土橋和雄氏の叡山電鉄900型きらら
とある場所で、土橋和雄氏の作品、叡山電鉄“きらら”を見せていただいた。
実物は1997年(平成9年)に製造されて、京都の洛北、出町柳・鞍馬間で活躍している2両連結の電車で、正式には900型という。モデルは、新車の登場に併せて配布された1/80のペーパークラフトをそのまま1/45、すなわち1.78倍に拡大コピーして、パンタを付け、モーターを仕込んで可動化したものである。
実をいうと、この模型は以前から拝見していて、パッパッと組み立てられた単純な構造なのだろうとタカを括っていた。
ところが、手に取ってツブサに弄ってみて驚い た。なんと“ボルスタレス台車”だったのだ。もちろん、機能を忠実になぞっているわけではないのだけれど、原理は紛れもなくボルスタレス台車だ。金属コイルバネを使っているので、国鉄のEF62と一緒といえる。なお、実車のきらら自体は普通の台車である。
要は、バネの緩衝作用を上下だけではなくて、左右にも利用し、さらにボギー中心周りの回転に対しても利かしているところに特徴がある。ボギー回転には適用せずに、左右だけとした実車が、東急の5000系、青ガエルである。すなわち、基本的には複雑な揺れ枕装置の置き換えといえる。
上の写真にはリン青銅のコイルバネが2つ見える。この上が車体側、下が台車側で、それぞれボスに填まり込んでいる。また、台車左右の側梁を繋いでいるボルスターには長孔があけてあって、そこに回転中心となるピンが通してある。この辺りが実物と異なる。このピンは、牽引力を伝える役目をする。台車が左右に動くと、2つのバネがヒシャげる。また回転の時、すなわちカーブでもバネがヒシャげる。
ということは、バネが強すぎると、台車が回転し難いことになり、脱線を起こし易くなる。これが欠点。だから、バネは十分に柔らかくしたい。実物では空気バネが多用される所以である。
モデルでは適当なものの入手がなかなか困難で、この作品でも少し強すぎる。そのためか、ウエイトが追加されている。
まあ、ボルスタレス方式とするのは極端としても、いつまでも左右方向の緩衝を吊リンク式に頼っていないで、これと同じコイルバネの左右方向の弾性を利用したモデルが出現しても良い頃だとは思う。ちなみに、この弾性を横剛性という。
で、しげしげとモデルを観察していたら、作者に「持って帰れ」といわれてしまった。完成からだいぶ経過して、集電ブラシが不調となり、カラーコピーを貼り付けた車体もアチコチにホコロビが出てきた。それを修理せよということのようだ。当方が実車や型紙に関わったことを御存じなので、なんとかするはずという魂胆なのだろう。
なお、駆動装置はパンタ付車の各台車1軸に吊り掛け式のスポーク車輪を奢り、台車側枠は1mm厚のブラスを切り抜いて、その上にコピー紙が貼ってあるというウィットに富んだ構造。車体は、厚紙の下地にコピー紙が貼ってある。また、裾にはアルミのチャンネル材を接着して補強、床板の取付ベースとされている。パンタはヨーロッパ製らしい強固なもの。
ところで“きらら”は、Nゲージではカトーから発売されているものの、HOゲージでは一度、TMS誌に登場した程度。人気があるのに作られないのは、この複雑な車体形状と大きな窓が仇となっているのだろう。その点、この土橋氏のOゲージ・モデルは的を射た構造といえる。
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