フカヒレ・イコライザーの改良試作(2)
次の写真は、古くからのモデラーにはお馴染みの構造です。台車を保持するのに、車体側の枕梁と、台車のボルスターを段付きピンで連結しています。
左がカワイで、右がカツミの方式でしょうか。
私は、この枕梁について40数年前、師匠である西尾博保氏より「接触部分の幅を8mmとせよ」と教わりました。左は、鉄道模型趣味TMS誌1970年1月号p21に掲載されている図です。
もちろん、この8mmを小さくすると、車体が左右にフラフラし易くなるし、反対に大きくしていくと、レールへの追随が難しくなって脱線し易くなる、という論法です。
市販品がこの寸法で、また「経験的に会得」ということは明らかだったものの、不肖の弟子は疑いました。必ず理論的に求められるはずだと考えたのです。
煎じ詰めれば、平面に置いた直方体が左右に揺れる、という物理モデルです。単純で簡単で、かつ世の中にありふれているものだから、どこかに明解な答えがあるだろうと探しました。
ところが、無いのですね。
時計の振り子を上下逆さにした単純な倒立振子なる機構はたくさん見つかります。しかし、2点で受けるこちらが無いのです。
かのガリレオの発見になる等時性は、これにはありません。振れる幅が大きくなれば、周期は長くなるし、第一、中心に来たときに回転中心が突然、右から左、左から右と変わるという不連続な動きです。数学的には“微分可能でない”点というのでしょうか。
まず、車体は中立の位置で最も安定で、左右に揺れても、最後には中心に落ち着く。
重心の高さが低いと、落ち着き易く、それが高いと、なかなか落ち着かない。左の図で、「V」の字を描く重心の動きが、低い重心位置では深い切れ込みで、許容される振れ角度が比較的広いのに対して、高い重心位置では切れ込みが浅く、角度も狭いことが見て取れます。
重心の振れ幅が8mmよりも外側へ出てしまうと、機能しなくなる。実際には段付きビスのツバに当たって、反対側の車輪が浮き上がる恐れが出てきます。
というわけで、重心の高さが重要です。重さの大小は、相関が小さそうです。
モデルに車内灯を仕込んだり、ブラス車体の場合には重心が高くなりますから、このままではフラフラすることになります。
そのときこそ、段付きビスにコイルバネが役に立つのですね。
バネ付ならば、車体の傾きに連れてそれが圧縮され、中心に戻ろうとする復元力が強くなる、すなわち、安定性が増すという案配です。
いうなれば、前回お見せした倒立振子のように、左右から復元バネで押すというイメージです。
これ、アメリカ型などでも多用されて、月並みな方式にもかかわらず、意外と優れています。
実は40年前、エーダイのプラスチック・キットを弄ったときに、この仕組みを2軸貨車に応用しようと思い付きました。組立レイアウトをカント付としたので、車軸の可動化は避けて通れないはずだったのです。
ところが、実際に走らせてみると、軸固定でも脱線しないのですね。また、実物の業務に着いて、車輪とレールの関係を調べ始めると、こと脱線に関しては、車輪の可動非可動がそれほど大きな要因ではないと考えるようになりました。それで、着想を形にすることは無かったのです。
このことは多くの方にとって、俄かに信じられることではないはずです。いずれ稿を改めて説明させていただきます。
それを今回、思い出しました。
なにぶんにも二十歳過ぎの若造のアイデアです。長い年月が経過していますから、既にどなたかが実現されているでしょうが、一応、私の着想ということで‥‥、次回に続きます。
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コメント
これはエコノミィ式復元装置に似ていますね。
重心が上下しますから仕事をします。すなわち復元力が発生するというわけですね。
>>バネの助けを借りないでエコノミー式の様な都合の良い復元特性が得られれば良いのですが。なお、実車でも側受を空かせて心皿だけで支えると同じとなります。ただ、偏摩耗や割損を心配しなければなりません【ワークスK】
投稿: dda40x | 2013/02/26 15:12