国鉄ED14にまつわる大いなる謎(2)
写真はウィキペディア日本語版から引用 メーカー写真?
大いなる謎として、皆さんにも御助言いただいたのだけれど、どうしても核心に辿り着けない。
そしてミッキーさんには電気機関車の図面を送っていただいた。1929年、日本車輛/東洋電機が田口鉄道向けに製造したデキ53である。ED14のようなアーティキュレーテッド式では無くて、スイベル式なのだが、謎は一緒。
残念ながら、これをつぶさに点検しても、特殊な構造は何も発見できない。
そんな中、あちこちの文献を読んでいて、一つの仮説を思い付いた。【画像はクリックで拡大】
■まず、心皿と側受の構造と機能を知っていただきたい。
次の図は、北山敏和氏がアップされている田中隆三著「電気機関車読本」からの引用。型式はEF58だけれど、この関係は同じ。
心皿(しんざら)は、車体側が切り株のような凸型をしていて、「上心皿」。
台車側は、窪んだ凹型で、「下心皿」。
で、両者がスポッと嵌まり込んでいて、ここで車体の重量を受けると共にボギー回転を行う。モデルでは「中心ピン」と呼ぶ。
EF58はアーティキュレーテッド式なので心皿で牽引力を伝えない(もちろん、原理的に)が、デキ53はスイベル式なので、ここで伝える。
次に側受(がわうけ)。
枕梁から下方向へ2本、ニョキッと出ている。これで左右(枕木)方向の車体ローリングを止める。
ここで重要な点は、この側受が無い心皿だけの状態では、【線路状態によっては】車体が傾いてしまうということ。だから側受がある。
なお、車体重量は全て心皿が受け持って、側受はノーギャップ・ノーロードが基本。すなわち、平坦直線のピットでの調整は、隙間が無いようにせよ。しかし、荷重は掛けるな、ということ。
ここから類推すれば、心皿が平らでも、前後(レール)方向の車体ピッチングは起こりうる、という結論が導ける。これがmoha3000さんへのお答え。これをご理解いただけないと、先へは進めない。
それとモデルでは常識となっている、上下が離れ離れにならないようにという、ボルト類が無い点に注意。さらに、左右方向への緩衝機構が無い。すなわち、吊リンクのタグイが備わっていないことも確認していただきたい。これで100km/hほどで走行していたのだから驚く。蒸機も一緒だけれど、乗務員は前を向いているから耐えられるのかも。
■次は、ミッキーさんに送っていただいた田口鉄道向けデキ53の組立図。まあ、この程度の引用だったら、日本車輌も許してくれるだろう。
側面図、正面図と平面図の関係は、モデラーならご理解いただける。
心皿と側受の位置にマーキングをしているのもOKのはず。正面図の心皿と、平面図の側受は、大凡のところに印。
これで、デ53が、EF58と基本的には同じ構成だといいたいわけ。EF58は中間荷重受なんかが付属していて複雑だけれど、基本は一緒。
これを眺め回しても、台車枠がコケるのを防ぐ特殊な構造はどこにも見つからない。ただ、側受はローラー付。
このなかで、唯一、台車枠が前後方向に傾くのを阻止している機械要素が平心皿。
その直径が、小さければ傾きやすいし、大きければ傾き難い。
寸法の記入が無いけれど、付近の実寸を参考に測ってみると"320mm"と出た。なお、側受も一応は機能しそうだけれど、荷重が掛かっていない。
で、前述の「電気機関車読本」を見て欲しい。EF58は"255mm"。
なんと、軽いはずのデキ53の方が25%も大きい。さらに前記事でのmoha3000さんに拠れば旧型客車が250mmとのこと。ただ“外径”と書かれているところが気になるけれど。
手持ちの国鉄の図面から類推すると、TR41もTR60も約250mmということで、この数字が“魔法の寸法”だったのではなかろうか。
というのが仮説。
ED14も大きいはず。近江鉄道で分解検査をするときには、是非飛んで行って測りたいものだ。読者の皆さんも、心皿径が分かる図をお持ちならば、是非、その数値をお教え願いたい。どんな車でも構わない。
■さて、電気機関車読本。このEF58についての説明で、心皿箱云々のところが意味不明。この文章を読み解けたなら驚愕。
