シャルフェンベルク連結器のもろもろ
Transcribing foreign words into Japanese is very difficult, "Scharfenberg," "Helix," "Ortner" and etc.
トラパシ鉄道模型掲示板で5か月前にお伝えしたように、ホーンビィ/リバロッシがHOゲージの新製品としてシャルフェンベルク・カプラーを発売しました。
その詳細が今月発売の“とれいん”誌2012年9月号で解説されています。p78、前里孝さんの"COFFEE CUP"です。【画像をクリックすると、然るべきサイトへ別窓でジャンプ、あるいは拡大します】
連結と解放が自動式の意味も、実物のメーカーであるフォイト・ターボ社のサイトも書いてあって、感激です。
このサイトを改めて訪問してみると、3年前に探し出したときから、大幅にリニューアルされていて驚きました。以前は単に製品を並べただけだったものが、素人にも判り易く丁寧になっています。
報道用に提供されているという製品写真を使って、解放レバーが赤い鋼線の枠と説明されているのも納得です。パンフレット(pdfファイル1.13M)も、動作説明ページにも言及されています。中で"SCHAKU"が、この連結器の商品名だというところは、「さもありなん」です。
もちろんサイトには、独語の他に英語が用意されています。さらにブラジル用ポルトガル語?と、中国語が追加されているのは、売り込みを図っているのでしょう。
カプラーの作用を読み進むと、以前に紹介した小坂狷二著「客貨車工学」下巻(1950年発行)p622の説明のとおりですね。
一応、再掲しておきます。
ドイツ国有鉄道はScharfenberg(シャルフェンベルヒ)会社のものを用いている。‥‥連結に当たっては図[A]に見るごとくリンク1の先は相手方の円板に支(つか)えるため、円板2は図に矢印で示すごとくに回転せしめられ、リンクは相手方の円板の切り込みaにはまり込む。しかるときに円板は、戻しバネ3によって図[B]の位置に引き戻され連結が完了する。
解放の場合には図[C]に破線で示した取手4を回し、円板2を解放位置に回転せしめる。新式のものは上部の取手4の代わりに図[C]5に示すごとく側面に解放テコを出し、車側からこのテコを操作して解放を行うようになっている。図[C]の6は制動空気管の連結口。
要は、2本のリンク1(coupling link)が2枚の円板2(hooked plate)に互いに引っ掛かり、バランスしていて、戻しバネ3(tension spring)で動きを固定しているだけ‥‥という単純なものということです。
私の思い込みは、引張(牽引)に関わる6個もあるピンのガタは、合わさったら決して小さくないはずだし、摩耗部分もあるから、日鋼式密着自動連結器や廻り子式密着連結器の様に、“くさび”作用で増締を行う機構を持つはずだ、というところだったのですけれど、そういうものは無いのですね。考えすぎでした。摩耗を大幅に減らす処理はしてあるようです。
この連結器についての当ブログ記事は次の3篇です。
249 | 08/01/19 | 欧州のシャルフェンベルク密着連結器 |
384 | 09/09/01 | 大阪で見た!シャルフェンベルク連結器 |
486 | 10/12/31 | ソルトレークのライトレール(2) |
なお、この"COFFEE CUP"で気になるのは、“シャーフェンベルク”と呼ばれている点です。
どうもネイティブ・スピーカーに確認された節がありますから、ことによるとフォイト・ターボ社々員の発音に因むのかもしれません。
ドイツは北と南とでは言語が異なるというし、周辺諸国と陸続きですから我が国以上に多くの方言が存在することでしょう。東西に分かれていたこともありました。
もちろんこの連結器は、ヨーロッパ各国をはじめ、アメリカのいくつかの都市やドバイなど、世界中で採用されていて、それぞれの言語で呼ばれているわけです。
■ところで、新製品紹介ページでは二つのNゲージに注目しました。
一つはp105、コスミックの“スパイラルブリッジ”です。とうとう我が国にもマルチデッキ・レイアウトの時代が到来したか、という感慨が湧いてきますね。(写真は同誌より引用)
実はこれ、彼の国では“ヘリックスhelix”と記されている線形です。
アメリカ型鉄道模型大辞典にも書いたとおり、蚊取り線香の様に半径が徐々に大きくなるものがスパイラルspiralで、普通のコイルバネやネジ山の様に曲線半径が一定のものがヘリックスという定義が本来なのだそうです。
