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2013/04/18

車輪フランジ角度の決まり方

How to select the flange angle of wheels

 一つ前の記事に付記していたのだけれど、独立させることとした。13mmゲージJMに限らない話だから。2013-10-30

 鉄道の車輪レール誘導システムで一番肝心な点は何かといえば、それはフランジ角度。
 これについて、ほとんどのモデラーは知らない。簡単に説明しておきたい。題して、

誰も知らない鉄道システムの根幹

 前回書いたように、ゲージング・ポイントって、わりと融通無碍。

 なぜ、そうなるかの根本は、フランジの斜面にある。

 これ、当方は大好きな話題なのだけれど、小難しいことが嫌いな方は読んでいただかなくても一向に構わない。

 というわけで、フランジの持つ基本的な機能の話。
 根元から、先端までの斜面の存在こそが、レール案内システムの根本原理。

 まず、脱線係数という概念。ウィキペディア日本語版の説明が平明。
 次は「ナダルの式」と呼ばれるもの。

 要は、フランジがレールに乗り上がり競り上がり難くするためには、斜面の角度を大きく採るか、摩擦係数を下げればよい。単純な話。

 ただし、このフランジ角度、どんどん大きくしていくと、大変なことになる。例えば、90度だったら、想像するだけでも恐ろしい。

 そう、レールは常に滑らかに繋がっているとは限らない。レールの繋ぎ目に時々、目違いが発生する。また、分岐器のトングレールは、必ず軌間内側に僅かに出ている。
 フランジの斜面、角度には、これをクリアする役目がある。

 それがフィレットというのは勘違い。アメリカの場合は、新品のRが大きいから、そう見えるだけ。後述する。フィリット

 この意味では、角度は緩めの方が良い。

 そして実物は、フランジが摩耗すると、角度は必ず大きくなっていく。それはそうだ。根元がレールに接触するのだから。

 そして、摩耗が進み過ぎると、図の右端のようになる。今はきちんと管理をし、塗油もしているから、こんな極端な形には発展しない。昔の話。
 この角を角点(かくてん)と呼ぶ。発生すると大変に危険。(角点の保守修繕については日本国有鉄道編纂1958年刊「鉄道辞典」下巻p1012を参照)

 実物のフランジ角度は、摩耗と保守の状況、求められる安全のレベルなどを勘案して決める。
 明治時代は確か55度近辺、戦後は長らく約60度、2段リンクの2軸貨車だけ脱線し易くて70度。近年は、旅客車もボルスタレス台車の採用で脱線係数が上昇したのと、塗油の技術が向上したので70度。(蛇足だが、走行速度が低くなると摩擦係数は上がってきて、脱線係数の限界値が下がり脱線し易くなる‥‥)

 斜面の形が日本は直線で、アメリカは曲線。これが若いころから不思議だった。たぶんあちらは、直立摩耗を遅らすための摩耗代という意識。
 NMRA推奨仕様RP-25は、これにこだわり過ぎ。形を真似て、フランジの高さを高くするから角度が大きくなる。すなわち、フランジ角度の重要性を知らないで、フィレットだ、フィレットだと叫んでいる。

 日本の形状は、ライオネルのそれに良く似ている。あちらのスケール・モデラーは嫌いだろうが、理想的。次の写真の車輪と線路は、どちらもMTH製品。

99dsc05785

 肝心なところは斜面。フィレット(喉R:のど・あーる)ではない。アメリカ型鉄道模型大辞典「フィレット」の項を参照してほしい。日本でフィレット教が始まった元凶であるMR誌1967年11月号p45の説明図を見てもらえば、必要なのはフランジ角度だって一目瞭然。この英文が拙いだけだ。
 まさにこの右下の図はピザカッター・フランジじゃないのか。ただし、書いてあることは、全てが出鱈目。

 NMRAの担当者も、MR誌の編集者も、さらにTMSのミキスト執筆者もフランジ角度の重要性というか、存在自体を知らなかったということ。言い換えれば、脱線係数(の限界値)=ナダルの式を知らなかったというお粗末。日米模型界の一大悲劇だ。

 模型だってフランジ角度は、目違い脱線と摩耗が問題ならば緩くしなければならない。
 一方、レール敷設の精度が上がり、車輪が硬くなれば、急傾斜にできる。すなわち、フランジを薄く出来る‥‥。

 疑問を抱かれた場合は、どうかコメントを。

【追記1】アメリカNMRAの車輪踏面形状RP-25で、フランジ高さの先半分が円弧を描いているのは、脱線係数的には意味が無い。先端まで斜面を付けておけば、たとえ車輪が浮いても脱線を防ぐことができる。模型では軸を非可動とすることが多いのだから、これは必須のはずだった。

 RP-25には二つの不幸な状況があったと考えられる。ひとつは、アメリカの実物車輪に直線的な斜面が無いこと。もうひとつは、斜面がハッキリしている形をライオネルなどが採用していたこと。
 特に後者は、ピザカッター・フランジなどと呼ばれて、忌み嫌われる。で、アメリカ型鉄道模型大辞典に項目を立てておいた。

