ボストンの近畿車輌製LRV◆澤村達也氏
The HO scale model of Boston MBTA(Massachusetts Bay Transportation Authority) Green Line No.7 SRC, and a memory of the tramway
ご縁があって頒布会に混ぜていただいたモデルが届きました。
近畿車輌が1986年にアメリカへ初めて輸出したボストンの2車体連接式路面電車で、それからちょうど25周年ということで、同社文化体育会工作班というグループが企画されたHOスケールの展示模型です。
この実物については20年前、故澤村達也氏に乗車記を寄せていただいたことがありました。職場の同好者と共に発行していた「はと通信」の第10号、1993年5月のことです。【画像はクリックで拡大します】
ボストンのグリーンライン -澤村達也
1991年7月18日早朝、一行はニューヨークを発ってボストンへ向かう。
アメリカでは350km程度の距離でも鉄道ではなくて飛行機を使う。空港は国内便用のニューアークで、日本から到着したJFKではない。そのため、 バスに乗ってハドソン川をトンネルでくぐり、ニュージャージー州に入った。ちょうど、朝の通勤ラッシュで、ハイウェイの対向車線には車の列が果てしなく続いている。
日本から初めて着いて3日間、時差や緊張も手伝ったのだろうけれど、これが随分長い時間に感じられたのが不思議だった。その割に、あまりあちこち行けなかったことに気が付いて突然、後悔する。
こわごわ一人で乗った地下鉄で、ハーレム方向からやってきたQ系統は昔、川崎重工で造っていたステンレス製だった。57st.で5系統に乗り換えようとしたが出口から出てしまい、電車賃の1.15ドルを損してしまった。それにワールド・トレードセンターのツインビル屋上(106!)階から見た、夕刻迫るマンハッタンの圧倒的な眺望。有名なジャズ・クラブ、ヴィレッジ・ヴァンガードでのひととき‥‥。
と、ハイウェイの傍らにレールが迫ってくる。その向こうには操車場があって、貨車や客車が見える。結構規模が大きくて、鉄道橋らしい構造物も遥かに望める。鉄路について全く予習してこずにシマッタと反省していると、バスを追いかけて列車が走ってきた。出入り口を車端と中央に配したステンレス製電車である。
我々のバスはラッシュと逆方向で高速で走っているのに、それを追い越して行ってしまった。
ボストンに到着すると、迎えのバスで市内巡りの後、ホテルに入った。ボストンコモンという公園のそばで、グリーン・ラインGreen LineのアーリントンArlington駅が目の前である。
旅立つ前に「ボストンなら是非、路面電車を」と、ある人から言われたこともあって、事前に目を付けて調べていた路線だ。
夕方までのフリータイムに追いかけることにした。
この古い街には地下鉄が4路線もある。ニューヨークではサブウェイと呼ぶが、ここではティー“T”だ。路線名は色で表わされていて、その内のグリーン・ラインは、地下鉄とはいうものの、トラムカーが市の中心部だけ地下を走るシステムである。
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市西部の交通を受け持っており、途中で4方向に分岐している。運賃は75セントで、ニューヨークよりも安い。ただし、郊外へ行くと50セント余分に取られる。
地下区間から乗車するときは、出札窓口で75セントを払ってトークンを受け取り、ターンバー・スタイルの改札機に投入してラッチ内へ入る。市の中心方向行はインバウンドINBOUNDで、郊外方向行はアウトバウンドOUTBOUNDと構内表示されているので、地名をよく知らなくても運転方向は判る。
ホームは相対式で、ほとんど高さが無く、路面電車をそのまま地下に下ろした構造である。右側通行と日本とは逆のため、カンが狂う。
待つほどもなくやってきた電車は2車体連接の低床車だが、車体幅が大きくていかにもアメリカの電車という感じ。塗色はグリーンと白のツートンカラーで、古い街並みに良くマッチしている。架線はトロリー線1本を絶縁金具でトンネルの天井から吊るしてある簡単なものだ。
1台を見送って次の電車を待つが、インバウンド方向はどんどん来るのにこちら側は来ない。やっと来た電車は満員に近い状態だったが何とか乗り込むことができる。日本人の癖で?急いで乗り込もうとするが、アメリカ人は急きも焦りもせず悠々と(ノロノロと)していて、なかなか発車できない。
昼間は単行だが朝夕のラッシュ時には連結して走っている。ワンマン運転なので、地上の停留所では乗り込むときに運賃を払う。したがって連結した場合は、後ろのユニットの運転台にも係員が乗っている。