うまい具合にpiyo-sanさんがお持ちの機芸出版社の本に、EF15の片方の下心皿が前後55mm摺動すると書いてあるという。これを理解されているのなら話が早い。最新電気機関車工学上巻の添付図を加工してお見せする。
この画を作るのが大変で手間取ってしまった。ただし、この構造自体は今回の謎と関係が無さそう。
■以上で、台車枠傾き問題は解決! というのは早計。もう少し考えてみたい。
■宮崎繁幹さんにお教えいただいて、最新電気機関車工学の下巻を入手した。これで上下2巻が揃って理論武装は完璧(笑)
【追記1】稲葉清高さんより送っていただいた「EF15/58の下回りの説明のページ」p12-13では、下心皿には塵除けのカバーが付いていた。当方の参考とした最新電気機関車工学の該当型式はEF56なので、設計変更されているようだ。SHIN企画1995年刊「資料旧型電機の下まわり」2,330円という書籍だろうか。2014-08-02
【追記2】宮崎繁幹さんに「電気機関車名称図解」昭和28年(1953年)通文閣刊p124に掲載の心皿装置図を送っていただいた。残念ながら、ここに掲載したものと一緒だったが、当方はスケールを合わせるのに四苦八苦したのに対し、こちらは相互にソコソコ近い縮尺である上に画像も鮮明で、最初からいただいていれば苦労しなかったのにと残念でならない。2014-08-03
【追記3】昨夜、夢を見た。工場で台車を組み上げて、車体を載せようとする場面。ここでハッとして目が覚めた(ちょいと嘘くさい:笑) 例の2本支点の件。ネコ・パブリッシングの本にあるやつ。"さ"さんのコメントを乞う参照。
こりゃあ、台車単体時に台車枠がコケないためのアイデアだ!
同じイコライザー方式を採用しているのは、国鉄ではED10。私鉄では、東武ED4020(新造時)、西武E21、小田急ED1010、岳南ED291、豊橋デキ451(元田口デキ53)、名鉄デキ400とデキ500、近鉄デ21(狭軌時代)を数える。この中で2本支点はED14だけ……。他は、軸箱と台車枠の間に木片を噛まして作業? 2018-02-26
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コメント
moha3000です。
まず申し上げておきたいのですが、私は"心皿は傾きを積極的に抑制する構造である"とは考えていません。
乗っているだけなので、たとえば排障器の位置で1~2cmくらいの変動(ガタつき?)はあってもおかしくないだろうと思います。
また側受があるのはご指摘のとおりで理解しています。
しかし心皿は平面であり、あえて傾きに対応しているようでもなく、これがなぜなのか明快にわからないのです。
側受ですが、「私有貨車図鑑」のコラムによると、TR41は12mmのスキマがあったようです。
「旧型電機の下まわり」には、EF58/15の主台車ではクリアランスを5mm強に調整するとの記述があります。
スキマを設けておく事例もあるようで、少なくとも静止状態では心皿の平面だけで安定させているように思われます。
なお旧型客車の心皿は、荷重を受けるライナーがリング状(内径104mm)なので、外径と書いたものです。
(リング状なのに図面での名称が"ライナー"・・・)
>>様々な情報をありがとうございます。当方には実車の計画と運用の経験があるものの、それは時代的にも車種的にも限定的なので、大変に参考になります。またよろしくお願いします【ワークスK】
投稿: moha3000 | 2014/08/07 10:54
デイテールファイル20に載ってます。SLの例などなど疑い無くここを見ています。
>>画像をありがとうございました。「鉄道車輌ディテールファイル20 ED11とED14」ですね。この構造について、当方以前の指摘を見たことが無いのですけれど、二十歳の若造が気付いたくらいなのですから……(笑)
それと、イコライザー中央の2つの支点が不思議です。台車枠の姿勢維持には、この間隔よりも心皿径の方が遥かに大きいし、ピン穴が摩滅したときに修繕と調整をどうするのか、悩みます。“謎”が増えてしまいました【ワークスK】>>追記3へ続く。2018-02-16
投稿: さ | 2017/01/22 09:22