ただし、誤用の慣例化も多く、またヘリックスなどという単語は日本では耳慣れないという事情がありますから、メーカーの命名もムベナルカナです。
もう一つ、注目したのはp101、マイクロトレインズのNゲージ“43ftオルトナー無蓋ホッパー”です。
これ、"Ortner"のことですよね。(写真は、The Car and Locomotive Cyclopedia 1984年版より)
私は“オートナー”だとばかり思っていました。このRapid Discharge Aggregate Car、コンクリート用砕石運搬車は、HOゲージでは2000年々末からウォルサーズ社が発売しています。
慌ててweblio辞典を引くと言わずもがなの正解で、「オルトナー(人名)」と出ていました。もちろん、直ぐに大辞典へ追加しておきました。
このWeblio辞典は、人名や地名まで入っていて、本当に便利です。信頼感があるのは、例えば"Athearn"を、“アサーン”としてくれている点です。現地音では「エイサーン」とか「エアサン」との報告があるにもかかわらず、こうしているのは、既に行われている表記を踏まえているからなのでしょう。
一方で"Pennsylvania"を、NHKのアナウンサーは“ペンシルベニア”というけれど、趣味界は“ペンシルバニア”です。
"Lake Erie"を、ウィキペディアは“エリー湖”と書くけれど、モデラーは“イリー湖”‥‥これは“とれいん”誌の影響でしょうか。そういえば、"train"は昔、“トレーン”でしたよね。ソニーはその名で売ろうとしていたのですから‥‥(トラパシ鉄道模型掲示板を参照)
外国語を正確にカタカナで表現するなんてことは、どだい、無理なことですし、皆がみな、外国人の知り合いを持っているわけではありません。私は、多くの方が使っている言い方に倣うというか、大勢に従うという方針ですね。
読んで下さる方々に、理解する上での不要な負担を強いることは避けたいという思い‥‥というか、まあ、ネット検索に引っ掛けたい、という下心でしょうか(笑)
でも、このところのGoogleは利口過ぎます。
“原信太朗”でも、“原新太郎”でも、はたまた“はらしんたろう”でも、どれもあの横浜に鉄道模型博物館を開設した原信太郎(はら・のぶたろう)氏をヒットするのです。(内容は当ブログの紹介記事を参照)
昔は文章をしたためるとなると、辞書はもとより、新聞用語の指針とか、日本語の地図帳などと首っ引きだったのですがね。
現在、Googleで検索できる“シャルフェンベルク”連結器は122件で、“シャーフェンベルク”連結器は、たった7件、それも“とれいん”誌関連で6件ですけれど、まだまだ人口に膾炙していない単語ですから、逆転する可能性は大アリです。シャーフェンベルク連結器
【追記】さらに検索すると、“シャーヘンベルグ”連結器が1件、“シャーフェンベルグ”連結器が2件でした。いずれも取扱い商社であるところが意味深です。“シャーヘンベルク”は4件で、特許関係でしょうか。2012-08-28シャーヘンベルグ連結器シャーフェンベルグ連結器シャーヘンベルク連結器
【追記2】"COFFEE CUP"に記されていた、もう一つの欧州の連結器メーカー"+GF+"について、調べるのを忘れていました。スイス製だというのですけれど、初耳かつ尋常ならざる表記ですから、中々思うような情報にたどり着けません。
特に、メーカーは、Georg Fischerという会社(大阪市浪速区 ジョージフィッシャー株式会社)をヒットするものの、その製品一覧にカプラーが無いのです。ただし、1888年、スイスで最初に鋳鋼製品を製造したとありますから、可能性は大です。
写真だけで判断すれば、Wikimediaに連結器が3種類ラインナップされていて、GFVが標準軌の電車気動車用、GFNが狭軌用、GFTがトラム路面電車用ということでよいのでしょうか。
次の写真はGFVの様で、確かに"+GF+"の文字が浮き彫りになっています。その上に"Sécheron"です。
MGB、RhBなどのメーターゲージはGFNですね。
次はバーゼルのトラムでGFTということでしょう。
動作が外観からでは全く分かりません。
前述の"Sécheron"で検索すると、セシュロンSAASという鉄道車両機器を扱っている会社をヒットしたのですけれど、フランジ塗油器が出ているのに連結器は無しということで、これは電気接点の方のメーカーですね。
ああぁ疲れました。門外漢にヨーロッパは伏魔殿です(笑)2012-08-23