浮世絵コレクションで世界的に有名なボストン美術館へは、アーリントンからこのグリーンラインのE系統に乗り、ミュージアムMuseum駅で降りる。アーリントンの次のコプレーCopley駅で本線と分岐するが、地下線の平面交差を、信号らしきものも無くバタバタと渡っていくのは、大丈夫かいなと少し心配になる。
2つ手前の駅を過ぎたところで地上に出た。路面とはいっても道路の中央部に軌道が敷かれているので、車に邪魔されるのは交差点のところだけ。他は専用軌道同然であり軽快に走ることができる。
感心するのは、まず加速の良さ。体感だが4km/h/sはあったと思う。次に乗り心地の良さ。そして加速から減速、また加速と、連続して滑らかに運転モードが変化することである。おそらくチョッパ制御なのだろう。いくら複巻電動機を使用しても抵抗制御ではこうはゆかない。
現有車両は2車体の連接車に統一されている様であったが、これは3400-3500番代と、3600番代の2種類がある。前者はボーイング社製で、昔、川重で見学したフィラデルフィア向けのトラムカーと大変よく似た前面一枚ガラスである。連結部の処理など、細部の造りが近代的で好ましい。
一方、3600番代はといえば、田舎っぽいスタイルで前面窓を真ん中で折った2枚窓。車番からするとこちらが新しいのだろうが、この変わり様はどうしたのかと不思議に思う。しかし、こちらの方が何となくアメリカ風ではある。で、この“田舎電車”は近車製だ。
日本を発つ前に得た情報によると、ボーイング製は故障がちで近車製が主として運用されているとのことであったが、その通りで、やってくる電車のほとんどは近車製である。
夕方なので入館するつもりは無かったがミュージアム駅で下車してみる。美術館は電車通り沿いにあり、すぐにそれと判った。公園以外では土の地面の見えなかったニューヨークと較べ、ボストンは緑が多い街並みで、のんびりした感じ。電停の周囲をうろついて、美術館をバックに電車の撮影をしようとするが、帰宅ラッシュの車に邪魔されて撮影意欲をなくし、反対方向の電車を待った。
次の日の午後、再度グリーンラインに乗る。今日はたっぷり時間があるので一番長いリバーサイド線へ行くこととした。
電車はいつの間にか道路を外れて専用軌道に入っている。線路の両側は素晴らしい木立で、その中を時速60㎞ほどで快走する。このとき初めて、なるほどグリーンラインだなと思った。
軌道がしっかりしていることもあって素晴らしい乗り心地だ。およそ1kmおきに停留所があり、その都度道路がどこからともなく摺り寄ってくる。
しばらく走るうちに線路の右手に車庫らしきものが見え、ポイントを渡って、本線から外れたホームに電車が止まった。
乗務員が「この電車はここまでなので降りろ」といっている様で、20人ほどの乗客全員が降りた。駅名標によればリザーバーReservoir(貯水池の意)で、終点のリバーサイドまでのほぼ中間点。ほとんどの電車は終点まで行くようであるが、たまたま乗ったのが入庫だったのだ。本来なら後続に乗り継ぐところだが、車庫の中にボーイング製とおぼしき車両の大群と、グリーン一色のワーキングカーらしきものが目に入ってしまったので、ここを通り過ぎるわけにはいかない。
リザーバー駅進入中のリバーサイド行D系統、近車製3600型。左手奥が車庫の留置線 1991-07-19
ホームには乗務員の待機所があって、2、3人がその中に入っている。女性もいる。
カメラを持った東洋人がキョロキョロしているので、これは助けてやらなあかんと思ったかどうか知らないが、その中の一人が話しかけてきた。そこで、車庫の中に入って写真が撮りたいと頼んだら、「OK! そこの階段を下りて中に入れ」とのこと。
"I alone OK?"、"Sure! But, be careful."、"Thank you !"てなわけで、階段を下りると、鉄扉があり、カギは掛かっていない。
手前に留置線が1、2本あってその向こう側はピットの建屋。ピットの出口のところで赤ら顔のおじさんが何かのフィルターらしきものに水を吹き付けて洗っている。黙って通り過ぎるのもどうかと思い、同じように断ってから留置線へ向かう。
ボーイング社製は多数が車庫に休んでいた。 1991-07-19
バラストカー2626号。縦配列のヘッドランプと尾灯が面白い。後方はピット。 1991-07-19
ワーキングカーの1両は無蓋貨車2626号。台車はクラシックなアーチバースタイルで、両端に運転台があり、集電器はトロリーポール! 面白いのは、短い運転台の屋根にポールを取り付けていることで、ポールが大きくオーバーハングしていてコード(紐)が垂れ下がっている。
