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2012/12/24

京阪電車模型用図面の事始め

The beginning to draw plans of Keihan Electric Railway's rolling stocks for modelers

20002a

 とれいん誌2013年1月号は、もう、お手に取られただろうか。
 なんと京阪大特集で、今話題の13000系や、消えゆく2600系、8030系が事細かに紹介され、図面も満載、模型作品もたくさん披露されている。
 当方も僅かだが協力させていただいたので、この仕上がりは大変にうれしい。

 ただ、ちょいと残念なのは、過去に多くの図面が発表されているのに、それをご存じない執筆者がおられる点だ。

 実をいうと、現役時代には機会のある毎にモデラー向けとして出版物へ提供していたのだ。【画像はクリックで拡大】

ミニ・ヒストリー 京阪電車・車両70年

Keihan79 きっかけは今から32年前の1980年。京阪の開業70年にさかのぼる。
 私は車両部における社内報の編集委員をしていた。その縁で、広報課の山本亙(わたる)氏から記念事業の相談を持ちかけられた。そこですぐさま、図面集を出版したらと応えた。

 着想はもちろん鉄道模型趣味、機芸出版社の「日本の車両スタイルブック」で、体裁をA4横開きとして、縮尺はモデラー向けに1/80に統一したもの。
 基本的な構想は、1/50の形式図を利用し、実物と懸け離れているものはメーカーの青焼き図面からトレースする。ただし、これではモデラーを満足させられないので、スタイルブックに掲載されていない10型式ほどを実物図面から描き起こして、それを目玉にしようという考え。
 また、土木部の湊谷恒雄氏がファンの立場でいくつかを描かれていて、それも提供してもらうこととした。
 仕事の方は幸い、ちょうど2600系昇圧工事の設計作業が終わって手すきだった。上司には職場全体で取り組むことを了承してもらった。

 ところが、作業がだいぶ進んだ段階で、横ヤリが入った。「ミニ・ヒストリー」という副題が加えられて、駅を含めた歴史を紹介するという方向へと全体構成が大幅に変わってしまったのだ。
 当初は予定していなかった資料を大幅に要求されて、不細工な図面も出さざるを得なかった。B4横開きというのは、扱いの上で受け入れ難かったし、それにも増して、出来上がってきた印刷のお粗末さには心底、腹が立った。“車両70年”と謳っているところに、当初の意図が残っている。また表紙の意匠は、山本氏の拘りだ。
 それでも当時、詳細図面というものがTMS誌でも絶えていた頃で、800円という定価も含めて、干天に慈雨というか、モデラーには大歓迎で迎えられたようだった。

 掲載図面の中から、実物資料を基に描いたものを列挙しておく。

・100型(ポール時代、ブリル27E-1改:宮崎)
・3010号(後の113号、レール運搬車、1/100:宮崎)
600型(旧1550型、ポール時代:澤村)
700型(旧1580型、パンタ時代:宮崎)
・800型(1965年頃:宮崎)
・1500型(2代目、登場時:宮崎)
・1300型(3扉化後:宮崎)
・1800型(1801号、KS-6:宮崎)
・2000型(2次車、KS63C:澤村)
・1900型(1931号、KS70 :宮崎)
・5600型(4次車、FS399A:栗生)
・500型(大津線:栗生)

京阪500型図面
【この図の屋根上が現車と異なるというご指摘で思い出した。これ、屋根上はMc1車。それ以外にもあちこち新宮琢哉氏に御教示いただいて、とれいん誌2014年7月号に改定版を提供させていただいた】

 末尾の苗字は、描画してもらった宮崎文夫氏と澤村達也氏のことである。特に宮崎氏の仕事の早さには舌を巻いて、次々とお願いしてしまった。私は‥‥職場で一人、大津線500型の改造工事で忙しかったから‥‥ということにしておこう。
 なお創業時の1号型は、澤村氏が機芸出版社刊「私鉄電車プロファイル」や写真を参考に描いたものである。1800と1900は、とれいん誌2000年10月号でも使われている。

 湊谷氏が実車観察から作成されたものは、びわこ号60型(廃止直前)、2200系(Mc)、2400系(Tc1)、3000系1次車(Mc、M、Tc)、80型(ポール)である。びわこ号は、とれいん誌1991年6月号にも掲載された。

 一方、「日本の車両スタイルブック」に含まれていて詳細図作成を控えた分は、16号貴賓車、1000型流線型、1815号両運車、2000系1次車の4型式である。
 これら以外には、1952年版の"TMS Style Book"に1700型がある。

Tms_style_book_1952

京阪1700系図面

 ところで「車両70年」は、9年後の1989年頃だったか、事務所の片隅に死蔵されている50冊ほどの束を見つけた。それを工場見学会か何かの折に定価800円のままで発売したら、あっという間に捌けたことがあった。

