貨車用台車の変遷 CBD 1895年版
Transition of freight car trucks appeared in the Car Builder's Dictionary 1895 by the Master Car Builders Association
1888年版に引き続きカー・ビルダーズ・デクショナリーで貨車用台車の発達を追います。今回は7年後の1895年(明治28年)版です。
右がその革表紙で、コーネル大学図書館の蔵書です。
特筆すべきは、表紙に押されたJ.G.ブリル社寄贈という金文字のタイプです。
巻末に16頁にわたる同社製品の紹介があって、力の入れようが伝わってきます。この頃から1910年前後まで、市街電車や郊外電車を建設する大ブームが巻き起こりますので、時代の花形企業だったわけです。
虎は死して皮を留めるというか‥‥。【画像はクリックで拡大します】
前回の1888年版に拠れば、MCBAから委員会に課題が出ていましたから、その回答が気になります。まず、辞書部分を読みます。
台車Truck:
客車用台車は、ほとんどが木材を主として、鉄製の補強板flitch-platesやトラス・ロッドなどとの合成となっている。
貨車用での木材は、横梁、枕梁やスプリング・プランク以外はほとんど使われなくなり、それらも近年は急速に鉄に変わりつつある。
木材が使用される場合でも鉄や鋼によって補強されることがほとんどである。枕梁などの主要構造もチャンネルや"I"型棒鋼が使われようになってきた。
標準的な貨車用台車は今や殆どがダイヤモンド台車で、固定枕梁方式が大勢となっている。チャンネル棒鋼製の横梁を持つスイング式はThielsen鉄製台車の幾つかのモデルに残っているにすぎない。
MCBAの1893年定期総会において委員会は、スイング式か固定式かについて、車両製造業者の経験に基づく利害得失をまとめた長文の報告を行った。
「もし貴方が変更を考えているのなら、スイング式と固定式のどちらを採用しますか?」という問いへの回答は、スイング式4に対して34が固定式に賛成だった。1894年には、それが14対27で固定式が多数で、製造や保守にスイング式のような余分のコストは掛けられないという意見だった。
菱枠台車の固定軸間距離を5フィート2インチとする件は1894年、投票により548対505で否決された。
菱枠型以外の特殊型台車も多数が使用中で、また新造されている。
そのうちのひとつ、プレス鋼板製のフォックス台車Fox trucksは、9鉄道で12,500両以上と、相当な両数が装備している。
ドレクセル台車Drexel trucksはいくばくかの鉄道で1,100両に採用されている。
カンダ台車Canda trucksは、南部や南西部の幾つかの鉄道で3,000両程度が使用されている。
カブース用のスイング・モーション台車は、古いタイプの構造を踏襲したものと言え、アーチバー・トラスの形を取り入れただけの、普通のスイング・ボルスター菱枠台車とは異なる。
で、この最後に、前回も紹介した意味不明なコメントがあります。
For the price allowed for trucks by the rules for interchange of traffic.