前面1枚窓でヘッドランプ2灯とレトリバーが中央に一列に並んで、ユーモラスな顔つきである。窓下の白帯に"SIDE DUMP"と書いてあるところをみるとバラスト運搬車なのだろうか。運転台に上るステップが赤に塗られていてオシャレである。
架線車4366号。Zパンタとポールの両方を装備。車側面中央に黄色いリボンが! 1991-07-19
別の1両は、両先頭部に異なるデッキを持った架線車4366号で、こちらは比較的新しいようだ。長い方のデッキには黄色の作業用リフターが取り付けられ、台車は一般客車と同じインサイドベアラー。屋根中央部にこれまた客車と同じZパンタで、片端だけポールが付いている。側面の白帯には"WIRE CAR"と"GREEN LINE POWER DEPARTMENT"の表記がみえる。
それから、側面中央には黄色いリボン。イラン・イラク戦争に派遣された兵士の無事を祈って描かれたのであろうか。一瞬、ああここはアメリカなのだと息をのむ。
車庫を出て、先ほど電車が着いた引込線の奥に進んでみる。ここは無人駅なので、周りの道路へは自由に行ける。線路は舗装されていて緩くカーブしながら続いている。
と、急に視野が開け、大きな事務所と車庫への入口に辿り着く。そればかりか、分岐したはずのB、C系統の方向幕を表示した電車が入庫してくるのにビックリ。
改めて地図を見て納得する。C系統の終点クリーブランド・サークルCleveland Circleは車庫を挟んでリザーバーの反対側であり、その先数百メートルのところをB系統が走っていて、併用軌道の引き込み線がある。車庫の入り口は完全な併用軌道で道幅も広い。さっきの入り口は、裏口だったのだ。
現行のGoogle Map。1991年頃とは変わっているかも‥‥。
しばらく辺りをウロウロした後、C系統の電車で美術館に寄って帰ることにした。今夜は個人宅訪問の予定だし、明朝はナイアガラへ向けて出発するので、名残惜しいけれどグリーンラインとはこれで別れた。
この冊子は梅田のマッハ模型が置いてくださったので、お持ちいただいている方がおられるかもしれません。表紙を宮崎文夫氏作の京阪びわこ号が飾るとともに、マキシマム・トラクション台車のブリル社パンフレット(当ブログへ転載済)や、京津電気軌道1型の詳細図面が載って、路面電車尽くしの号でした。
残念ながらこの号で終わってしまったものの、パソコンを駆使して当時のアマチュアとしては高度な内容だったと自負しています。
印刷はコピーや簡易印刷でしたから、モノクロ写真の再現はここに示した程度です。カラーは、執筆者自身に提供されたサービス判のプリントを貼り付けたものでした。
なお文章は、ブログ用に若干の手直しをさせていただいています。
モデルの方は、すごい出来映えです。頒布価格は予告通り、送料込みで1万4千円だったにもかかわらず、収納する紙箱や展示するアクリル・ケースも立派です。
ただ、当方の掲示板でも披露した事前の案内では「走行モデルへの改造も可能」との触れ込みだったのですけれど、室内装置や屋根上の連結ジャンパー周りを見たら、私の腕でこれを維持しながらは無理と直ぐに悟りました。
モデルの写真をもう少しコレクションのサイトにアップしておきます。
MBTAについてはウィキペディア日本語版に項目が立っています。
詳しくは、アメリカの旅客輸送を深く探求されているSotaro Yukawa氏のサイトに「ボストン地下鉄年代記」があり、2004年の記録だというブログ"Cedarの今昔写真日記"に、この電車が高架線を走る様子や近車の銘板が写っています。また、横尾矗(ただし)さんという方のサイトにはボストン・マラソン参加のついで?に撮影された1999年と2002年の賑わい振りが紹介されています。古い時代の写真はDave's Electric Railroadsです。
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コメント
2年前撮影のサイド・ダンプカー2626のサイドビューです。
>>おおっ! 博物館入りしていたのですね。ステップが赤でないのはオリジナル塗装に戻されたとか、そういうことでしょうか。ポールの向きも内側で‥‥【ワークスK】
投稿: railtruck | 2013/01/17 07:07
今回は拙ヘタレブログにコメントありがとうございました。
こちらには実は何度もお邪魔しておりますので、今更コメントでもありませんが、今後も何卒よろしくお願いします。
>>コメントありがとうございます。人気のある貴ブログは恐れ多くて、いつもは当方の掲示板などから、遠巻きに茶々を入れさせていただく程度でした。これからも楽しい話題をお願いいたします。【ワークスK】
投稿: Cedar | 2013/02/27 10:51