鉄道模型趣味1983年5月号の6000系

 1983年に登場した6000系は、1500V昇圧という大プロジェクト完成の象徴だったといえる。1971年の3000系以来、久しぶりの完全新造、新型式車ということでも、会社として力が入っていて、鉄道友の会のローレル賞を獲得しようという意気込みは凄かった。
 そんな中で、広報課の安達肇氏を焚き付けたら、パンフレットを作る予算を取ってもらえて、そこにファンが喜ぶ詳細図面を載せることになった。それで、宮崎氏にお願いして3型式(Mc1、M2、T)を描いてもらった。
 このパンフレットは、鉄道友の会を通じてその会員に配布された。

京阪6000形1次車

 さらに雑誌に掲載してもらおうと、TMSの中尾豊氏にお願いしたら、快く引き受けていただけた。寝屋川に図面を受け取りに来られた折に、上司の奥田行男氏と知己であることを知った。確認を怠っているが、スタイルブックの原資料は奥田氏から渡ったものなのだろうか。

Tms198305

 というわけで、同誌の5月号に6頁にわたって掲載された。B5版の誌面に18mの車両が上手い具合に入った。床下の反対側(山側)は後から描いてもらったものなので、影の表現がチグハグとなっている。原画は1/30で、普通の製版機では入り切らなかったと伺った。鉄道ファン編集部からこの図面の提供を求められて怪訝に思ったが、TMS誌の写真が鉄道ファン誌撮影となっていて、納得した。
 当時は、新車の登場と同時に詳細図面が公表されるなどということは有り得ないことだった。ブラスキットが3社から発売されたのには驚いた。

その後は

 とれいん誌に、1989年9月号の8000系をはじめとして現在に至るまで、数々の図面が登場しているのは皆さんよく御存じのとおりである。
 8000系は同誌の前里孝氏の手になり、新車パンフレットに使わせてもらうという条件で、資料を提供できた。このパンフレットは、2010年に鉄道会社から出版された「細密イラストで見る京阪電車 車両の100年」の付録として復刻されている。
 図面は、公表されたもの以外にも、7000系と1000系を描いてもらった。いずれ出てくるものと思う。

Img874 また、鉄道趣味書の出版社、レイルロードには、1927年版と1934年版の車両型式図表を提供していて、「京阪車輌竣功図集(戦前編)」として1989年に刊行されている。これも大変に貴重な資料である。

 というわけで、こと京阪に関して、モデラーは恵まれているはず。作る際は、少し注意して図面を探してほしい。もし駄目だったら、ここにコメントを戴ければ、ご助言を差し上げられるかもしれない。

【追記1】宮崎氏よりメールをいただいた。
 13000系は、メーカーの情報保護等の観点から資料を十分に提供してもらえず、車体関係は新3000系(同誌2008年11月号掲載)から類推し、艤装関係は撮影した写真が頼りだった。また、作図はAutoCADだから縮尺は設定していない。「車両70年」は墨入れだったという。
 そう、宮崎、澤村両氏がカラス口で、私はロットリングを使った。それは描線の切れにも如実に表れている。
 なお大津線500型は、例の連結器ナックルの嵩上げ(「オートキャリアーにはシェルフ・カプラー」を参照)を描いていなかったり、寸法の入れ忘れがあって、恥ずかしい限りである‥‥と、せっかくの機会なので修正しておいた。2012-12-24

【追記2】藤井雅之さんからメールを頂戴した。昔は京阪の村野駅付近にお住まいで、お会いしたこともあったのだが、今は東京の高円寺とのことだ。2013-02-08

 ウン十年来、疑問だったことがあります。それは、17m級の1700-1800と、18m級となった1810の前面の違いについてです。
 1810は、「1800の車体を窓一つ分、延長したもの」という記述をよく見かけます。すなわち、窓が増えた他に異なる点は無い、ということのはずです。

 しかし、子どもの頃、明らかに別物に見えたのです。それで、70周年記念の際に配布された、車両のお面がズラリと並んだ下敷きを、ためつすがめつ、眺めていたものでした。当初は、ヘッドライトの違いや、スカート【1900旧の昇圧改造車】の有無か、と思っていたのですが、どうもそうではないのです。
 具体的にいうと、1700-1800は、背が低く、ペタンとしている印象なのに対して、1810は、すらっとして面長なのです。何が違うんだろうと長年、思案をしていて今回、車体断面を数字的に確認してみました。
 しかし、1810は1800と一緒で、1700と僅かな差があるのですね。

・レール面~車体下端が14mm高い。(=1,046-1,032)
・雨樋~屋根上面が2mm高い。(=402-400)【雨樋は"R仕舞い"です】
・車体下端~床上面が14mm薄い。(=208-194)

 つまりは、足が長く、胴体が短いということになるのでしょう。ただ、1800と1810の異なる印象は、依然不明のままです。やはりヘッドライトや下回りになってしまうのか。で、疑問継続です。
 実物が消えて久しい今となっては、推測の域を出ません。それこそ、両者が並んだ写真があればいいのですが。
 一方、阪急の京都線と神宝線とでは車体幅に50mmの差があります。さすがに、5センチも違えば別物です。