【追記3】northerns484さんよりGF=Georg Fischer社サイトの解説ページをご教示いただきました。「1990年(代?)、主力事業に集中するため、そうでない鉄道技術ビジネスなどは分離、あるいは売却」とあります。カプラーは片手間だったんですね。
これを基にwoodcrestさんにお示しいただいたSchwab Verkehrstechnik社のWikipedia独語版を自動翻訳の力を借りて読み解いてみると‥‥
1912年 GF社の交通技術部門として設立
1914年 最初のカプラーを開発。
1965年 半自動GFカプラーを開発して市場へ投入。
1973年 バッファーとトラム用(?)カプラーを商品化。
1998年 Schwab持株会社が、GF社の交通技術事業を引き継ぎ。
2000年 全自動Schwabカプラーを開発。
2005年 シャルフェンベルク式とのコンパチブル・カプラーを開発。
‥‥といった案配でしょうか。だいぶ辻褄が合ってきました。2012-09-02
【追記4】2015年11月に千葉幕張メッセで開催された“第4回 鉄道技術展”に、この密着連結器が展示されていたと、“モデラーな日々”で前里孝氏が伝えておられました。で、カタカナ表記は“シャルフェンベルク”だった由。2015-11-16
| 固定リンク
「老年の主張 戯言」カテゴリの記事
- MR誌とTrains誌の身売りに思うこと(2024.05.11)
- アメリカ型HOの現在過去未来(2021.01.01)
- アイデアを募集することの危うさ(2019.09.16)
- PFM社ドン・ドリュー回顧録を読んで(3)(2018.06.15)
- PFM社ドン・ドリュー回顧録を読んで(1)(2018.05.26)
「魅惑の欧亜豪」カテゴリの記事
- イタリア旅行の個人的記録(2012.01.12)
- スリランカの鉄道博物館と模型と(2015.06.22)
- イスタンブールの路面電車(2014.11.03)
- ダブルスリップを求めてRhB、MOB、そして京阪◆さうざぁ氏(2012.11.16)
コメント
連結器にもいろいろあるんですね。かなり興味深いです。
>>ようこそ! 種類もそうですが、構造や歴史にも奥深いものがあります。当方のブログで紹介していますので、是非たどってみてください。リストを設えています。【ワークスK】
投稿: 吉沢@外国語 | 2012/08/21 21:53
日本人からするといかにも異国情緒が漂うこれらのカプラー達に興味が尽きませんね。
スイス製の方ですが、作っている会社はココではないでしょうか?
部門ごとの売却や社名の変更等あったらしいのですが…(ちょっと自信ないです。ごめんなさい)
模型ではBEMOもこの類をイメージした密連をHOm用に作っていますが、形が似てないのと、開放がやり辛かったりでイマイチな印象があります。
>>おおっ! 確かに! Schwab Verkehrstechnikという社名ですね。"Scharfenberg"も手掛けているのでしょうか? ビデオが過激? Wikipedia独語版では従業員は40人とか?【ワークスK】
投稿: woodcrest | 2012/08/23 02:35
+GF+社についてですが、ドイツ語で画像検索をしてみたら、鉄道車両を紹介したページがたくさんヒットしました。
ざっと見た感じ、やはりスイスでの採用例が多いようです。
この中にヒントはありますでしょうか?
>>なるほど‥‥。メーターゲージとトラム用は一先ずおいて、問題は標準軌用です。ここにも構造が判るサイトが見つかりませんね。その中で、これは別物でしょうか?【ワークスK】
投稿: YUUNO | 2012/08/30 19:02
トラム用GFTの動作ですが、自動化された朝顔カプラーではないでしょうか?
赤く塗られたレバーは解放テコで、枕木と平行な軸によって回転し、ピンを持ち上げます。
丸穴の開いた「舌」を上から見ると、連結面を中心に点対称になっていて、お互いに相手の朝顔の中心に入り込み、奥まで入ったところでピンを下げ、舌先の穴に通します。
並型自動連結器の錠と同じようにこの連結器のピンも上がった状態で固定されるようになっていて、朝顔の穴の奥の機構を舌が押すとピンが落ちる仕掛けになっているのではないでしょうか?
>>考えられましたね。自連のロック機構は、開錠状態の保持と錠の落下が肝要ですが、トラムのような軽い車用なら確かに簡易なものが採用可能かもしれません。
ヨーロッパに行かれた方は是非、その操作風景を見てきていただきたいものです。それと、構造の判る図面が欲しいですね【ワークスK】
投稿: YUUNO | 2012/09/12 07:49