フカヒレ・イコライザーの改良試作(4)
肝心な点は、見極めた回転軸に沿って軸受を設けることです。
車側の支点とを結ぶリンクは、回転軸方向を強調しようと、この形としました。なぜなら、回転したり、ネジリ(ヒネリ)が加わる軸中心が、全体構造からは連想しにくいという点が、このフカヒレ・イコライザーの本質を判り難くしていると思っているからです。
リンクには剛性を考慮して、1mm径のリン青銅線を用いています。ちょっと長めの片持ちとなって、モーメントが働いてしまいますから、線材の曲げ形状を工夫しています。接着剤はセメダインのスーパーXです。
車体の安定を目的とした“座”は、幅を4mmとしてみました。これが本来の支点Aで、このモデルのキーパーツです。もちろん車体中心を外して、回転軸(ネジレ軸)上に設けています。反対寄も全く一緒です。
次の写真に示したA1点またはA2点と、B点とを結ぶ線を回転軸とし、平坦部では、前回および前々回に説明した原理によって車体の傾きを安定化させようという意図です。
ちなみにこの4mmを、0mmにすると、本来の“フカヒレ”そのものということができます。
長々と、否、クドクドと前置きを並べてきたわけは、この構造をご理解いただきたい一心からでした。呆気なかったですね(笑)
次の写真は、連動リンクの結合部をご覧ください。軸孔(長孔)の精度を出すために、0.4mm径の線材をU字形に曲げて3mm角プラ棒に差し込んでいます。
次の2枚は、全体の配置関係を示します。
軸受などの位置を決めるためのケガキ線が、薄っすらと見えます。精度調整は、まずリンク(1mm径リン青銅線)の長さと角度で、最終的には車側の軸受位置(B点とB'点)で車軸の平行度を出しました。
床板の上面には、比較用と同様、弾性支持を気取った線バネを設けました。先端は回転軸上ですから、線材は車体中心線から傾いています。
床板の周囲の白色プラ材は、ホビーモデルのワム70000に装着するための調整代です。
この床板上にウエイトを載せます。
車体の左右の傾きに関しては、レール面上に載せて妻面を眺めると、次の程度です。まあ、所期の目的を達したといえるでしょうか。あとは実際に走らせてみなければなりません。特に高速走行が問題です。
左が非連動タイプのワム90000、右がフカヒレ型連動タイプのワム70000です。
ご参考までに私が使った検討図をお見せします。1mm目の方眼紙に150mmの直線定規、0.5mmのシープペンシル、ステンレス薄板製の字消し板、消しゴム、現役時代はさらに0.3mmのシャープペンシルと円定規を愛用していました。こんな道具立てで1分の1を計画していたのですから怖いですね(笑)
なお、車輪のバック面で11mm幅のところに想像線を引いている理由は内緒です。
この図を描くのに半日、作るのは接着剤の固化を含めて1日半でした。
それに対して、写真を撮って、ポンチ画を描き、ブログ記事をでっち上げるのには5日間も掛かっています。まあ、能書きを垂れたい性分にも困ったものです。
実車の寸法は、奥井淳司さんの図面を参考にさせていただきました。
ところで、“フカヒレ・イコライザー”という呼び名ですけれど、どうも引っ掛かります。「ロンビック」と違って本質を表わしていないし、今回の様に全く異なる形状のものも可能だからです。
おまけに、このイコライザーの原理を見え難くしています。それこそが当初、その呼び名の使用を避けていた理由です。
その呼び名のためなのか、私が声高に回転軸の方向が斜めであることを唱えているのに、そのように作ってくださる方が現れなかったのです。説明の下手さや信用度の問題かなあ‥‥って、ヒガんでいました(笑)
でもまあ、特徴的な名称で、一般的に通用しだしましたから、私も使わざるを得ません。
ゆうえん・こうじ氏のブログ「汽車をつくる」で、2軸のトフをフカヒレとされました。うれしいことに連結ピンの向きが斜めになっています。そして回転軸の軸受を「クッション材入りの工業用強力テープの小片とした」とされていて、メールで確認すると、軸方向に細くしているとのこと。全くもってその“柔軟さ”には驚いています。
やっと正確な特性が認知されてきた感じですね。
【追記1】フカヒレ・イコライザーで、一定の復元力を持たせようというこのアイデアは、オリジナルのプロトタイプが持つ欠陥を積極的に利用している、ともいえます。[1]フカヒレの盲点に示した図2を少し弄ってみます。
