我々の関心は、これがモデル製品に適用された事例ですけれど、一応、日本では1950年の鉄道模型社が最初ということにしておきますが、引き続き捜してみます。
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