まず、特殊型台車から見ていきます。
次は、意外な人気を博していたフォックス台車です。
これを履いた車両は、この版では次のスチーム・ショベルだけです。
ドレクセル台車は、バーバー特許だというラテラル・モーション(横動)機構を枕バネの直上に備えています。外見上は単なる板バネ付の菱枠台車ですけれど、スタンダード・カー・トラック社と名を変えた後年まで、この機構が使われ続けます。
"Northern Pacific Railroad"の文字があります。高速対応ですね。
カンダCanda台車は、スイング・モーション付ですが、私には構造が理解できません。枕梁にバネがありますが、車体から垂れ下がっている両側の部品は単なる側受にも見えます。
問題は、図の右上の"Journal-Box Swing-Link"で、これだけ眺めると、前回紹介したアライド・フル・クッション台車の様に、軸箱毎にスイングしそうです。図の説明文にも"A special swing-motion truck, the frame of which is carried in stirrups bearing upon the journal-boxes, which leaves each pair of wheels free to move laterally."とあって、その可能性が大ですが、如何せん、スキャンした図面が不鮮明です。"stirrup"は、乗馬のアブミとのことですから、まさにその形をしています。
構造を解明したい方には、原本p339に細かい部品図が付属しています。
次の家畜車は"Canda Cattle Car Company"の所有で、スイング・モーションとあるので、台車はこれでしょう。
カブース用のスイング・モーションについては、スイング・ボルスターとの違いが私には理解不能です。例えばC&NWゴンドラは、22フィート長と高速運転とは無縁のはずにもかかわらず、スイング・モーション付です。何か理由があるのでしょうか。
さて、特殊な3種類の内でもフォックスを除く2種類はアーチバー型の側枠を持ち、またノーマルなものは全てアーチバー型です。ただし、依然として板バネ付が存在しています。コイルバネでも、これが外部に出ない構造があります。
"Swift Refrigerator Line"の冷蔵車は"dressed meat"=精肉用です。
一方、枕木方向の曲げの掛かる部材は、木製から鋼製への転換が進んでいます。"I"形鋼やチャンネルが圧延設備で大量生産されるようになってきたからだと思います。
それと、ブレーキ・シューがシングルと言えど外吊だったものが、枕梁に隣接して設けられる内吊になってきました。これも鋼製化で枕梁付近に寸法的な余裕が生まれたのだと解釈できます。
外吊式は、図面に拠ればタイヤのバック面に当たる金具がキーポイントです。
Wabashの果物用通風急送車、いわゆるwatermelon carは、板バネ付です。
次の透視図はAmerican Steel Casting Company製です。"steel casting"、すなわち鋳鋼が枕梁に使われることで、構造が大幅に簡略化されています。
この絵で注目していただきたいところは、コイルバネが載っているスプリング・プランク(バネ床)です。これが左右の側枠を固定して、その平行を保っています。
次は、New York, Lake Erie & Westernのものです。枕梁は木製に見えます。
PRRのストックカーは、エアーブレーキ付を謳っています。
そう、ロレンツォ・コフィンとウエスチングハウスがバーリントンの自動ブレーキ実験に成功したのが1987年で、安全カプラーと空気ブレーキを義務化するRailroad Safety Appliance Act(鉄道安全装備法)の制定が1893年でした。
ところで、大きな丸に"F"は、何でしょうか。
Southern Pacificの36'冷蔵車です。冷蔵装置のCandas Systemに興味をお持ちでしたら、原本のfig. 283-286で究明をお願いします。
New York, Chicago & St. Louisの車掌車です。"Lookout"と呼んでいるのはキューポラですね。
このカーサイクロ・シリーズについては、全体像を「鉄道模型資料室」に示しておきます。無料でダウンロードできる版が増えているといっても、古めのものばかりですが‥‥。
【追記】写真を示したCanda Cattle Car Co.の貨車そのものと思われる図面を、MR誌1960年5月号p47に見つけました。1893年に製造され、シカゴ世界万博で展示されたとのことです。屋根上に水槽があるという風変わりな構造です。
会社は1888年の成立で、貨車のリースと販売、あるいは製造権の販売を行ったそうです。2012-07-30
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コメント
>> で、この最後に、前回も紹介した意味不明
>> のコメントがあります。
>> For the price allowed for trucks
>> by the rules for interchange of
>> traffic.
原文を見ると、ピリオドで終わっているのでは
なく、この後に:",see Interchange of Traffic and Freight cars."とありますね。
「相互乗り入れ規定により台車に許容される価格については、相互乗入及び貨車(の項目を)見よ」てな意味でしょう。もっとも、これでもprice(価格)てのが良く判らないけれど・・・。
>>MCBAという組織に鉄道事業者が加わっているかどうかが不明なのですが、筆者フォーニィ氏の立ち位置が問題だと思います。純粋に製造者だったら、高級で高価な台車が標準に採用されれば都合がよいわけで‥‥(笑;【ワークスK】
投稿: 宮 崎 繁 幹 | 2012/02/16 21:53