回転軸A-Bが荷重の加わるC点を外れているので、この軸に回転させる力が働いています。
B点からC点を見て、A点が右に外れていると、回転力は左向きに働きます。赤い線です。
では、A点が左に外れるとどうなるか、というと、その場合は回転力が右向きに変わります。青の線です。
また、相対する2本の回転軸(ネジレ棒)が平行でなくても良いことは、最初の記事でお伝えしている通りです。
それからもう一つ、C点は本質的に仮想です。車軸が荷重を受ける箇所ですから、車体の重量バランスがズレていれば当然、中心にはありません。それを吸収する意味も今回のアイデアには込めています。
奥が深い、というか、面白いものです。2013-02-28
【追記2】フカヒレ・イコライザーの基本構造は見え難いのが難点ということで、イキガって一連の駄文を綴ったのでした。
5編の記事は次の構成で、根本原理は最初の2編です。ポンチ画をご覧になるだけでなく、下手な説明文も我慢してお読みいただく必要はあります。が、今のところ、どなたも言及されていないことだと思います。
ボギー車での考察
このイコライザーが所謂「ロンビック」とは異なる原理であることの説明です。(本当のことを言うと、執筆当初はロンビックだという風潮が余りにも強かったので、婉曲に示唆する程度にとどめていました。それを、原案の錯誤に対する指摘と共に、折に触れて書き変えています)
[1] “フカヒレ”の盲点
回転軸が車体中心線上にあるというのは誤解で、正しくは斜めになっていること。さらに、支点の位置を工夫(正しく)すると、2軸車に最適となることの説明です。
[2] ボギー台車の安定性
2軸車を試作するにあたって若干の工夫を加えました。そのアイデアの基となったのは、普通のボギー車のモデルです。台車中心ピン回りの性質をジックリ考えます。
[3] 比較用非連動タイプのモデル
ボギー車の構造を、そのまま2軸車に適用したモデルをご覧に入れます。
[4] “フカヒレ型”連動タイプのモデル(この記事です)
さらにそれをフカヒレ・イコライザーで連動化したモデルを紹介しました。2013-02-26
【追記3】先日、ある方から、私の記事がロンビックやフカヒレのイコライザーを賞賛推奨していると伺って、ビックリしました。そうではありません。
採用したり、議論をするならば、この程度の理屈は分かった上でやってほしい、というだけのことです。モデルにはバネを付与し難いから、これらのイコライザーは便宜的に採用されているに過ぎないという立場です。そのあたりを、「イコライザーへの形而上学的アプローチ」に詳しく書いています。2013-09-10
【追記4】表題を「フカヒレ・イコライザー」へ改めました。ゆうえん・こうじ氏が書かれたTMS誌2016年1月号の解説記事に合わせるという理由です。また「フカヒレ・イコライザー最適設計法」という記事をアップしました。2015-12-27
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コメント
なるほどですねぇ、車軸側の支点はこうなっていたのですか・・・
ネジレ軸が3点支持になってるんですね。
>>うぅ~む。どこかに弾性を利かせると、常時そうなっちゃいますね【ワークスK】
投稿: Brass_solder | 2013/02/26 17:42
> なお、車輪のバック面で11mm幅のところに想像線を引いている理由は内緒です。
うーむ、「内緒」もなにも、JM のバックゲージ確保のためじゃあないんですか?
というか、私の作ってた奴はこの辺の 92% バージョンだから、縦横比が想像線の奴に近いです。合運で見せびらかしてたのは、短軸だから違いますが...
>>そうです。これで(1)【追記3】にいう、上下動が左右動に及ぼす影響を狭軌で確認しようと‥‥【ワークスK】
投稿: 稲葉 清高 | 2013/03/03 23:00
実際に走らせての状況はいかがでしたでしょうか。#88車輪がついているので、それに起因することもあるということでしたね。#110車輪では試運転されましたか。JM車輪の方がスムーズに通過していたような場面もあったりして。
いずれにしても、詳細レポート期待しています。
>>タイヤ厚とフランジ形状は難しいですね。線路の事情を絡めて整理できていればよいのですが、雑誌が知りたいところを書いてくれないので‥‥【ワークスK】
投稿: ヤマ | 2013/03/17 17:26