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2012/03/08

貨車用台車の変遷 CBD 1912年版

Transition of freight car trucks appeared in the Car Builders' Dictionary 1912 by the Master Car Builders' Association

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 この1900-10年頃のカー・ビルダーズ・ディクショナリーは3年毎に発行と賑やか、ということは鉄道事業が歴史的に最盛期を迎えていたということなのでしょう。1911年にはエレクトリック・レールウェイ・ディクショナリーElectric Railway Dictionary(2002年7月14日付記事を参照)も出ています。

 さて、1912年(明治45年)版はOpen Library所蔵です。
 この版での謎は、ベッテンドルフ台車の不振です。【画像はクリックで拡大します】

 1906年版に初登場し、09年版では実車写真も掲載されたというのに、この12年版では図面はたった1枚、それも既出のCB&Qドロップボトム・ゴンドラで、写真は初出とはいうものの冒頭のスウィフト・リーファーがただ1枚です。

 台車の単体も、既出のスイング・モーションのみです。
 “不振”といっても紙上に現れている状況のことですから、実際にどうかはわかりません。協賛金?をケチってここには登場しないだけという可能性も無きにしも非ずです。

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 そして同社の1頁大広告では、車体台枠がメインで2/3を占め、台車は下部1/3となります。

 その内容は、メンテナンス・コストが下がり、軽量化により運転コストも減るという訴えです。
 次にその部分を拡大しておきますが、千両当たりの計算がグチャグチャしていて理解不能です。

 これを見て私が思うのは逆に、アーチバーのメンテナンスは手が掛かるとはいうものの、金額的には意外と低いということです。

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 それと、この軸箱一体の側枠の鋳造が難しかったのではないか、あるいは鋳造時の欠陥が運用後に頻発したのではないかと想像します。
 例えば小坂狷二著「客貨車工学」1948年刊の「5・3・4鋳鋼製菱枠ボギー」の項に次のとおり記述されています。(一部変更)

 鋳鋼工作物は、その製作に高い鋳造技術と適当な熱処理とを要求するのみならず、設計に当たっても十分な注意を払い、肉など全体にわたって均一なるものにせねば鋳造歪(ひずみ)を生じ、亀裂を起こす恐れがある。
 使用中に亀裂を生ずれば鋳かけ溶接や、亀裂止め小穴を穿つくらいではなかなかその進行を抑えることは困難で、使いものにならなくなる。(鋳かけ溶接をするなら余熱や焼き準しをねんごろにすること)

 まあ、鋳物も大きくなればなるほど知識と経験が必要ということです。ベッテンドルフ以外に一体とした台車が出てこない理由は、特許も一因でしょうが、初期の製造技術の問題もあったはずです。

 次は、ウエスタン・スチール・カー社Western Steel Car & Foundry Companyの広告で、RIのオートモビル・ボックスカーがベッテンドルフを履いています。

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 それにひきかえ、軸箱を別とした構造は、この時代の技術にマッチしていたのではないでしょうか。
 で、この12年版にASF社のアンドリュース台車が写真で登場します。

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 パテント番号"PATD-10-6-96"と、"ANDREWS"の文字を鋳出している面が、側枠の裏側という点が不思議です。

 そして09年版と同様に、他のメーカー製が多々掲載されています。
 次はバッカイ社Buceye Steel Casting Company製のB&O向けです。

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 N&Wの57.5トン・ホッパー車用です。車体メーカーはBarney & Smith Car Companyですが、台車メーカーは不明です。

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 スカリン社Scullin-Gallagher Iron & Steel Company製です。同社は09年版で、軸箱取付をボルトに依らない構造の側枠を見せていましたが、これはアンドリュース系です。

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 ピッツバーグ社Pittsburgh Equipment Company製の側枠で、控棒の取付部が斜めです。

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 フラットカーの例です。Haskell & Barker Car Co.

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 こちらの台車は75トンと大荷重で、控棒が斜めに取り付けてあります。次にお見せするバルカン台車に似ていますが、軸箱の外側にボルトが見えます。AC&F

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 MoPac向けAC&F製40トン・ストックカーで、この控棒も斜めです。魚腹型中梁です。

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 次は、3年前の09年版において、可動式コラムなどという手の込んだ台車を見せてくれたマッコンウェイ社McConway & Torley Co.のBuhoup台車です。フレキシブルを謳っていますが、効能は理解できません。

 なお、この時代に同社には"Harry C. Buhoup"なる技術者が在籍していた様なので、名称はこの人物名に因むものの可能性大です。(連結器のUPパテント・ページ

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 ところで、アンドリュースの特許を持っているはずのASF社は、広告ではバルカン台車Vulcan truckを掲出しています。ただし、この12年版ではそのブランド名称を使っていません。
 これ、"ANDREWS"と謳っていますが、明らかにバルカンです。軸箱の取付方法がボルト・ナットではなくて、ペデスタルに単に差し込むだけの構造で、軸箱自体もアーチバー用とは異なります。

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 このバルカン台車付と思われる自動車運搬用ボックスカーはAC&F製です。軸箱の外側にボルトがあるかどうかは微妙でしょうか。

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 イリー向け40トンボックスカーもAC&F製です。

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 さて、アーチバー台車にも動きがありました。
 規格が改訂されたのです。辞書部分に拠れば、次の通りです。

Arch Bars, Column and Journal Box Bolts (M. C. B. Standard)
 40トン積み車用は1897年に推奨仕様、1901年に標準規格となった後、1907年に改訂が行われた。その改訂の内容は、軸間距離を4インチ増加させて5フィート6インチに‥‥、控棒の端部処理はリップを省略、そして旧来の組立ボルトのダブル・ナットをシングル・ナットおよび回り止め、またはコッター取付に変更である。
 また、1909年には50トン積み車用が標準規格化された。

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 新規格による台車を装備したAC&F製ボックスカーです。

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 次はアーチバーの変種で、サマーズ・バランスド・サイド・ベアリング台車Summers Balanced Side Bearing Truckです。

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 標準規格変更に記載されていたボルト・ナットの弛み止めの例が、広告にありました。折り曲げ座金というのでしょうか。作用は一目瞭然です。

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 枕バネにダンペナー=振動減衰器を設けた構造は、重ね板バネ以外では初です。McCord & Company

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 なんとアーチバー台車にモーターを装荷した電動貨車の図がありました。バージニアン鉄道の石炭埠頭で運用する60トン積みコンベアー・ホッパー・カーというので、何かが電動となっているのでしょうか。
 なお、電車用のアーチバー台車の例は、前述のエレクトリック・レールウェイ・ディクショナリー1911年版に、モーター付と無しがそれぞれ一つずつあります。

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 フォックス台車は40トン積み車用スイング・モーション式です。実車例は、通常のタイプを含めて掲載されていません。

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 次は、スタンダード・カー・トラック社Standard Car Truck Company製で、バーバー・サイド・ベアリング台車Barber Side Bearing truckを名乗っています。
 これは次の16年版にも出てきますから、そちらで言及します。

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 同社の広告は、例によって無味乾燥です。この中で、"Barber-Devoy"という名の機関車用従台車が興味を惹きますね。

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