 なお、70周年図面集の京阪線600系などの図に、ホームを表した描込みがありました。高さ1,067mmと面白い数字です。
 京阪電車マニアにとっては必携本の同図面集にも関わっておられたのですね。今更ながら、不思議な御縁を感じます。
 因みに1300は、私の母と生年が一緒で、落成から35年で廃車になりました。あと少しでこの図面集は、1300の寿命を超えてしまうわけですけれど、いまだに見入っていて、まさに、神髄ここにあり、ですね。長文、失礼いたしました。藤井 雅之

【追記3】大津線については、とれいん誌に次の特集が組まれ、モデラー向けにディテールが解説された。また、1/80の詳細図が掲載されている。

・2014年 7月号:500型(栗生)
・2014年 9月号:600型(宮崎:1次車原型、4次車昇圧後)
・2014年11月号:700型(宮崎:701-702の600V時代、709-710の2012年頃)

 また、鉄道ピクトリアル誌1979年8月号に500型新造当時の竣功図と台車3面図が載っている。2014-10-31

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コメント

とれいん誌読みました。卵型車体断面が国鉄のあの種の車輛と云々、と言う辺りは非常に興味深かったです。最初は記事タイトルだけ読んで「えっ」と思っていたのですが、本文中に予想した通りのお名前を発見したので「やっぱり」と納得したような次第です。

>>コメント、ありがとうございます。2000-2600系については過去にも鉄道ファンと鉄道ピクトリアルに詳細な記事が掲載されましたので、「また」と伺った時には耳を疑いました。それで、ファンの皆さんが興味を惹きそうなエピソードを提供したのです。交野線や宇治線にお住いだと、『もの心ついた時から電車といえばこれ』という方もおられるでしょうね。【ワークスK】

投稿: 松本哲堂@風雅松本亭 | 2012/12/24 16:51

こんばんは。
初めて訪問させていただきます。
ハンドルネーム「台覧坊」と申します。

私は京阪石坂線沿線に自宅があり、通勤こそ自転車ですが、普段の外出には欠かせぬ足として、石坂線には世話になりっぱなしです。
また、子供の頃は京都市内におりましたので、琵琶湖方面に遊びに来るときには、いつも京阪を利用していました。

実は私、鉄道模型を趣味としていまして、過去から現役に至るまで、自分が乗った、あるいは見たことのある車両を、16番のスケールで模型を作りたく、いろいろと資料を探しております。
ところが、私の探し方が悪いのかもしれませんが、なかなか良い資料にめぐり合うことができません。

大まかな寸法を記した図面は、いろいろなところで目にするのですが、窓や扉の位置関係や左右、天地の寸法を記した図面には、出会ったことがありません。

今回、この記事に掲載しておられます500形の図面で、初めて窓や扉の寸法を確認させていただくことができました。
本当にありがとうございます。

ところで、記事掲載の、レイルロード社刊の「竣工図戦前編」は購入できたのですが、260形以降最新の800系まで、京津線の車両群の図面について、探し出すことができずにおります。
形式図集のような、模型作りの参考とできるような、何かよい物はありませんでしょうか。
もしご存知でしたら、ご教授いただければ幸いです。

>>大津線が御趣味とは御同慶の至りです。2010年片野正巳著「細密イラストで見る京阪電車 車両の100年」は御存じという前提でお話しすると、800系は、とれいん誌1997年2月号に詳細図面があります。他は形式図や竣工図表のレベルで、1990年レイルロード刊「京阪車輌竣功図集(戦後編~S40)」、1976年電気車研究会刊「日本民営鉄道車両形式図集」の確か下編、1978年刊誠文堂新光社「私鉄電車ガイドブック6 京阪・阪急」、1967年刊誠文堂新光社「私鉄ガイドブックシリーズ5 阪急・京阪・阪神」といったところで、古いものでも結構流通しています。
 ここに示した500型は280番代の改造ですから、他型式でも参考になるはずです。また1/80のモデルは、ホビーメイト・オカから出ていたブラスに定評があります。【ワークスK】

投稿: 台覧坊 | 2012/12/28 19:35

ご返信ありがとうございます。
いろいろと出ているんですね。

500の図面で、350あたりまではそのまま大丈夫と思いますので、見つけた時にはホントに嬉しかったのです。
後は、600や700の運転台周りが課題と思っていました。

模型は、オカの製品は122は入手できました。
他にはスタジオHOのペーパーキットをいくつか入手しましたが、いっそ自分で型紙を起こそうかと思い、図面を探しておりました。
教えていただいた物を、探してみたいと思います。

ありがとうございました。
今後とも、よろしくお願いします。

>>大津線は1両1両も面白いのですが、沿線やダイヤ、また時代を加味すると、格別な世界が展開できます。御成果を期待しております。【ワークスK】

投稿: 台覧坊 | 2012/12/31 01:32

はじめまして!通りがかりの者です。70年記念の図面集持ってます
クローゼット整理していたら、出てきました。もう痛みすぎて大変です。

うちの親戚が京阪本社勤めしていたんで、うちの家は京阪グッズがたくさんあります。

>>コメントをありがとうございます。これをお持ちとは、嬉しいですね。他の品々と一緒に大切に保存されることを願っています【ワークスK】

投稿: しんちゃ | 2013/03/24 20:55

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