 車輪とレールの関係で、実物と模型は1次の相似。もしタイヤ形状の議論で、摩擦係数、摩耗、脱線係数の用語が出てこなかったり、踏面勾配でスムースに曲がるなどと書いてあったら、眉に唾した方がいい。(「電車はどうして曲がれるのだろうか?」を参照)
 人間は道理だけで動いているのでは無いけれど、物理現象は全てが理屈。ただし、それには安易な想像は通じない。事実を直視し、論理的に追い求めれば、正解は必ず見付かる。また、知見を帰納的に得たのなら、その根拠を絶対に忘れないでほしい。前提が変われば結論も変わるのだから。2013-05-05

【追記2】実物とモデルは異なる、という意見がある。じゃあ、それが具体的に何なのか、説明しなければならない。確かに様々な要素が異なる。その一部について、別稿「モデルが脱線し易い4つの理由」を書いてみた。

 もう一つ、接触応力の問題がある。
 ごく小さい接触面積に大きな力が加われば、その個所の金属組織が破壊されてしまうから、その面積を適度に大きくしなければならない。車輪とレールは曲面と曲面が接触しているから、金属が弾性変形するとしてヘルツ接触応力の考え方を適用する。
 例えば、輪重が増えれば車輪径を大きくするという決まりは、それに則っている。(ヘルツ応力、またはヘルツの接触応力は、この解説や、こちらの説明を参照していただきたい)

 これは、車輪とレールの踏面の話だけれど、フランジの根元に横圧が加わる場合も同じ。すなわち、フランジのノドR=フィレットに較べて、レールの肩Rが極端に小さければ接触応力はグッと大きくなる。だから、実物では同じ程度。レール肩Rが13mmなので、フランジ・ノドRは若干大きい14mmとする。

 じゃあ、モデルはどうなのだろうか。
 計算したことが無いので判らない。また、昔はよくフランジが薄く減ったけれど、近年の製品ではそんなことは無い。材質が硬くなって、摩耗し難くなっているのだろう。
 なお、車輪の材料に使われたポリアセタールは強度が金属よりも低いけれど、ヤング率も小さいので強度的には十分に耐えられる。摩擦係数が小さい面でも優れていたのだけれど、レールが汚れ易い欠点があった。

 ただし、フランジ・ノドRを大きくすることに意味が無いことは、ずっと説明してきた通り。具体的な支障は、分岐器のフランジウエイの幅を決めるときに現れる。

 もし読者の中で、「実物とモデルは異なる」とお考えの方がおられたら、是非、それをお聞かせいただきたい。2013-10-30

【追記3】NMRAのRP-25は2009年版(pdfファイル)が最新となっているが、その前の1986年版が見付かった。大きな違いは、フランジ先端を形作るR2とR3という曲線の中心位置の決め方。2009年版は一義的で、1986年版は任意。すなわち、2009年版ではフランジ角度も一義的に決まってしまい、中にはそれが奇妙な値を採る場合がある。
 前者は"Updated by D.A. Voss"で、後者は"Designed by Olesen, Mortimer and Bradley"だから、一義化したのはVoss氏=混迷化させた張本人(笑)2014-01-31

Nmra_rp25

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コメント

> 特に後者は、ピザカッター・フランジなどと呼ばれて、忌み嫌われる。で、アメリカ型鉄道模型大辞典に項目を立てておいた。

ピザカッターフランジの項目ができたのかな、と思って見に行ったのですが、ないですね。残念。

私の聞いた話では、ピザカッターフランジで、子供の頃手を切ったことのある人が多かったから、「ありゃオモチャだ」となったって話。最近だと、オモチャだからこそ安全にでしょうが、昔のティンプレートのは確かに、ピザが切れそうなフランジのもありますからね。

>>指を切ったという話は揶揄、というか都市伝説ですね。そうでなければ、Nゲージャーなんて血だらけ(笑)
 当方が言いたいのは、斜面の長さ。項目は、「ひ」のページの下から8番目です【ワークスK】

投稿: 稲葉 清高 | 2013/11/09 12:59

えらく古い話へのコメントですが...

2009 年版の RP25 ってどうにかしてよー、って話はいろいろ出てきますが、図だけの問題ではないです。(先週のコンベンションで RP25 の話をしてて発見した)

注釈の 3 が 1997 年版 (おそらくそれ以前も) では "Dimensions T and W are measured at the Gaging Point P which approximates the point of tangency between R1 and R2." なのに対して、2009 年版では "T and W are measured at the Gaging Point P which is the point of tangency between R1 and R2 and the point of crossing of R2 with the inside of the wheel." となっています。

1997 年版は規格なのに (注釈だとはいえ) approximates を使うことで、逆に事実を正しく伝えていますが、2009 年版は厳密にしようとしてなのか、二つの由来が違う点の定義が同一点になるかのような書き方をしています。
まあ、数学用語の "point of tangency (接点)" を between と一緒に使うと誤解しやすい、ってのもわかるけど...
注釈の他のところにも改悪点があるし、モーティマーさんの目が届かなくなってから、ここの規格委員会って、どうなったんだろう。

>>向こうの連中も問題点が分かってきたと思われるのに2009年版のままですね。不思議です。NMRAに人材がいないのでしょうか【ワークスK】

投稿: 稲葉 清高 | 2018/08/22 13:18

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